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落ちこぼれに花束を。  作者: A.cat
一章:新たなる世界の幕開け。
5/9

Ⅱ、策というのは、失敗の確率を下げるためのものであって、失敗しないわけではない

勢いで投稿しちゃいます。


楽しんで頂ければ幸いです。


それではどうぞ。

「ケッ! まぁどうにか街には潜入できたぜ!はははっ!」


 天才策士としての能力が戻ってきたのか、調子がいい。


 ローランドの町並みは、建物の殆どが白い輝きを放ち、神聖さを醸し出していた。キレイに敷かれた石畳は、時折通る馬車がカタカタと軽快な音を出し走るのを証拠に、その舗装技術の高さが伺えるシロモノであった。


 このネックレスは、実はこの世界の言葉やらの翻訳機なのではないかとか、異世界転移じゃこんなのなくても普通は話せるとか、そういう思考は遠くに放り投げ歩き出す森男。



「しかし腹減ったな…」


 あのキャベツ以来何も口にしていない森男の腹は、ぐぅぐぅと鳴り続けている。


「んーと、てか財布もないしカバンもどっかいったな」


 森男は今、ダサいジャージしか身に着けていない。あとブリーフパンツも一応履いている。


「先立つものがなければ何も出来ない… まずは飯を恵んでもらわなくては」


 森男が歩いていると、何やらいい匂いがしてきた。ふと視線をそちらに向けると、煙突からモクモクと煙を出すパン屋さんが目に入る。


「お、ターゲット発見! まずはあそこから攻める!」


 すると、いきなり覚束ない足取りになり、頭を押さえる森男。



「うぅ… 頭が… お腹が痛い…」


 周りに聞こえるようにつぶやく。

 すると、パン屋の前でバタリッっと倒れた。




「はぁ…はぁ… ククッ こうしていればきっと美少女が助けてくれるだろう」


 名付けて、『異世界転移による、美少女が助けずにはいられないフラグ作戦』


 実に彼らしい完璧な作戦だ。


 彼の予想では、通りすがりの美少女冒険者が声をかけてくれるか、パン屋の看板娘が飛び出してくると見ている。


 どちらも食料を恵んでくれる可能性もあるし、この世界についても教えてくれるという一石二鳥の作戦。そして始まるラブラブストーリー。胸が踊る。







「ちょっと!何うちの店の前で寝てんだい! とっととどっかいきな!」


 しかし、店から出てきたのは丸々太ったおばさんであった。


 ババァめ、お前がどっかいけや。

 僕は美少女にしか用はねぇんだよ!


 悪態をついていると腰の辺りに激痛が走る。


「うぎゃっ!」

「どっか行けって言ってんの! 聞こえないのかい?」


 森男の腰をグリグリと踏みつけるおばさん。


 その大根のような足から繰り出される踏みつけ攻撃は、溜めに溜め込んだ脂肪の重みが付加され、まさに森男の腰を打ち砕かんとしていた。


 ここでやられては、元も子もない。

 戦略的撤退だ!



「ご、ごめんなさい! すぐ、すぐに行きますから!」

「ふんっ! 全く、変な格好して。二度と近寄るんじゃないよ!」

「はひぃぃ!」


 風のように、森男はその場を後にした。






   ◯     ◯






 森男は気を取り直して、道なりに歩きながら美少女とのフラグチャンスを伺っていた。


「ケッ! ババァめ、てめぇもどうせグラサン野郎とグルなんだろ! ふんっ バレバレだね。僕と美少女が出会わないように工作していやがる!なんてったって、異世界人の僕と美少女のタッグは国の脅威になりかねないしな。大体あんな大技、ただのパン屋のおばさんじゃそうそう出来るもんじゃない」



 大技ではなく、単に踏みつけられただけなのだが、森男は気付かない。異世界で魔法もあるということが、彼を疑心暗鬼にさせていた。その恐怖を取り除くように、つい口から悪口が出てしまう。


