2人のプリンセスは秘密の誓いを立てました。
扉の先にはまるでオペ前の外科医のようなたたずまいのお嬢様方がいた。
「これ…一体どういう」
こと、と扉を開けた金鳳君に訊こうとすると、彼はもう廊下に出ていた。
「詳しいことは6人から聞いてね!俺これから劇の準備に行かなきゃだから!」
顔にはありありと『巻き込まれたくない』という表情をしながら金鳳君は颯爽と去っていき、残ったのは取り残された私と不敵に笑う6人。
「あの、桃華?」
「この時を…この時をずっと待っていたんだから!!」
疑問に対していつものように答えになっていないことが返ってきたものの、取り敢えず桃華、待っていたって何?
「何のこと?」
「今まで散々追いかけてたけど、今日は6対1に加えこの辺りは誰も近づいてこない。つまり!」
まるで桃の姫をさらったかの料理名のキャラのような不気味な顔で徐々に徐々に桃華が近づいてくる。
「も、桃華さん?」
「今なら優美ちゃんを好き放題できる!」
その言い方誤解を招くから!何か色々と身の危険を感じるんだけど!!
「先輩方、助けてくださいませんか?」
桃華の侵略に逆らえず扉の辺りにいるユリア様達に声をかけたものの、彼女達もまぶしいキラキラ笑顔でNOマークを出した。
「あら?随分前にも言ったでしょ?優美さんに女子力足りないって」
「それは半年くらい前から聞いてますが…」
「桃華さんから聞いたわ、一度化粧をしたことあるならそこまで抵抗はないはずね」
「劇としてならとがめられることもないし」
「さて…」
ふふふ、と不敵に笑う彼女達を見て私は自分の死期を悟った。
「出来た!!」
「良い感じね」
6人に、というか主に桃華に色々着飾られた結果、前まで着られている風にしか着こなせなかったドレスが、身の丈に合うまでになった。
さすがに傾国の美女とかは無理だけど、あの物語の主人公としては、相応しいくらいにはなったと思う。
「やっぱり、優美ちゃん流石だよ!」
「ええ、可愛らしい感じになったわ」
「これなら誰にも文句は言わせられないね!」
「……とても、綺麗」
「私達が惚れ込んだ優美なんだから当たり前!」
「皆総出で頑張った甲斐がありました」
「えっと、皆さん、ありがとうございます」
顔は前に増して目がぱっちりした優しめの可愛らしい子になり、髪は艶出しされた上に綺麗にドレスにかかっている。ドレスは私や演劇部の方々と一緒に作ったもので、水色のAラインの型で、大きなリボンが腰回りについているのと少しある袖に水色のレースがかかっているのが特徴だ。正直作っているときこんなドレスが似合うのかと一人悶々としていたが、そこまで野次を浴びることはなさそうだ。
ただ、着せてもらっている間至る所から
「次アイライン引くから目閉じてて!」
「話してるとうまく口紅塗れないでしょ!」
「そんな硬い表情じゃあ頬突っ張っちゃうでしょ!」
と、とってもとっても怖かったです…
「やっぱりとってもかわいいよ優美ちゃん!」
ピースと言いながら制服姿で私と写真を撮る桃華は、撮るだけ撮ってすぐ自分の支度に取り掛かっていた。
会長さん達も準備をしているが私の時ほどではなく、桃華が自分ではできないドレスの着付けを手伝ったり小物を用意するくらいのものだ。
「桃華って化粧うまいよねー、今度教えてほしいくらい!」
「もちろんいいですよ!私も今度撫子先輩に髪のアレンジ教えてもらいたいです!」
「じゃ後で計画立てよ!」
キャッキャッと騒ぐ声はJKなのに手つきは職人並みの速さであっという間に準備を終えてしまった。正直今まで閉じてた分の反動もあってか開いた口がふさがらず、椿先輩に
「顔、変」
と言われてしまうほどだった。
桃華は悪役ということもあってか元々ぱっちりした目を筆を駆使して綺麗なアーモンドアイにしており、髪はアイロンでゆるふわパーマをかけている。ドレスは紫を基調とした同じAラインの型で、胸元や裾の至る所に同じ色の花のコサージュが散りばめられている。
紫のコッテコテのこのドレスをここまで着こなせるのも正直桃華の元の良さが出ている感じがして、正直思った。
私このドレスじゃなくて良かった。
「それじゃあ私達は小林君と合流して男性陣の方の仕上げを手伝ってくるわ」
「頑張って見せびらかしてよ!」
「カメラ待機してる」
「自信持っていいわ!今日の2人は誰より綺麗!私が保証する!」
「あぁ、大輔様のお着換えを手伝えるなんてっ…」
「ありがとうございます」
「楽しみにしててください!!」
そう言葉を交わし終わった後、嵐のように会長様方は去っていった。
…柘植先輩劇始まる前から大変だなあ。
「優美ちゃん」
「いきなりどうしたの?」
先輩方を見送ると、桃華が真剣なまなざしでこちらを見ていて、思わずたたずまいを直してしまう。といっても先ほど綺麗に整えられたばかりで直すところもないけど。
「いよいよだね、本番」
「…うん」
「私、ずっと優美ちゃんのことを信じてたし、これからも信じてる」
「それは感じてるよ」
「ただ、劇の間だけは、劇の成功を祈らせて。劇の間だけは、ヒロイン(ゆみちゃん)のことを憎ませて」
「…分かった。私も桃華のことを信じてるけど、今だけは劇の成功と自分の役を信じる」
そして二人でにっこり笑い、本番ステージへと足を向けた。