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アルテイア(11)

R15指定をさせて頂いています。

性行為を連想させるような表現がありますのでご注意ください。

言葉はいらなかった。

この人はわたしを受け入れてくれた・・

全てを受け入れたこの愛しい人を全力で愛することが自分の使命だと決意する。

今までで一番幸せな決意だった。



三度舌を絡ませる。

何度も心地よい衝撃に襲われる。

心臓の鼓動はもうどこまでも高鳴る一方だった。

頬が上気して赤くなる。

深紅の髪に負けないくらい赤く熱くなっている。


アルテイアは何もかももう限界を感じていた。

結ばれたい・・・この愛しい人と。

優しく包み込むように触れてくれるこの人の温かい手。

触れられる度におかしくなりそうになる。

瞳を見る。

魅入られてしまうくらい深い黒色の瞳。

その瞳に哀願する。


2つの影が1つになる。

静寂が2人を包み込んでいた。



 チチチ・・・チチチ・・・

鳥たちのさえずりが聞こえる。

メーンの畔から白い霧が立ちこめていた。

冬将軍が近づいているのだろう。朝の日の出は日に日に遅くなっている。

温もりを感じて、アルテイアは目が覚める。

愛する人の腕の中だった。

愛しい人の寝顔を窺う。

規則正しい寝息が聞こえる。

こんなにも幸せで満ち足りた朝を迎えたのはいつ以来だろう?

昨夜のことを思い出して赤くなる。

この腕の中から抜け出したくはなかった。


時計を見る。

7時になろうかとしていた。

さすがにのんびりはしていられない。

毛布の1つを身体に巻いて、薄絹の法衣を探す。

毛布をはだけて薄絹の法衣を纏う。

不意に視線を感じた。


「おはようございます」

照れたような微笑を携えてマサトが朝の挨拶をする。

「きゃ!いつからご覧になってたのですか?」

「アルテイア様がベッドから出られたときから」

体温が急上昇するのが分かる。アルテイアは耳まで真っ赤にして目を臥せる。

「声を・・かけてくだされば良いのに・・・」

「あまりにも美しいので声をかけられませんでした」

「もぅ・・・それから・・その言葉遣いと『様』は止めてください・・・」

さらに顔を赤くしてアルテイアが抗議をする。夫婦になるのだから。

「うん・・アルテイア」

マサトは恥ずかしそうにアルテイアの抗議を受け入れる。

アルテイアは名を呼ばれてふとあの異国の若者を思い浮かべた。

だんだん記憶を思い返してきていたが、目の前の愛する人とあの人は同一人物じゃないかと思えるくらい口調も声も外見も似ている。

(神様のお引き合わせに違いない・・・)

これは運命なんだと思う。この人に全てを託していく。この身がどうなろうともこの人の傍にいるということが。


2人は遅い朝食を摂り、アルテイアの父メルビンの元へ向かうことにする。

もう迷いはない。

蛮族の地に旅立ち、蛮族王ラ・ガの下で動向を窺う。

一種のスパイのようなもの。

当然、命の保障はないしその動向如何ではまた戦になるかも知れない。

重大な任務だった。

「マサト・・・?」

少し考えている風のマサトに声をかけるアルテイア。

「はい・・?」

「どうかしました?」

「あ、いえ」

途端に不安になる。マサトは後悔してるのでは、という不安。

「やはり・・」

そう言いかけてマサトに制止される。

「アルテイア・・。蛮族の地で2人過ごすということは僕も身を護る訓練を積まねばならないだろう、と。それを考えていたんだ」

聞かされて納得する。アルテイアはまだ疑心暗鬼になっている自分の心を恥じた。

(もう迷ってはいけない)

