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アルテイア(1)

前作アールティアス・エターナルの続編です。


まだ性行為を連想させるような描写はありませんが、きっといつか出るのでR指定しております。


 ラムセス現暦12年9月。

現国王ラムセス=デ=シルスの居城メーン。

石畳の廊下を行く2つの足音。

1人は白髪の初老。立派な髭と高貴な刺繍の入ったその法衣は王城での地位の高さを物語っている。

もう1人は長髪の女性。年の頃は25,6といったところか。この国では珍しい赤髪をなびかせて初老の男の2,3歩後ろを静かに歩いていた。

「アルテイア・・・あの者はいかがいたしておる?」

初老の老人がアルテイアと呼ばれた女性に尋ねる。

「はい・・王城での習慣には慣れてきた様子なのですが・・皇太子殿下に振り回されております」

アルテイアは静かに答える。落ち着いた物腰にこの女性の優しさが見えるがその口調は少し困っているようにも聞こえる。

「ふふ。皇太子殿下が相手ではの」

「ふふ。そうですわね」

2人は談笑しながら部屋の前で立ち止まった。

「どうぞ、父様」

アルテイアが部屋の扉を開けて、自室に父、メルビン=ラピスを招き入れる。

「それで・・・皇太子殿下のことをどういたしましょう」

アルテイアはメルビンに静かに尋ねる。

「うむ・・・教育係とはいえ、皇太子殿下のことは極秘中の極秘。国王陛下は此度の新しい教育係についてはわしに任せると仰ってくださっておる。わしの良いようにしろ、と。」

「そうなのですか・・・では秘密を打ち明けなさります?」

「ふむ・・迷ってはおるのじゃよ・・あの者が誠実な者かどうか見極めもしなければならぬ。この国の秘中の秘でもあるからの。真実が知れれば、他国が黙っておらぬかも知れぬゆえ、ことは慎重に運ばねばならぬからの・・・」

