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アルテイア(8)

後ろを駆けていく赤髪の少女をちらりと確認する。

少女は少し離れたがまだ安心できる距離とは言えない。

「少し時間を稼ぐしかないか・・・」

マサトは円月刀を構える蛮族と対峙する。

武器はと言えば小さな木の実が2つ。

圧倒的不利に違いない。しかし時間を稼ぐためには戦わざるを得ないだろう。

(早く逃げてくれよ・・・)

アルテイアの逃げた方向を確認してマサトは注意を引き付けるように蛮族に叫ぶ。

「お前の相手は俺だ!」

蛮族は自分を傷つけた忌々しい若者を憎しみを湛えた目で睨みつける。

獣革で出来た厚いボロを腰に巻いて上半身は裸の蛮族は大柄で格闘では敵いそうもない。

(とりあえず何か武器を・・)

マサトが周りをちらりと見る。武器になりそうな木々の切れ端か枝が落ちていれば勝機があるかもしれない。視線を外した瞬間、大男は突進してきた。

マサトは手に持った木の実を再び大男に投げつける。

さすがに直線的に投げつけても避けられてしまった。

(平地だとさすがに不利だな)

見開きの利くところでは捕まってしまう可能性が高い。マサトは森の木々の間を縫うように駆けだした。

蛮族は怒りで我を忘れマサトの後を追いかけて来る。

アルテイアを逃がすという目的は達したようだ。

(よしよし・・・)

こうなれば後は逃げるだけだ。

そう考えて少しだけ気が緩んでしまった。

「う!・・・」

大木の根に足を取られる。マサトは派手に転んでしまった。

「まずい」

そこに怒りに燃えた蛮族が追いついてきた。

転んだマサト目掛けて円月刀が空を切る。耳元を円月刀の風切り音が通過する。

大地に突き刺さる刀。

マサトは転んだまま大男の足を払う。

もんどりうって倒れる大男。マサトは入れ違いに立ち上がろうとした。

「く・・・」

足首を掴まれていた。

下卑た笑いとともに蛮族が喚く。

「捕まえたぞ」

足首を捕まれて身動きが取れない。ものすごい力だ。

掴まれた足首ごと投げられる。

マサトは地面に強かに打ちつけられた。

勝ち誇った顔の蛮族の下卑た笑いが高くなる。

地面に叩きつけられて息が出来ない。

男は大地に突き刺さった刀を引き抜いて獲物を狙う。今度こそ逃さない。

狙いをつけて刀を振り下ろした。




アルテイアは自室へと向かっていた。

殿下は顔も見せずベッドから抜け出そうとしない。不機嫌だと言うから今はそっとしておくのが良いのだろう。

もしかしたらマサトが帰ってきているかも知れない。

朝から何も食べてないはずだからそろそろ帰って来ても良さそうなものだ。

(もし避けられているなら・・)

それならそれで受け入れるしかない。

自分は呪われた女なのだ。

(それでも・・・)

後悔はしたくなかった。

マサトの部屋に向かう。

何回も叩いた扉にノックをする。

コンコン

・・やはり返事はなかった。

また深い悲しみに襲われる。

心の中の大部分が彼のことで占められていた。

胸が苦しい。

あの人に似ていると気づいたのはつい最近。

マサトが高熱で倒れたとき。その看病をしているときだった。

初恋の人・・・もう名前も忘れてしまったその人は遠い過去に自分を助けてくれた異国の若者だった。

呪われた証を持つ私に誰1人近づいてはこなかった幼少時に幾度となく会いにきてくれた人。

蛮族に襲われたときも彼は1人立ち向かって自分を守ってくれた。

あの若者にマサトはそっくりだったのだ。

そのことに気づいて以来、マサトのことを意識し過ぎるくらい意識してしまう。

自分が人を再び愛せることに気づかせてくれた人をこのまま失いたくない。


そんな思いを抱きながらマサトの部屋の扉を開く。

部屋で待っていようと部屋を見渡してはっとする。

マサトがベッドで横になっていた。

「マサト様!!」

大声を上げて駆け寄る。

涙が自然と零れる。

胸が苦しくて堪らなかった。


マサトは静かな寝息を立てて寝ている。

人の気も知らずこんな時間から寝ているなんて・・クスリとアルテイアは微笑む。

寝顔はいつものマサトだ。いろいろあったから疲れてるのだろう。

(拒絶されても・・)

寝ているマサトの手をじっと握る。

起きる気配はない。

アルテイアはマサトの顔を覗きこんだ。

優しい微笑みを携えている寝顔。

(いつもの笑顔・・・)

胸がさらに痛む。

心臓がさらに高鳴っていくのを感じていた。

アルテイアは衝動を抑えていた。

マサトの唇に触れる。

唇が微かに動いて再び寝息が聞こえる。

じっと見つめる。

心臓が喉から飛び出してしまうのではないかと思えるくらいの高鳴り。

赤い髪が静かに揺れる。その髪の色に負けないくらい、アルテイアの頬も上気していた。

静かに目を瞑って唇を重ねる。

電撃に撃たれたような衝撃が心臓の鼓動をさらに早める。

単に唇を重ねただけなのに、全身に衝撃が走っていた。

顔が熱く火照っていた。


目を見開いて再びマサトを見る。

「・・・・・」

寝言だろうか?

