第1話「自衛団と国境警備隊」
どれほど語らっていたのか、鍛錬所で鍛えている隊員たちの動きに朝一番のキレは無く、額や服をまるで雨でも降ったかのように汗で濡らしている者や、肩で息をしている者など、明らかに各隊員に疲労の色が出ていた。
「ふむ・・・、時間に任せるしかないのかの。」
大男が諦め顔でつぶやく、それに合わせて着物の男も諦め顔でうつむいた。
少しの間、沈黙をしていたが、着物の男がわざらしい程、元気に振る舞い顔を上げた。
「さてと、そろそろ鍛錬を終了して飯にでもせぬか、龍!」
「ここでは、龍殿か隊長と呼べと言うておろうに、義!」
大男の名前は龍、国境に派遣された正規軍部隊の隊長であり、国境警備隊の隊長でもある。
着物の男の名前は義、自衛団の団長で国境警備隊の副隊長だ。
「ああ、すまなかったな。」
義が謝罪すると、龍は鍛錬所中に響き渡る声で鍛錬終了の合図を出した。
「鍛錬終了じゃ!皆、飯の時間じゃ、食堂に行け!」
すると、鍛錬所からさっきまでは疲労の色をにじませていた隊員たちが大急ぎで食堂に走っていく。
その中に、義人が走っていくのを見かけた義は声をかけた。
「義人!」
その声に気付いた義人はそのままの勢いで義の前に来た。
「はい、なんでありましょうか父上。」
「うむ、自衛団が抜けて村の皆が上手くやっているか心配でな、食後に官兵衛と2人で様子を見てきてくれないか?」
義人は了解したと頭を下げて意思表示すると、すぐに食堂に向かって駆け出そうとした、だが、それを今度は龍が止める。
「待つのじゃ!」
義人はすぐに姿勢を正すと、次の言葉を待った。
「小太郎と良ければ珠殿も連れて4人で行ってくれぬか?」
義人は一瞬、何か言いたそうな顔をしたが、隊長に意見できるはずもなく、すぐに了解したと頭を下げて、今度こそ食堂に向かって駆け出した。
その姿を見つめ、やがて見えなくなると義が口を開く。
「隊長、どういうことだ?」
得意気な顔で龍が答える。
「まあ、話してみれば分かることもあるという事じゃの。」
そう言うと、自分も飯を食べるために食堂に向かって歩き出した。
依然納得のいかない様子の義も考えるだけ無駄かと諦め、龍に続いて食堂へと向かった。
太陽が真上に昇ったところか、皆が食事を終え今度は鍛錬ではなく、国境防衛の任に当たり始めた頃、奇抜な組み合わせの4人組が山道を歩いていた。
4人組の中で、道中ずっと変な顔をして歩いている男が1人、官兵衛である。
「う~ん・・・、俺と義人と珠ちゃんは分かるが、なぜ小太郎が・・・。」
宿舎を出たときからずっと、この調子でつぶやき続けているのである。
「それはこっちが言いたいですね、なぜこのような野蛮な連中と共にしなければいけないのか、隊長の考えがさっぱり読めませんね。」
小太郎は官兵衛にわざと聞こえるように大きな声で言うと、見事に官兵衛は釣られて、怒った顔で小太郎に迫ろうとした、だが、その間に珠が割って入る。
「そうですか?私は知らない人とお話できて嬉しいですけどね!」
満面の笑みで小太郎に詰めより微笑みかける。
すると、小太郎は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、今にも消え入りそうな小さい声でなんとか返答した。
「そ、そうですね・・・。私としても珠殿と話せて嬉しく思います。」
小太郎との距離を先程より縮めて、珠が不思議そうな顔で尋ねる。
「あれれ?小太郎さんは何で私のこと知ってるんですか?」
小太郎はさらに赤くなり、ゆでタコのような顔で返答する。
「ど、どうでもいい事でございましょう!さ、先を急ぎましょう!」
そう言うと早足で山道をずかずかと1人で進んでいく。
後ろでは、義人と官兵衛がニヤついた顔でコソコソと話し込んでいる。
さらにその後ろから珠が微笑みを浮かべた楽しそうな顔でついて行く。
4人は、そんな変な形で村へと向かった。