「ん、あそこは」


 道なりに歩いていると街の広場に出た森男は、様々な鎧や武器を持った者たちが集まっているのを目にした。方位を示す塔を中心に円形に広がるその広場は、人でごった返し、立ち話しているものや声を掛けながら何かを売っているもの、広場の一角に設けられたカフェで談笑しているものなど、様々な風景が折り重なり、複雑に混ざりあっていた。


「あぁ、冒険者の群れか」


 見回してみると、森男が探しているような、美少女冒険者もいるようだ。


「ふふっ ここだな。ここで運命的な出会いを果たす訳か。最初からここに導かれればよかったのにな」


 森男は頭をフル回転させ、効果的な策を練る。


 名付けて『異世界による、一人で孤独な僕チンを、同じく一人で孤独な美少女が「あなた一人?」 と声をかけてくるのを待つ作戦(心優しい冒険者パーティのおねぇさんでも可)」』


 自分の完璧なる作戦に、ニヤニヤが止まらない森男。広場の隅で様子を伺うことにした。






「…来ない」


 1時間は経ったであろうか。

 待てど暮らせど全く何も起こらない。美少女どころか目に留める者もいない。


 そろそろ腹も限界に近づいている。このままでは美少女とのラブコメという未来が、餓死という未来に塗り替えられてしまう。


「ここで死んでたまるか! ギルドに殴りこみじゃ!」


 広場に面してある、冒険者ギルドっぽい一際大きい建物に向けて、動きが鈍くなった身体にムチを入れ、歩き出した。






   ◯     ◯






「ごめんくださーい」


 ギルドのドアを軽快に開けた森男。入ってすぐに思わず立ち止まってしまった。

 ギルドというのはゲームの中でしか見たことがないが、実際に中に入ってみると押し出されるような、そんな空気が漂っていた。見るからに凄腕の戦士といったような大男や、秘密結社でも組織していそうないかにも怪しいローブを着たものたちが所狭しと集まっている。

 ひとしきり見回して、気を取り直した森男は、まずいかにもマスターといった人物に声を掛けた。

 

「ん? 誰だお前?」

「ここのギルドのマスターですよね?」

「ちげぇよ。マスターはあっちのカウンターの人だ」

「あっ! すいません!」


 そそくさとカウンターに向かう森男。


「チッ 紛らわしい格好しやがって。 あ、すいません」

「なんだ? 見ない顔だが」

「今日はじめてなんですが」

「ほぅ。見たところ駆け出しか?」


 上から下に森男の姿を確認するマスター。


「駆け出しというか… さっきこっちの世界に来たばかりなんですが」

「なに!? ということは異世界人か?」

「はい。その通りです」

「えーっと… 何かできるか?こう…凄いパワーがあるとか魔法が使えるとか、あと剣術ができるとかさ」

「何もありません」


 頭を抱えるマスター。

 異世界人にしても落ちこぼれ過ぎるスペックである。


「ということは金がない訳だよな… 放っておくのも後味悪いし、薬草の採取でも頼もうかな」

「薬草ですか? 庭いじりが趣味なので、それなら出来ます」

「そうか! よかった… じゃあ頼む。北西の森に向かっていけば自然と見つかるよ。これがサンプルだ」


 ご丁寧にも薬草を手渡してくれるマスター。いい香りのする葉っぱがいくつも茎を基点に生えている。


「あ、あとそこにはスモール・ターニップっていうカブに似た魔物が出るから気をつけろよ」

「魔物!?」

「あぁ、魔物だ。ちょっかいを出すと人間に襲い掛かってくるからな」

「そうですか… 武器とかそういうのは…」

「何も使えないんだろ?」

「はい…」

「じゃあそのまま行ってこい」

「はひぃぃ…」


 少し震えながらも、ギルドを出て、案内看板に従って北西の森を目指す森男であった。






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