表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の流れ  作者: 魔法使い
1/3

繰り返す後悔

初めまして、魔法使いです。更新は善処しますが、テストと課題によります。

 

「はぁー・・。今日もダラダラ過ごしましょうかね、っと」


 誰も居ない文学研究部___通称文研部に俺の気のぬけた声が虚しく響く。

 横では無く縦に積まれた小説。それに混じって散乱する先輩が残して行った様々な負の遺物。日光が当たらない為、気温が低く、いつも陰気な雰囲気を纏った狭い空間。夏は比較的涼しいが湿度が非常に高い。

 そんなろくでもない場所で放課後を過ごすのが、俺の楽しみだった。


「ま、残念なことに過去形なんだけど」


そう呟いて、数ある椅子の中で自分の指定席となっているグレーの椅子に腰掛け、ネットにすら繋がっていない、部唯一のローカルなパソコンを起動させる。

 我が部は各各座る椅子が決まっていた。それが残念なことに1年経ち、先輩が卒業したらまともな部員は俺しか残らなかった。理解して入部したのだから仕方の無いことなのだが、この過疎状態は何が原因かと言われたら___


「・・・時代だろ。こうならないよう、初詣に祈ったんだけどな。・・やっぱ、駄目か」


 新年に雪が俺の貴重な熱エネルギーを強奪する中、炬燵という魔力を備えた安全地帯から抜け出し、嫌々ながらも僅かな気力を振り絞って近所の神社に行ったのだが、あるのは振り袖とリア充と親子のみ。だからこそ『青春したい』と財布に唯一残っていた一円を入れて願った。部の存続と己のリア充化を目指して。

なお『願いが不純すぎる』とか『お賽銭舐めてるのか』と言った苦情は受け付けない。仕方ないじゃ無いか。リア充は全人類の羨望と嫉妬の対象だし、財布に残っていたのは諭吉と製造に二円かかるアルミ硬貨だけだったのだから。諭吉を入れろとでも言うのか。



「さて、今日は異世界モノの続きでも書こうか」


 やっと立ち上がったパソコンに保存してある、狂った異世界物を読み返していく。

 『現実と真実』と言うタイトルのみでは全く内容が分からない話のあらすじは要約すると、『どんな手を使っても元の世界に戻る異世界人が手を尽くす』である。縮めすぎて分かんないだろうが、勇者も都合も考慮されずに勝手に呼び出されたらさっさと帰ろうと思うだろう。

 俺は『勝手にやってろ。さっさと戻せ』と思う。

 そもそも、異世界モノはチート性能な主人公だったりするのだが、周りを不幸にする系統の、例えば無差別に毒をばらまく、能力だった場合どうするのか。

次に協力してもらえない時は?勿論帰還を盾に迫るのだろうが、相手側に駆け込んで人間を滅ぼせば一件落着であるし、チート能力があるならトップを人質にとれば解決だ。

 さらに、どれ程強くてもたかが一人。確かに『異世界から我々を助ける為に勇者が来た』と公表したら士気は上がるだろう。活躍したら尚更だ。しかし所詮一人。項羽のように倒せば良いし、軟弱な貴族を『協力すれば命と財産、さらに地位を約束しよう』とでも唆して勇者を暗殺すればもっと楽。勇者の性格にもよるが、帰還をエサに引き抜くと言う手もある。

 さらに、国の命運を一人に任せる。それはつまり、そいつを派閥に組み込めれば発言力は増すと言うことである。勇者を喚んだことにより派閥争いで国が割れ、現代日本のようにマトモに戦えなくなるかもしれない。

ぱっと思い浮かぶだけでこれだけの問題点がある召喚だ。今作でも苦労した。だから、


「あなた方には表向きは勇者として、振る舞ってもらいます」

「命令に逆らえない仕掛けをよういしておいて、何が勇者だ。剣闘士の間違いだろ。そっちは使いつぶせる兵を無料で手に入れたも同然。こっちにメリットは無いね。やってられるか」

