第22話 交錯し始めた糸
「ドラン、僕は君に感謝しているんだ」
「感謝?私は何も…」
「息子を…ルシアの命を助けてくれてありがとう。そして、育ててくれて」
と、アルは微笑した。
「あれは罪の意識からだ。私のエゴさ。感謝される程のものではない」
「ドラン、エゴだけで自分の命を捧げる事なんてできないさ。それに、ルシアだって君を慕うはずがないだろう?」
とアルは、諭すように言った。
「僕達の苦しみは、意味がないものではないと思うんだ。この苦しみは、二度と同じ事を、同じ時代を繰り返してはいけないという意味なんだと思う。だから、その苦しみを知っている君とルシアは伝えるためにいるんだ。そして、僕も…」
「この世界の救世主になれとでも?人間を救えというのか。この私に。人間のために」
と、ドランは鼻で笑った。
「人間のためじゃない。全ての生き物のためにさ」
「それが…私にかせられた使命、罰なのか…」
朝になり、ルシアはガイロの家へと人込みの中を抜けていた。
その人込みの中に、見覚えのある顔があった。それは、前の村で黒いドラゴンを連れていた男だった。
ルシアはその男を追い掛けたが、すぐに見失ってしまった。この時、ルシアに不穏な風が吹いた。
「この街は相変わらず変わっていない。自分達の力に自惚れ、暢気にのうのうと暮らしている。まったく、来るのも嫌になる場所だ」
と、黒いドラゴンを連れていた男は不機嫌そうな顔をして、独り言を言っていた。
「だが…それも今のうちだ。もうすぐこの街は、血と悲鳴でいっぱいになる。こんな故郷など、さっさと潰してやる」
男は不気味に笑いながら、人込みの中へと消えて行った。
「ルシア、少しお茶を飲んでいかない?」
ガイロの母は、帰ろうとするルシアを引き止めた。
「うん」
ルシアは素直に椅子に座った。