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うごきだす  作者: 木下秋
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半分本当の半フィクション作品です。10月期のテーマ短編のテーマが『であい』だったので、当時おまけとして書いたものです。私、木下秋の小説仲間である憂木冷くんとの出逢い、一緒に小説を書くきっかけになった日の事を書いています。内輪ネタだと思われてしまうかもしれないので初めに謝っておきます。ごめんなさい。ただ、自分的には人生が変わったと言ってもいい程の出来事だったのでどうしても書いておきたかったのです。

 夏の終わりのある日のことだった。


 クーラーの効いた部屋で十時間近い睡眠をとったおれは心地よく目を覚ました。

 壁にかかっている時計に目を向けると、全ての針が上の方を指している。秒針まで。

 エンギがいいな、なんて下らない事を考えながら体を起こす。


 リビングに行くと母がいて、おれが気だるげに「おはよう」と声をかけると、母はこちらを向かずに「もう昼」とだけ言った。静かな怒りのこもったような声だった。

 夏休みに入ってから毎日のように繰り返しているやりとりだから特に返事もせず、冷蔵庫から麦茶を出して、透明のガラスのコップにそそいだ。

 麦茶の入ったコップを持って自分の部屋に戻ろうとすると、キッチンに置いてあったクリームパンを見つけたので一つ、そっと頂戴した。そそくさとリビングを出る。


 部屋に戻ってカーテンを開けると、陽の光が部屋に差して一気に室温が上がった気がした。この様子だと昨日一日中降り続いた雨の湿気もカラッと乾いているだろうと思う。窓を開けて確認はしないけど。ずっと見ていたら目まで焼けそうな、いい天気だ。

 テレビをつけてベッドに腰をかけ、クリームパンの入った袋を開ける。一口かじると、ふわっとした生地、とろりとしたクリームが口の中で濃厚に混ざり合い、舌に絡んだ。甘ったるい香りが鼻孔を通り抜ける。

 うまい! おれは甘いものが大好きだ。パフェとか、女子にひかれようとも構わず頼んでしまう。しかし……クリームパンは喉が渇く。

 麦茶を飲もうとテーブルに目をやると、光が当たってコップに茶色くて透明な影がゆらゆらゆれていた。

 少し見惚れて、でも影の美しさより喉の渇きの方が勝って、俺は麦茶を飲んだ。

 茶色くて透明な影は半分になった。


 その後は昨日録ったバラエティ番組を見たりして過ごし、バイトまでの残り時間が三時間を切った所で映画を見た。『フォレスト・ガンプ/一期一会』。

 題名だけは聞いたことがあったけど、見たことはなかった。

 映画好きのバイトの同僚がやたら勧めてくるので、某有名レンタル屋さんで借りてきたのだ。

 内容についてはあえて触れないけど、結論から言うと、いい映画だった。

 だけどおれは泣けなかった。感動作だと聞いていたし、おれは涙もろい方だ。

 思うに、演出や登場人物の心情について考えながら見てしまったからかもしれない。

 

 突然だが、おれは小説家になるのが夢だ。

 だから最近は映画や漫画を見ても「これはどうしておもしろいのか」とか考えながら見るようにしている。

 つまり……まぁ、泣けなかったっていうのもこうゆう理由からだったのかもしれない。

 なんだか少しもったいない事をしてしまったかな、と思った。でも本当にいい映画だったから、いつかもう一回見よう。

 今度は頭ん中を空っぽにして。


 気付くとバイトまでもう時間がない。残っていた麦茶を飲みほして、シャワーを浴びた。髪が濡れているけど、仕方が無い。

 おれはいっつもこうなんだ……。何に関してもギリギリにならないとやらない。テストとかも直前に詰め込むタイプ。

 外に出ると、蝉の声がジンジン響いていた。ひぐらしの声だ。

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