「頑張ればそれだけ帰還が早まるのです。そもそも何故メリットをあなた方の為に用意せねばならないのです?生き残りたければ我々の代わりに戦い、打ち破るしか道はありません」


 このように、異世界人の人権を殆ど無くした。これで能力無しにすれば上記の問題はクリアだ。


 さて、あなたは宇宙人を知っているだろうか?存在うんぬんは兎も角、知らない人は居ないだろう。大抵が人の形で連想されるそれは、地球では生死問わずの『研究対象』でしか無い。勿論人権など無いのである。遠くからはるばる来たというのに、哀れ宇宙人。それが原因で人類滅亡にならないことを祈りたい。

 宇宙人の例をもっと分かりやすくしてみよう。国会の前に空からホモサピエンスに非常に似た生物が来て、『ムー大陸から来ました』と言ったらどうか?まずカウンセラーか警察に直行だろう。裏で解剖されるかもしれない。

では、異世界人はどうだろうか?

 相手が意識して召喚したのだから解剖ルートはないだろうが、未確認異世界生物、通称勇者の動向を制御できる自信があるなら自由を与えなくても良い。よって剣闘士扱いだ。


 と、此処まで読み直して椅子の背に体を預ける。


「はぁー・・・。こんなの書いているから変人扱いされんだろうな。だがしかし!最近の異世界モノなんて反逆や暗殺が多いんだから、流行の最先端なんだっ!」


 思わず出てしまった溜め息を無かったことにする為、無駄に意気込んでみたが、孤独な部室の中では余計に空しさが募るだけだった。


「・・・そして、こんな事やってるから成績も伸びないし、文字を書く部員は俺一人なんだろうな」


 担任から渡された手の平サイズの成績表を思い出す。

 『皆が幸福な世界』を望んだことがあるかも知れない。みんなが一位でみんなが幸せ。けれど現代では幻想だと歳を取るごとに気付いてゆく。何故なら世界が成り立たないからだ。

 例えば欲しいものを持ち主に何も言わず取っていく。欲を満たされたのだから幸福だろう。しかし取られた方は幸福とは言い難い。

 例えば殺しこそが幸福と考える人も居る。だが幸福の為だからと言ってそう簡単に死ぬわけにはいかない。死んだら特殊な人間でも無い限り幸福では無いだろう。

 人間に個性がある以上、幸福は様々な形がある。それを『幸福とはこうである。』と決めつけた場合、外から見れば酷く不気味な催眠集団にしか見えないだろう。しかしそうでもしないと皆が幸福なんてあるはずがない。世界は全て偏っているのだから。身体能力、学力、環境、財産、権力、立場、容姿、勿論幸福も。

 ある程度は努力や他者の助け等で変化するが、『ある程度』でしか無い。故に公平はあっても平等は有り得ない。もし平等が有り得るのならば、誰だって努力なんて面倒で辛いことをしない。欲望を満たす努力をしなくなるため、当然伸びはしないのだ。皆で頑張るなんて一部例外を除いて有るわけ無い。どんな組織でも腐ったモノは必ずと言って良い程存在するのだから。

 だから、同じく総量が決まっている部員が偏るのも必然だし、廃部になるのも仕方の無いことだ。時が流れれば衰えるのだから、盛者必衰とは良く言ったものだな。ちなみに栄えた記憶はない。

 そんな毒にしかならないことを考えながら、成績表を戻して再びパソコンに向かう。


「さて、ラストで詰まっていたんだよな。どうしたもんか。・・・ハッピーエンドって嫌いなんだよな。痛み分けとかじゃなくて一方に幸せが偏るから。もっと、こう・・・。新しくて誰にも先を読まれない物が書きたいんだよなぁ」


