第10話 また何時か
黒いドラゴンの頭部に、ルシアの短刀が突き刺さり、黒いドラゴンは悲鳴を上げた。
短刀をすぐさま抜いたルシアは、黒いドラゴンの返り血で紅く染まっていた。そこには、昼間のルシアとも、あの影を背負った少年とも違っていた。
ルシアは不気味に笑うと、ぺろっと舌なめずりをした。その様子を見た男は愉快そうに、
「やはり、お前は呪われし子供!まだ生き残りがいたのか」
と、言った。
「これはおもしろい組合せだ」
黒いドラゴンは血を流しながら、ルシアに向かって唸り、襲いかかって来た。すると、ドランは黒いドラゴンに炎を吹いた。
怒りでルシアしか見えていなかった黒いドラゴンは、たちまち炎に包まれた。男はその前に、黒いドラゴンから飛び降りた。
「呪われし子供よ、また何処で会おう!」
男はそう言うと、闇に包まれ、消えてしまった。
ティーナはルシアの話が本当だったという事を確信していたが、彼に声をかけた。
「ルシア…?」
ティーナは、心配そうにルシアの顔を覗き込んだ。ルシアの瞳はまだ、紅いままだった。
「血…殺す…殺す…」
と、ルシアは唱えるように呟いていた。ドランは、そっと片方の翼でルシアを覆うように包み込んだ。
「ルシア、もう、終わったのだ。血で自分を汚すのではない」
ドランは静かに、優しく言った。ドランが翼をどけると、そこから現れたルシアの瞳は、もとの色に戻っていた。
「ごめん、ティーナ。俺の事怖かっただろ?」
ルシアの瞳は悲しそうだった。
「ううん」
と、ティーナは笑顔で首を横に振った。正直、ティーナは恐ろしいと思ったが、もとに戻り、人を恐れているルシアを見て、そんなものは消し去ってしまっていた。
「この町が助かったわ。ありがとう」
「俺の事、怖くないの?」
ルシアは少し驚いたように、再び尋ねた。
「私は、ルシアの事好きよ。だから、どんなルシアを見たって怖くないわ」
「人にいつも嫌われてたから、何かちょっとビックリしちゃった」
とルシアは言った後、
「ティーナ、ありがとう」
と、いつもの笑顔を向けた。
「あの悪いドラゴンは倒せたけど、ナイトさんは可哀相だったわね」
と、ティーナは残念そうに言った。
「大丈夫、ナイトさんは食べられて時間が経ってないから、出てこられるよ」
燃える黒いドラゴンの体は徐々に霧のように消えていき、少し経つと、ナイトの体が現れた。
翌日、ナイトはティーナの家で看護されたが、当然ティーナを貰う事はできなかった。
「もう、行くの?」
ティーナは、旅に向かうルシアに言った。
「うん、困った人はいっぱいいるから」
と、ルシアはにっこりと笑った。
「この町にまた来たら、家へ来てね。その時は、もっと料理を用意しておくから。いつでも待ってるよ」
「ありがとう」
そして、ルシアとドランは次の場所へと向かった。