第1話 ルシアとドラン
「いい眺めだなあ」
15、6の少年は紅いドラゴンにまたがり、下界を見下ろしていた。
「そうか?私には、どの景色も同じようにしか見えん」
と、紅いドラゴンは下界を見た。
「人間のやることなど、何処へ行ってもたいして変わらんよ」
「町並みもそうだけど、風に吹かれる木々のざわめきや海へと続く川が陽に当たって反射する光がきれいじゃない」
少年は、にこにこしながら言った。
「そんなの見て何がおもしろい」
と、紅いドラゴンは鼻で笑った。
「もう、ドランは風情ってものがわからないんだから」
と少年は、膨れた。ドランはそんな少年の言葉を無視して、森の中に降りた。
「よっと」
少年はドランの背中から飛び降りた。
「じゃぁ、町へ行って来るよ」
と少年は、振り向いた。
「いざという時は、その笛を鳴らすのだよ。お前はいつも自分の力でなんとかしようとするが、、その命は今やお前の命だけのものではない。私は、いつもギリギリの場面でヒヤヒヤしながらお前を助けるのは一苦労だ」
ドランは、低い落ち着きのある声で言った。
「うん」
と少年は頷き、首からさげている小さな笛をにぎりしめた。
少年は町へと駆けて行き、ドランはその姿を見送った。
「おじさん、何か困ったことないかい?」
酒樽を店の中に入れる男に少年は尋ねた。
「何だ坊主。俺は忙しいんだ。よそへ行きな」
と、男は突然目の前に現れた少年を冷たくあしらった。
「おやじ、持って来たぞ」
男は、店主の近くに酒樽を置いた。
「ご苦労さん。これ、代金ね」
と、店主は男に酒樽の代金を支払った。
「毎度」
「あれ?この子、あんたの子かい?」
と店主は、男の後ろに立っている少年に気がついた。男は店主の言葉に振り向き、
「お前、まだいたのか!?」
と、立たずむ少年を迷惑そうに見た。