 最近はテンプレキャラにひねりの無いストーリーで面白味が無い。

どうせ主人公は俺がモデルなんだ。とことんまで最悪にしよう。


「どうして民を殺すのです!?何故無関係な人間を巻き込むのです!?」


____犠牲(勇者)によって保たれていた平和を、当然のモノと受け入れていた愚か者が、赤く、紅く、燃える。


「その言葉、そっくりそのまま返してやる。どうして俺達を見殺しにした?何故俺達を巻き込んだ?その答えは、お前も持っているだろう。『必要だったから』。それだけだ」


____生け贄(勇者)に守られていた美しい白堊の都市は、薄汚れた瓦礫の海に姿を変える。


「この世に実行できてやってはいけないモノなんて存在しない。強盗だろうと殺人だろうとな。それを『害があるから』と禁止するのが法律だ。だが、そんなの良心や常識と同じようなモノでしか無い。強盗や殺人は本人にとって『必要』だから。やってはいけない、捕まったらどうしよう、なんて懸念はあるだろうが、罰を超える利益があると判断すれば、やる奴は結局やるんだよ。それと同じ。俺が相手を越える戦力を持っていて、常識が他人と違う方向だったら、こうなるのも不思議なことじゃないだろ?・・・・俺はいつだって確信犯だ。良心なんて痛まない」

 そう言ってここに来た時と変わらない笑みを浮かべる。

 今大切なのは自分の弱みを見せないこと。

 良心が痛まなくても、知り合いが泣いている。友人が焼けている。話したことのある人が死んでいる。そんな情景を見たら動揺するし、失いたくないと思ってしまう。

 傷つかない人間なんていない。要はどれだけ上手く隠し通せるかだ。

 この女は間違いなくその隙間(心の弱さ)につけ込むだろう。

 『何故』、『どうして』と問い詰めるのも罪悪感を沸き立たせ、俺を押さえ込む為でしか無い。

・・・・・・・・・





「終わったっ!!!難産だったな、今回」


 只でさえ日光の射さない部室を、人口の光が冷たく照らす。

 冬だって言うのに暖房すら無いとはどういうことだ。手が冷たいから書きにくいったらありゃしない。暖房器具とネット環境を要求する。

 叶いもしない事を望みながら、この椅子にしか無い背もたれに体に預け、溜め息を吐きながら目を閉じた。

 思い出すのは後悔にまみれた思い出。


 何も分からずに、選択の余地無しで呼び出された暗い部屋


 恐らく美しかっただろう、煤と何かは想像したくない紅い液体による薄汚れた、ボロボロの城下町


 無駄に頼りになった愚かな仲間達


 世界を救うなんて高尚な考えで行動していた訳では無い。上から不本意ながら命じられた『世界救済』をやる気満々で承ったつもりも無い。ただ必要に迫られて行動していたのだが、あの時は一応勇者だった。勇んだのでも無く、やりたいと言ったわけでも無いのだが・・・

 あくどい商売でうざったい世紀末なエセ商人を騙して合法的に全財産奪い取ったなぁ。懐かしいものだ。

 だが、目的を達成したと上が判断してから奴らは表立って行動を起こし始めた。


 仲間は無知で愚かな民衆の暴動で散り散りとなり、封印されてしまった。

 貴族は力を持っていた俺を庇った王女に対し反旗を翻し、俺に対して排斥活動を開始する。どうせ俺を危険視したんだろう。勝手に呼び出して命掛けさせた挙句に敵対なんて、勝手過ぎる。


 俺が最後にその世界で見たのは自らのいのちで俺を元の世界に返した王女の姿。



・・・・・目を開ける______


 力が足りなかったのか。意志が足りなかったのか。知恵が足りなかったのか。


「きっと全てだろうな。」


 あの世界の俺の味方は優しかったから。


 だから、俺が悪役になってでも自力で世界に帰る話を書いた。

 どうしても、あの結末を受け入れたくなかった。


「だけど、何をやっても起きた出来事は変わらない・・。自己満足なんだよな。」


 椅子から立ち上がり、暗い部室を見回す。時が止まった部室は変わってしまった俺を受け入れる程の大らかさを見せているが、学生という縛り(下校時間)まではどうにも出来ない。


『校内に残っている生徒は窓とカーテンを閉めて帰宅しましょう。』


「さて、帰宅しましょうかね。」


 パソコンの電源を落として、黒いコートと荷物を持ち、部室を出る。


「次があれば後悔なんてしない。容赦もしない。」


_____そう言って意識を失った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