マサトが何か呟いている。

口元に耳を寄せ、何ごとか確認する。

どんな夢を見ているのだろう。

「・・・・・女神さまのようだ」

「え・・・?」

思わず声を出してしまう。あのときの若者の台詞と同じ。

再び胸が高鳴る。

偶然だろうが、マサトが見ている夢がどんなものなのか興味を惹かれた。

そういえばあの後蛮族に襲われたんだっけ・・・

アルテイアは過去を思いだそうとしていた。

その瞬間、マサトが苦しみだす。

まるで何かに襲われているかのように息が荒くなっている。

(また・・・)

この人は何に苦しんでいるのだろう?

高熱に冒されているときもうたた寝をしていたときも大粒の汗を噴出しながらマサトは悪夢と戦っていた。

「マサト・・・マサト様!!」

身体を揺さぶって起こそうとする。

しかし起きる気配がない。

次第に再びマサトの額に大粒の汗と苦悶の表情が浮かぶ。

「マサト様!!」

繰り返し揺さぶる。夢の中とはいえ、尋常ではない。

涙が再び溢れていた。

目の前で・・苦しそうな表情で何かと戦っている愛しい人。

自分には何も出来ない苦しさがアルテイアを襲っていた。

じっと閉じられた瞼を見つめる。

アルテイアは繰り返し名前を呼び続けた。


マサトの表情に変化が起きる。

苦しそうな表情が緩み、瞼がゆっくりと開く。

「無事・・だったんだね・・・」

マサトをアルテイアの泣き顔を見て安堵したように呟く。

「良かった・・・」

「マサト様・・・」

手をぎゅっと握る。

さらに固く。このまま離してはならないと思う。

マサトの瞼が再び閉じられる。苦悶の表情は消え去り、規則正しい寝息が聞こえてきた。

アルテイアはじっと手を握って溢れてくる涙をそのまま頬に伝わらせていた。

(起きるまで・・傍で・・・)

待っているのも女の務めだとマリールの言葉を思い返していた。



夜が更けていく。時刻は7時を越えていた。

またアルテイアの夢を見ていた。

目覚めるとそこはいつもの部屋。

アルテイアが手を握ったまま傍らで眠っていた。

「傍に居てくれたのか・・・」

心配をかけていたのだろう。握られた手は固く握り締められていた。

優しく髪を撫でる。

赤く燃えるような髪は美しい寝顔に負けずきれいにさらさらと流れている。

起こしてしまわないように寝ているアルテイアに毛布をかける。


「時刻は・・・?」

はっと我に返る。マリールとの約束の時間は8時だ。

時計は7時40分を差していた。

「急がなければ・・・」

どうしてアークが男子として育てられているのか?

そのことと策は何か関係があるのか?

自分のすべきことは何か?

1つ1つ切り開いていくしかない。

自分を待っている運命が何かをマサトは知りたいと思っていた。



「待って居たぞ」

マリールは妖艶な微笑みでマサトを部屋に招き入れる。

齢は40を越えているはずのマリール。しかしその美貌はとても中年女性のように思えない。

「それで・・何が聞きたいのか?」

11月を過ぎてるというのに薄手の夜着がマリールの肢体を露わにしている。まるでマサトを誘惑しているかのようだ。

「皇太子のことで・・・」

「ふむ」

「どうして女子を男子として育てておられるのですか?」

マリールはグラスに果実酒を注ぐ。そのグラスをマサトに差し出しながら答えた。

「ふむ・・・」

マリールは自分のグラスを空けて、再び果実酒を注ぎ始めた。

「この国の成り立ちを知っておるか?」

「この国・・・」

マサトの腰掛けている椅子の前に腰掛けるマリール。

「前王、すなわちラムセス1世の時代、この国は諸侯と王族、蛮族の戦いに巻き込まれていた」

「国王ラムセス1世の世継ぎ継承問題が諸侯と王族との争いに拍車をかけ、ラムセス1世の長男デ=ルグンを祭り上げる諸侯と第2皇太子デ=シルスを嫡子にしようとする王族が毎日のように小競り合いを起こし、内戦状態であった」

マリールは遠い目をしながら語る。

「諸侯軍には北西太守ミラン=ミランを筆頭として有力貴族が集まっていた。愚直なルグン皇太子を傀儡として宮廷を乗っ取るつもりだったと聞く。それを察知したのが宮廷主参謀メルビン=ラピスだ」

「メルビンはルグンではこの国を纏めることが出来ないと痛感したのだろう。酒色に更け手当たり次第散財するルグンを次期国王に据えるわけにはいかない、と。幸い聡明で勇猛な第2皇太子デ=シルスがいたから、メルビンや宮廷一派はデ=シルスを掲げて民衆からの支持を勝ち取り、諸侯軍と対峙することになった」

マリールはマサトの瞳を見つめながら話を続ける。





















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