「御意・・・」

2人は部屋の中央を小声で話している。どこに他国の間者がいるか分かったものではない。

「ところで・・・」

メルビンは話を区切る。

「お前は最近、母親に似てきたの」

父親は目を細めて自分の娘を見る。

「そうでしょうか・・?母様に似ているのはこの奇異な赤髪の所為では・・・?」

「そうでもない。その赤髪は美しいと思うがの・・・前の亭主はそこが理解できなかったのであろう」

「どうなのでしょう・・・」

「あの者はお前の髪色に何も言わぬか?」

「ええ。赤い髪なんてこの国では私くらいですが、そんなことに気を留めてもいない様子でした」

「2ヶ月かの。あの者が王城に参って。お前はどうだ?」

「どう?と申されますと・・?」

「あの者をお前はどう思うか」

「誠実な方だと思います・・優しくてご立派です」

「そうではない。お前の目に適うかどうか聞いておる」

「・・・そんなの・・・まだ分かりません」

ふふ、老父は笑みをこぼして愛娘を見やった。

「孫が欲しいのじゃがの」

そう言って、カッカッカと再び笑う。

アルテイアは耳まで真っ赤にして頬を赤らめた。その美しい赤髪を身にまといながら。





 ラムセス2世国王城に来て2ヶ月。

マサトは悪戦苦闘していた。

根っから宮廷作法は苦手。その上、皇太子殿下の教育係である。

宮廷の習慣についてはノール公の下で勉強したつもりだった。

しかし実際に自分でしてみるとなると思ったよりも大変で思うようにままならない。

そして最も大変なのが皇太子殿下だった。

年は自分のちょうど半分。女の子かと見間違えるほどの外見に反して、皇太子ラムセス=デ=アークはやんちゃだった。

「フェルにそっくりだ。。」

マサトは10年来一緒に居た愛しい人を思い浮かべた。もう離れて2ヶ月になる。

「どうしてるだろうな・・・」

思い出を反芻する。未練と言い切ってもいい感情が沸いてくる。

「いつか・・・」

フェルの元に戻れるかも・・そう考えはじめたそのとき。


「おお~~~い!マサト!!」

アークの声が響く。今度は中庭の方だ。

「マ~~~サ~~~~ト~~~~」

アークの声が現実に返らせる。

「はい!」

マサトは窓を開けて中庭にいるだろうアークを探す。

「マァ~~~~サァ~~~~トォ~~~~~」

中庭をくまなく見つめるがアークの姿が見えない。低木の茂みに隠れているのか、物置の中からだろうか。

それにしては声が近くで響く。

「バァ!」

「わ、わ!」

急にアークの顔が目の前に飛び込んできた。なんとマサトの上、窓の張り出し部分から顔だけマサトの部屋の窓を覗きこむように声をかけたのである。

マサトはしりもちをつきながら、血相を変えた。

「殿下!!危ないです!」

「平気だよ~いつもしてるもん」

「国王陛下やメルビン様に見つかったら・・アルテイア様も心を痛めますよ!!」

「だいじぶだいじぶ♪」

アークは無邪気そうに笑う。四六時中こんな感じだ。

「大丈夫・・じゃないです!今度やったら騎士隊長様に言いつけてお仕置きしてもらいます!」

「ええ~~~~ぶ~~~~」

アークは頬を膨らませて抗議する。騎士隊長は苦手らしい。


「あらあら・・・」

アルテイアが扉を開けて2人の様子を見ていた。

「何度もノックしたのですが・・・お2人で何をなさってるのです?」

「なーにも~。ね、マサト!」

アークが無邪気そうに笑う。いつの間にかマサトの居室の窓枠に腰掛けていた。

「空が青い理由を聞いてたんだ。なんだったっけ・・レイリー散乱?とかそういうの」

アークは自分のした悪戯を誤魔化そうとしてるのだろうか。さっきの出来事がまるでなかったことになっている。

「そうなんですか・・・でもマサト様のお部屋で?」

アルテイアはくすりと笑いながら、2人の様子を見ていた。この人は優しくて穏やかな人なんだろう。なんとなく居るだけで和んでしまう。

「ん・・っと、ところで午後の修練は何かな?アルテ」

アークが話しを逸らすように聞く。

「午後は2時から剣技修練ですね・・それからミールス教授の講義がございます」

「あああ、やだな~。どこか出かけたい~遊びたいよ~」

「ダメですよ・・カシージャス騎士隊副隊長様がお待ちですから」

「カッシー本気で来るから、怖いんだよなぁ・・ね、マサトも一緒に行こうよ!」

「は?え?私ですか?」

「うんうん♪ね、いいよね?アルテ。マサトも一緒なら行く~」

「そんな・・マサト様のご都合もあるでしょうから・・殿下」

「マサトが一緒でないなら行かない~」

アークはすました顔で駄々をこねる。こういうところは甘えん坊な皇太子らしい。

しりもちをついたままのマサトは慌てて立ち上がってアルテイアの表情を見る。アークの駄々に困っているような顔をしてアルテイアはマサトの方を見た。多分、どうにもならないのだろう。

「分かりました。殿下。お供いたしましょう」

「ホント!?やったぁ♪」

「ですから、午後の修練も頑張るのですよ?」

「はーい!」

アークは元気の良い返事をしてパタパタと自室に戻っていく。

「済みません・・マサト様」

「いえ。わたしも身体を鍛えなければならないと思っていましたから・・」

本来、謝る筋ではないアルテイアが申し訳なさそうに謝る。皇太子の先任教育係として責任感を感じているのだろう。優しい人なんだなとマサトは思うのだった。




 午後の剣技修練が始まっている。

幾人かの騎士たちが闘技場で剣を舞わせていた。剣と言っても実戦ではないから竹刀に似た材質の模造剣であるが。その幾人かの騎士たちに混じってアークとマサト、カシージャスは剣の手合わせをしていた。


「思ったよりもやりますね・・マサト殿」

カシージャスは少し驚いたような口調でマサトに声をかける。

辺境の地から来た教育係というから、どんな青びょうたんなのかと思っていたが剣先の動きは素人ではない。どこかである程度の訓練を受けたように見える。

「いえ・・」

息を荒くしながらマサトは答える。幾度となく義父ジェス=アールティアスやフェルと稽古の真似事をしたことがあるが、フェルからは「才能がない」と散々貶されていた。だから練習もそんなにしたことはない。だから、稽古が始まって最初に息が乱れたのはマサトだった。

「ふむ・・少し運動不足みたいですな」

同じようなことをしているカシージャスはもちろん、年端もいかないアークでさえ、息は乱れていない。大粒の汗を光らせているのはマサトだけだった。

「反省しています・・・」

「じゃあマサトもこれからボクと一緒に稽古頑張らなくっちゃね!」

悪戯っぽく笑うアーク。もちろん剣を舞わせながら。

「もう一月二月したら、立合い稽古もいたしますゆえ、マサト殿もそれまでに身体を鍛えなさるとよろしいですよ」

「わ、わかりました・・・」

今日だって幾度となく剣を手合わせさせているというのにさらにこれ以上の稽古をするのだろうか。

マサトは自分の身が思うように動かせないことを呪っていた。


「今日はここまでかな?」

アークがマサトを見ながらカシージャスに聞く。

「そうですね」

「やったぁ~終わった♪」

「殿下。次の修練では型をしますから、少し時間が長くなりますよ」

「えぇ~~~ぶ~~~~~」

「今日はその分、ゆっくりお休みくださいますよう・・・」

「はーい」

マサトは剣を下ろしてぜいぜい息を吐き出している。

「だらしないぞ~それでもボクの教育係なのん?」

アークがあの悪戯顔で無邪気に問いかけてくる。

「申し訳ありません。殿下」

「あはは♪マサトは勉強ばっかりだったんだね~余が皇太子として命ずる。マサトよ、少し強くなりたまえ♪」

「りょ、了解いたしました・・・」

「あは♪」

 無邪気な笑みを返すアーク。3人は幾人かの騎士たちを残して闘技場を後にした。




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