『呪われた証』をそのまま受け入れてくれた彼を信じると決めているのだ。

今まで自分の運命を何度呪っただろう。しかし今は呪う必要はない。最期のときまで傍に居ればいい。



「そうか・・・マサト。済まぬ。礼を言わねばなるまい」

主参謀メルビンの執政室。

メルビンは安堵した面持ちで目の前で傅いている2人を見る。

自分の策とはいえ愛娘と若者を翻弄してしまっているのだ。

ましてや蛮族の地に送るということは命の保障は決してない。

愛娘はまだしもこの前途ある若者の運命を茨の道に変えてしまったという後ろめたさがメルビンの心を痛ませた。


「陛下にはわしから伝えておこう。婚姻の儀の日取りを決めねばなるまい」

「はい」

「なるべく早くが良かろう・・異存はないか?」

「はい」

「アルテイア」

「はい、父様」

「少し席を外してくれぬかの?」

「はい・・」

そう言って執政室を出て行くアルテイア。

執政室の2人。

「マサト・・本当に済まぬな」

「とんでもありません」

「あれの『呪われた証』は見たのであろう?」

「・・はい・・・」

「交わったのか?」

「・・・・はい・・」

「そうか・・・」

メルビンは目の前の若者に言い尽くせぬほどの感謝の念を持つ。

「本当に・・済まなかった。あれを一時で構わぬ、幸せにしてやってくれぬか?」

「もちろんです!」

「お主の意向に沿わぬかも知れぬが、婚姻の儀を盛大に執り行わねばならぬ。ラピス家の跡継ぎの噂が蛮族どもに届くくらいにな・・・」

「分かりました・・」

「お主の父ジェス=アールティアスにも伝えねばの」

ジェスの名が出て脳裏に浮かぶ。

思い出してはいけないような気がする。

マサトは心の中で再び謝るだけだった。




 婚姻の儀、当日。

マサトとアルテイアはその日まで忙しい毎日を送っていた。

婚姻の儀自体は父メルビンや宮廷女官が準備していくものの、儀のしきたりや衣装合わせなど結婚とはかくも大変なことなのかと痛感するマサトだった。

アルテイアは以前の政略結婚の際の経験があるのだろう。何ごとも卒なくこなしている。

「こんなに大変だったんだ・・」

アルテイアに弱音を吐く。

毎日近衛隊長グランと修練特訓をしている方がまだマシとさえ思う。

「今回は大々的に・・ということだったから・・」

アルテイアは少し顔を曇らせて応える。

いろいろ思うところがあるのだろう。忌まわしい過去の記憶もある。

マサトは話を変えるようにアークのことを尋ねた。

「そういえば殿下はどうなされてる?最近ずっと会っていないけれどお元気なのかな?」

「殿下はずっと不機嫌で・・勉強も余り気乗りしない様子で一人で居られることが多いみたい」

「そうか・・今日お会いしたときにでも声をかけてみよう」


「コンコン」

ノックの音がする。まだ儀の時間には早いはずだ。

アルテイアが扉を開ける。黒髪の壮年剣士がそこには立っていた。

「マサト殿の部屋はこちらか?」

「はい」

アルテイアが扉を開け、剣士を招き入れる。

「父さん!」

ジェス=アールティアスだった。マサトがジェスに駆け寄る。

「マサト・・だいぶ男らしい顔つきになったな」

ジェスがマサトの肩を抱いて息子の晴れ姿を見る。

婚姻の儀の衣装を纏っているが息子は本当に立派になっていた。

「父さん・・・」

ジェスはアルテイアを見る。

「新婦を紹介してもらわねばの」

「メルビン=ラピスの娘、アルテイア=ラピスです。お久しゅうございます」

「うむ。前より美しくなられた。マサトも幸せ者よ」

「ありがとうございます」


マサトは2人のやり取りを横目にしながら、フェルのことを思い出していた。

今、この場で父にフェルのことを聞く訳には・・・

「フェルは元気にしておる。心配は不要だ」

マサトの心を見透かしたようにジェスが言う。

「フェル様・・?」

「うむ。マサトの妹だ。任務から離れられぬ故、今日は来ることが出来なかった」

ジェスは2人のために嘘をつく。マサトの決意が揺るぐようなことを言ってはならぬだろう。

「フェル様・・いつかお会い出来るなら・・・」

アルテイアは2人の心を知らずに思いを口にする。

(いつか・・・)

いつか・・?

いつか、自分はどうするのだろう?

首を振ってこれからの自分のすべきことを考える。

(今すべきことはこの人を守らなければならないこと)

そう言い聞かせるだけだった。



 婚姻の儀が執り行われる。

盛大な祝宴が催された。

人々が2人に祝福をする。

宮廷はどこでも祝福ムードで沸きかえっていた。ただ一部の者を除けば。


その1人ラムセス=デ=アークは儀の終了と共に部屋に引きこもってしまった。

「まだ引きずっているか・・・」

皇太子付典医マリールは一人言を呟く。

アークの初恋であった。出来れば適えてあげたかったがそうはいかない。

マリールは深く嘆息する。

そこに近づいてきた張本人がアークの所在を尋ねる。

「アーク殿下はどちらに・・?」

マサトである。マリールは溜息をつきながらこの若者を見た。

「殿下は少しご気分が悪いと御室に戻られておる。如何いたした?」

「いえ。最近お会いしてませんでしたから・・・」

「そうか。しかし今は控えてくれ。殿下の体調が優れぬゆえ」

「分かりました。殿下はそんなに体調が悪いのですか?」

再び嘆息するマリール。自分の所為だと言う自覚がないから致し方ない。

「うむ。いま少し時が必要だろう。いやなに時間が立てば治る病だ。気に召されるな」

「病ですか・・・大丈夫でしょうか?」

真剣な眼差しで心配をしているマサト。

(恋の病だからな・・)

思いながら返答をする。

「まぁそんな大事なものではない。それより奥方が来賓への挨拶で忙しそうだぞ?放っておいて良いのか?」

「分かりました。ありがとうございます」

マサトはアルテイアのところに慌てて戻る。

マリールはその後ろ姿を見送って傷ついているであろう愛娘の元へ向かった。

(今宵はまた大泣きだろう・・傍で見守ってあげるとしよう)

母親の務めを果たせることも自分の幸せなのだろう。

ゆっくりとアークの御室へ向かった。


アルテイアは来賓へ1人1人挨拶をしていた。

そうして1人の男とその供を見て愕然とした。

眩暈で倒れそうになる。


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