第21話 ドランとアル
川を覗きに行くと、小さな川魚が陽の光できらきらと体を光らせながら泳いでいた。
ガイロはそっと川の中に手を入れ、驚いたようにすぐに手を引っ込めた。
「冷タイ」
「そうだよ。水は冷たいんだよ」
と、ルシアはガイロを見て笑った。
「ガイロ、この花のにおいを嗅いでごらん」
ガイロはルシアの横に来て、鼻をひくひくさせながら、においを嗅いだ。
「不思議ナ…ニオイ。甘クテ、懐カシイニオイ」
「もうすぐ日が陰るね」
と、ルシアは空を見上げた。
いつの間にか、太陽は少しずつ沈み始めていた。
「もうそろそろ帰ろう」
とルシアは、ガイロを見た。ガイロは黙って頷いた。
家にこっそりと入り、ガイロを檻の中に入れ、鍵をかけた。
「ガイロ、また一緒に遊ぼう」
とルシアは笑って言うと、地下室を後にした。
「ルシア…」
ガイロは、誰もいない薄暗い部屋の中で呟いた。
夜になり、ルシアは馬小屋に忍び込んでそこで一夜を過ごした。
「ドラン…」
眠っていたドランは名を呼ばれ、顔を上げた。
月の光で岩は鋭く、ごつごつとした肌をあらわにしていた。
岩の影が長く伸びた先に何かが動いていた。ドランは目を細め、じっと見つめた。そこから、男がドランのもとへと近づいて来た。
「アル」
「ドラン、久しぶりだね」
と、アルはにっこりと笑った。
「契約を結んだ時の姿なのだな」
ドランは、死んだ時の年齢よりも若いアルを見て言った。
「姿は、見る者によってさ。もう、僕に肉体はないよ」
「すまない。私のせいでお前は…」
「ドラン、君のせいじゃない。何かを得れば、それだけ失う代償もつくのさ」
「だが、その代償はあまりに大きい。お前を私は苦しめてしまった」
とドランが言うと、
「ドラン、自分を責めないでくれ」
と、アルは優しく言った。
「君が僕のために苦しんでいると、僕にとってそれが一番苦しいんだ」
「アル…」