プロローグ ーAliceー
プロローグ
しんと静まり返った町、ザンと剣が肉を硬い骨をも裂く音がする。
剣を持つは、ショートへアの少女。
銀に輝く剣を携え、少女は無感情な目で、死体を見下ろしていた。
「颯生、これで何体目だ?」
少女の言葉とともに、剣が淡い光に包まれ、少女の手から離れると人型をとった。
光が消えた後には、剣の姿ではなく、やわらかい雰囲気をもった銀髪の青年がたたずんでいた。
「今日はこれで、丁度五人目ですよ。」
整った顔の口元にやわらかい微笑を浮かべながら、青年は今日の天気のことを話すように言った。
少女は一言「そうか。」と呟くと、興味なさそうに死体をもう一度見て、首につけたれたドッグタグを引きちぎると、その場を後にした。
Alice
いつの間にか、この世界で迷い子を意味する言葉で呼ばれたこのゲーム。
ある日突然、この世界を統べる女王から手紙をもらい、女王の私有地であるこの町に集められる。
この町に連れてこられた人間は“迷い子”と呼ばれ、あるゲームをすることになる。
ルールは簡単。
一人一人、迷い子には、トランプのスートにちなんだドッグタグを与えられる。
このマークにちなんでそれぞれルールの異なる“ゲーム”をする。
ハートは、よりたくさんの異性を惑わすこと。一番たくさんの異性を惑わせたものが勝者となる。
クラブは、よりたくさんの知識を持つこと。一番頭のいい者が勝者となる。
ダイヤは、よりたくさんの金を稼ぐこと。一番金を稼いだものが勝者となる。
そして少女が持つドッグタグは……
スペード。
スペードは、よりたくさんの者を殺すこと。よりたくさんの者を殺したものが勝者となる。
この町に集められた人々にはある共通点がある。
それは“犯罪を犯したことがある”。
この町の“迷い子”とは、犯罪者たちなのだ。
犯罪の種類によって振り分けられ、重罪人達は否応無くスペードのタグを付けられる。
そして、この町で勝者となったものは、女王に謁見し、彼女から直々に無罪処置を受けるのだ。
自らの罪を無罪にするため、迷い子たちは勝者になろうとする。
時に仲間を裏切り、時に他人を蹴落として……
そして勝者へと上り詰める。
それが暇な貴族の賭け事に使われていると知らずに……、あるいは、知っていながらも無罪のために、勝者を目指す。
Aliceとは、そういったゲームだ。




