事情聴取という名の現実逃避です。
あの後、何事かと他の生徒がやってくる前に3人で生徒会室に向かい、睡蓮君は生徒会室にいた金鳳君と柘植先輩に預け、私と志穂は生徒会準備室に入って話し合うことにした。
正直あの睡蓮君を放置してて何とかなるなんてことは思ってないが、それでも志穂の話を聞くのが先だもの。
2人には悪いけれど、危害は加えないだろうし、少し見張りを頼んでも大丈夫だろう。
……恨みがましい目されたから、後で何か差し入れよう。
志穂はここに来る道中も今も呆然とした顔をして、何も話さない。
正直、このまま黙っていても仕方ないし、取り敢えず席に着くには着いたからこっちから事情を聴こう。
「あの、志穂…」
「どうして…?」
「え?」
ずっと黙っていた志穂は急に口を開いて疑問をこぼすと、私の方を悲しそうに見た。
「どうして自分で落ちたの?もしかして落とされるって分かってて私についてきたの?」
「………うん、全部知ってた。今までのことも全部知ってた」
「なんで?階段から落とされるんだよ?下手したら怪我どころじゃすまないかもしれないんだよ?なのになんでついてきたの…?ついてこなかったらわざわざこんなことになんて」
「もうケリをつける時かなって思ったから、かな」
矢継ぎ早に質問する志穂の疑問に私は静かに答えた。
「先輩方はこの文化祭のしばらく後には生徒会を引退されるから。その前に終わらせて要らない心配を先輩方にさせたくなかったから」
「でも明日には劇が…」
「あるね。でもここで志穂を避けても問題解決にはならない。一応怪我はしないようにと思って5段残ったところにはしたんだけど、睡蓮君が来たのは予想外だったよ。おかげで後が怖いな」
隣からガンガン聞こえる音を無視して率直に言った。
ここで志穂から逃げたところでこれが無くなるわけじゃない。ならせめて怜様達が引退された後に発覚して心を痛められるより今大きくなる前に根を摘み取っておきたかった。
「そう、なのね」
さっきまでの勢いを無くし、静かになった志穂に問いかける。
「やっぱり、今までのは全部志穂が?」
「うん、そう私がやったの」
「最初は椅子の上のだったよね」
「そう。その後すぐに謝ったけれど、やっぱり私は気が収まらなかった。なんでこんな子が生徒会にいるんだろうって。思うと自分を止められなかった…」
「ロッカーに油性ペンで書き込んでたのも志穂だよね?」
「うん、放課後だれもいなくなってから机だと流石に書いたらすぐにばれると思ってロッカーの扉の裏に書いた」
「体育祭の時私の足をわざと踏んで痛めつけたのも志穂だよね」
「そう、わざと優美ちゃんと同じ種目になってリレーに出れないようにしようと思って。まさか出ちゃうなんて思ってなかったけど…」
「そして衣装を破いて…」
「うん。演劇部の子達には本当に迷惑かけたと思う。優美ちゃんに容疑がかかって生徒会に居づらくなればいいのに、って思って」
「んで池に落としたのね」
「うん。ここまで来たら実力行使しかないと思ったから。人が来て思ったより勢いがつけれなかったんだけどね。ガラス片は私の顔が水面に反射しても見えないようにしようとおもって、終わったらすぐ回収できるようにできるだけ土近くにおいて。鯉は人間が落ちたらその辺には近づいては来ないだろうから、一応餌だけガラスから遠ざけるように撒いて注意はしてたの」
「んで、結局それでもいつも通りだったから最後は階段、ね」
「まさか背中を押す前に優美ちゃんが飛び降りるなんて思ってなかった。一応せめて悪くても骨折ぐらいで済みそうなあたりで押そうと思って」
「そっか…」
志穂から経緯を聞いて思わず嘆息した。
予想はしていたとはいえ、あのころから続いていたと思うと驚くものがあるや。
「いつから私がやってたって気付いてたの?」
「ロッカーの字でなんとなく分かってた、あとはこれが仮に同一人物だとして、もうできるのは志穂くらいだろうなって分かったんだよね。最後の方はここまでするとは思ってなかったけど」
苦笑まじりに呟く私に、志穂はわずかに言葉をこらえた後目線を宙に逸らし、そう、と呟いた。
取り敢えず志穂の方の事情聴取は終わった。
…というか、終わってしまった。
うん、あんまり今長くやったところでっていうのもあるし、これくらいの時間かけたら、少しはあっちも落ち着いている、はず。
ガッシャンガッシャン言ってるけど大丈夫な、はず。
いじめてた志穂より助けてくれた睡蓮君の方が怖いなんておかしいとは思うけど、まあ怖いものは怖いのだからどうしようもない。先延ばしにして金鳳君と柘植先輩の怖さが増す前に行かないと。
詳しいことは、私と怜様や小林先輩がいる時のほうがいいだろうし。
うん、一難去ってまた一難ってこういうことかと身をもって感じてるよ…