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落ちこぼれに花束を。  作者: A.cat
プロローグ
1/9

Ⅰ、こっちの日常

 森男の朝は早い。

 なぜなら彼には様々な準備が必要だからだ。


「うむ、作戦実行に抜かりなし」


 そうつぶやき、ドヤ顔を決めるのが日課であり、


「森男ー、ごはんよー」

「今行くよママー!」


 このやり取りもいつもの光景。

 

 そしてそんな彼は、自室から飛び出し、躓く。

 その拍子に頭を壁にぶつけてしまった。


「ちっ ママが急かすからこんなことになるんだ…」


 彼は悪態をつきながらも、

 鹿が山の傾斜をものともしない軽快なジャンプを見せるがごとく、階段を駆け下りる。


「今日はママたち早く出なきゃいけないし、夜も遅いからテキトーにやっててね」


 そういって玄関へ向かうママ。


「………えっ?」


 ママが朝早いのはいつものこと。そんなことはどうでもいい。

 森男は、ダイニングの卓上の光景に目を疑っていた。

 同時に口を餌を求める鯉のようにパクパクさせる。


 しばらくそれを無意味に続け、

 ふと


「この俺が計られただとっ…!」






   ◯     ◯





 数分後、台所に立つ森男の姿があった。


「この大量のキャベツを消費してやるっ!」


 このように不敵な笑みを浮かべ、

謎の闘士を燃やすのも彼を語る上では欠かせない要素。

 そんな彼の横には、大量のキャベツの千切りがザルに盛られている。


「さてと、食べましょうかい。もりっお!」


 謎の掛け声、それとともにとられるポーズ。

例えるものがこの世に存在しないそのポーズは、彼が他とは違う存在という証明を体で現しているのだろう。


 背筋を、まるで一流貴族のようにピシリと伸ばしている。

だが特筆すべきは、彼の両腕から手にかけてと顔である。


腕をひんねじ曲げ、人間が可能とする関節の可動範囲を優に超えるが如くに曲げられた手首。そして、バラバラの方向に開いた指。


これだけでも十分気持ち悪いのだが、腕から視線を上げたものはその驚愕の光景を目にする。


 顔である。


目の焦点が合っておらず、その上、腕のカタチを口で表現しているのであろう、これまた異常なカタチをとっている。


 このポーズを見たものは、例え通りかかった他人であろうとも自分を挑発しているようにしか見えず、気付いた頃には彼に拳をぶつけている、といったレベルの気持ち悪さ。


それでも彼は決まった、と言わんばかりの人を苛立たせるドヤ顔を決めるのであった。




   

   ◯     ◯





「…おえっおえっ……おえっ…おえっ…」


 彼は今、登校中。

 今日は少し風が強い。

 トモダチと楽しそうに談笑したり、まさにラブラブの絶頂期と言わんばかりにイチャつきながら歩く高校生カップルを尻目に、120BPMほどで刻む8ビートに合わせたバスドラムのキックのようにえづきながら歩いている。


 この場に楽器を嗜む人が居たならば、思わずおもむろに楽器を取り出してセッションしてしまうであろうほどに、彼のえづきはグルーブを帯びていた。


 しかし、意外な才能を発揮していることに、彼は気づいていない。

というかそれどころではない。


「むちゃしてしったー ほんとのおれっをー」


 BOMB A HEAD!を口ずさんで気丈に振る舞っているが、

大量のキャベツとの決闘の末、無残に敗れた後遺症として吐き気を催しているのであった。


 そんな時


「おい、あれ森男じゃね?」

「あ、ホントだ」


 いやらしい笑みを浮かべながら近づいてくる二人組。


「またう◯こ面どもか… あー臭い 実に臭う」


 そう。

森男をいつもいじめているいじめっ子の二人組。

こうして森男に声をかけてはちょっかいを出す性根腐った連中である。


 しかし、今日の森男は一味違う。

万全の準備を喫し、今日という日に備えてきた。


「今日もパッとしねぇな」

「ほんっと、見てるだけでテンション下がってくるわ」


 口々に好き放題言い出すいじめっ子二人組。


「やぁ、今日もピーチクうるさいね。(小声)臭うし。…おえっ ピーチクいうくく おえっ りで言えば、まだ…おえっ ツバメ…おえっ のヒナの方が利口だよ。今日もママに口移しでごはん食べさせてもらったんでちゅかー?よかったでちゅねー(小声)おむつ替えた方がいいよー」


 やはり今日の彼は絶好調である。

いつもの10倍ほどの饒舌で雄弁に悪口を垂れる。

小声で毒を吐くことも忘れない。

そんな彼の絶好調っぷりにいじめっ子も気付いたのか


「はっ? お前今日調子いいじゃん」

「その調子でおまえが大好きな雅ちゃんにでも告ってくれば?応援するぜ」


 雅ちゃんというのは、同年代の化粧で顔を偽る不届き者の女とは違い、このいじめっ子のような奴らばかりの学校でも、唯一輝ける存在の美人さんである。(森男談)


フルネーム:春川 雅。

 初めて見かけた時、彼女はネコとじゃれあっていた。

その時に見せた、恋人を見守る母性に満ち溢れたビーナスの如き笑顔は、矢尻がハート型の矢にカタチを変え、森男の胸に突き刺さった。


そして、まるで上質な絹のような肌触りであろうロングストレートの黒髪は、陽の光を浴び、幻想的な光を纏わせ、森男の胸に刺さった矢をグングンと押し込んでいった。



 簡単にまとめると、モテない男の子が95%くらいの確率で理想としている女の子を具現化したような人物である。


「はっ? なんで春川さんが出てくんだよ。てか名前で呼ぶな。(小声)う◯こ。」

「おーい雅ちゃーん。森男が話あるらしいぜー」

「えっ」


 きょとんと可愛らしく首を傾げながら近づいてくる雅ちゃん。

 森男はこのとき、絶好調のときこそ気を張らなくてはいけないことを思い出す。

と同時に、胸の矢傷が疼き、心臓が暴れだした。


 彼女が目前まで迫ってきたその時、事件は起こる。


「ほらっ 頑張ってこいよっ!」




ドンッ







 いじめっ子が森男の背中を思いっきり叩く。







おええエエェェェェェッ







 周囲に不快な音と共に、量産が可能であればNavy SEALsも威嚇弾として採用するであろう目に染みるほどの匂いが、周囲に拡散した。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間逃げ惑う人々。






 そんな中、膝をガクリと折った森男は、

涙を拭いながら走り去っていく雅ちゃんを、まるで狙ったかのような、地面に頬を思いっきり押し付けるくらいに低い角度から凝視し、風でめくれ上がっているスカートの中の花園をしっかりと脳内フォルダに焼付け、意識を手放した。


 みなさんに、彼の遺言を聴いて欲しい。









「ぱんちゅ」




たぶん、きっと、まだまだ続きますが書きだしたばかりです。

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