第12話 示すモノ
「見えるさ。だけど見えると言っても、お前さんが私に話しかけて来る事やほんのわずか先の未来だけさ」
「この水晶で見えるの?」
と、ルシアはテーブルの上に乗った水晶玉覗いた。
「これはお飾りみたいなもんさ。たいしたものは見えないよ」
と、老婆は笑った。
「…俺には見えるよ。この中に俺が殺した人達の顔が見える」
ルシアがそう言ってじっと水晶を覗き見ているので、老婆も覗き込んだ。
すると、水晶玉は血のように真っ赤な煙で曇り、その中には白い顔の人間達の顔が次から次へと浮かび上がっていく。
どの顔も苦痛に満ちていた。それはまるで、地獄を覗いたかのような光景だった。
「お前…」
と老婆は驚いて顔を上げ、ルシアを見た。
「いつも俺の中には、この人達の悲鳴が聞こえてくる。その悲鳴は、頭の中に広がって、耳を塞いでもずっと聞こえるんだ。悲しくて、辛くて、これ以上苦しい事なんてないよ」
ルシアは表情を変えず、水晶玉を見続けていた。
「だから、教えて。俺がいつかは知る事。いつか知るって事は、大切な事で、必ず聞かなきゃいけない事でしょ?だったら聞くよ。あなたの悩みがこれで消えるでしょ?」
ルシアは水晶玉から眼を離し、老婆に微笑んだ。
「お前さんがそう言うのであれば道を示そう。あの大きな白い建物が見えるじゃろう?」
と、老婆は通りの先に見える建物を指差した。
「あの建物へお行き。そうすればわかるよ」
「うわぁ」
初めて来る場所に声を漏らした。ルシアは老婆に言われた建物に来ていた。
周りには、天井に届くかと思うぐらいの高い本棚がいくつも置いてあった。本の数なんて数え切れない量だ。
一冊、近くの本を手に取った。何ページかめくると、ある挿絵で手が止まった。
「これ、ドランに似ている…」
その挿絵は、一匹の紅いドラゴンが描かれていた。
「君、そこで何しているの?」
ルシアは声をかけられ、後ろを振り向いた。