消火器の洗礼
現在の時刻は、二十三時三十分をまわっている。定時は十八時。と、言う事は…、今日は朝の八時にタイムカードを押したので、すでに十五時間三十分動いている事になる。残業は五時間三十分を経過し、会社の外は真っ暗闇。私の職業は、小説家になろうのマイページ欄では、ラピュタに出て来るロボットの整備係なのだが、それはちょっとしたジョークなので、本気にしないでいただきたい。私の本当の職業は、鉄工所の正社員。いつか、ラピュタのロボットを鉄で作り上げ、ナウシカのメーヴェすらも、鉄で作る事が夢なのだ!ふふふ…、笑いたければ、笑うがいい。私の夢は、もう少しで実現するのだから…。なんて、冗談はさておき、話しを戻そう。人間の集中力は人それぞれだが、一般的には二〜三時間も集中力が持続すれば、上出来だろう。集中力を保つ方法は、適度に休憩を挟み、頭をリラックスさせる。これが、一番の方法だと、私は思う。だから、人間は休憩するのだ。集中力を保つ為に…。しかし、この日だけは、休憩も出来ない程に、忙しかった。図面の見間違えで、圧倒的に足りない製品。納期は…、明日!心身共に疲れ果て、ふらふらになりながら作業を続け、日付がかわってようやく終了。
「お〜い、刺身。出来た製品を外に出して置いてくれ。」
「はい、わかりました。」
上司もようやく肩の荷がおりたようで、気の抜けた顔をしながら後片付けをしている。私は上司の指示通り、製品を外に置いておく為に入り口に向かう。物事には、最後の最後まで気を抜くな。昔の偉い人が、こんな事を言っていたような…。ことわざだっけ?とにかく、私はその言葉の意味を、身をもって体験することになった。
ゴンッ!
安全靴を通して、伝わる衝撃。固い、何かを倒した?疑問に思った直後、惨劇が私に降り懸かる。まさに、集中力が切れた瞬間だった。
ブシュッ!
視界は白桃色の煙りに包まれ、何も見えない。煙りを吸い込むと、ちくちくと鼻と喉を刺激するような、薬品?独特の感じ…。そう、私は消火器を蹴り倒してしまった。何故消火器が?と、思う人がいるだろう。仕事柄、溶接・ガス等の高温で材料を加工する道具があるため、私の会社では常時消火器を備えている。万が一と言うやつだ。そして、なんでかはわからないのだが、ピンが抜いてあった。(レバーの上に付いてる、黄色い丸いやつ。)そのおかげで、倒した衝撃で消火器が見事に作動。パニックを起こした私は、消火器を抱え込み、そのまま、あさっての方向に走り出した。煙りで視界は何も見えず、方向もわからない。
しゅ〜〜。
ようやく消火器の中身が無くなり、視界が開けた。どうやら、道路に飛び出し、会社から数十メートル離れた場所に、私は消火器の粉まみれになりながら、立ち尽くしていた。
「ぶっ、何あいつ。マジうけるんですけど。」
近くを通り掛かったギャルに、おもいっきり笑われ、恥ずかしい事この上ない。
「ゴホッ、ゲフッ…。」
咳が止まらず、消火器を引きずりながら会社に戻る。
ガラガラガラガラガラ…。
まるっきり不審者だ。よく通報されなかったな〜。会社に戻ると、上司が爆笑していた。はっきり言って、恥ずかしさのあまり、死にたくなった。
「お前、大丈夫か?……っぷ、ククク…。」
「あっ、製品は大丈夫です。私は大丈夫じゃないですけど…。」
「あの消火器、ボロボロで今度破棄しようと思ってたんだけど、手間が省けた。」
私に気を遣ってくれたのだろう。気持ちは嬉しかったのだが、翌日馬鹿みたいに社員に言い触らされ、私のあだ名は消火器を倒した男。略して、しょうた。に、なってしまった。
結局、この小説は何を伝えたかったのだろうか?ぶっちゃけ、短編が書きたかっただけなんです…。
さーて、今日もお仕事頑張ろう。