異性の幼馴染が「婚約者とイチャイチャしたいからアドバイスをくれ!」と言ってきた
※勢いに任せたコメディ系
幼馴染から土下座の勢いで「婚約者とイチャイチャしたいからアドバイスをくれ!」と頼まれた時の私の顔はきっと人に見せられないものだったと思う。
カーディル子爵の娘である私、リリアン・マレットは領地の位置関係からスコット伯爵令息のラドクリフ・スターレンの幼馴染であった。
女性の心を掴むような整った色気のある見た目とは裏腹に、純情純真なラドクリフは婚約者となったシャルロット・フレンディア様に本気で惚れた。
とても美しい方だし、そりゃあもう女も惚れるくらいの素敵な方だから気持ちはわかる。
だからこそ私は容赦なく告げた。
「あのね、それ、一番の悪手だから。カテゴリー的に女だからと私に聞いてきても意味ないから。だってお相手は侯爵家の高貴なお姫様。私は田舎の野猿。まーったくかすりもしない、女という性別しか共通点がない私に聞いても意味がないのよ」
全てにおいて磨き上げられた極上の美女と、太陽の日差しを浴びてすくすくと育った野菜のような私ではそりゃあもう存在そのものが違いすぎる。
お姫様と野猿。人間と野菜。そのくらいに違うのに、どうやってイチャつけるかアドバイス寄越せなんて無理に決まってる。
だが、まあ、この幼馴染の純情っぷりを知っているのもあり、少しくらいは手伝ってやろうかと考えた私は優しいと思わない?
ということで、真っ当に正規ルートで私はシャルロット様とお話をする機会を貰った。
子爵家の娘が侯爵家のご令嬢とお話をするための正規ルートは人を仲介することだ。
私の場合は同じ派閥であったので、寄り親の伯爵家のご令嬢であるルチア様にまずお願いをした。
もちろん包み隠さず、「シャルロット様の婚約者となられたスコット伯爵令息は幼馴染で、シャルロット様に惚れ込むあまりイチャつく方法を相談してきた」と言うことを伝えた。
ルチア様は珍しく大笑いをされた後、涙が浮かぶ目尻をハンカチで優雅に抑えながら「任せなさい」と頷いてくれた。
そして三日後、侯爵家に招待していただいた私は、本物の高貴なご令嬢を前に口をぱかーんと開き、付き添って下さったルチア様に背中を叩かれた。
「大変失礼いたしました。カーディル子爵の娘、リリアン・マレットでございます。この度はお茶会にご招待頂き大変光栄にございます」
「ふふ。さあ、こちらにお座りになって」
もうね、光り輝く麗しき乙女ですよ。はー。え、こんな美女がラドクリフのお嫁さんになるの? は? どんだけ徳を積めばそんな奇跡が起きるの?
「ルチア様からお話を伺いましたわ。その……ラドクリフ様が、わたくしと……」
「あ、はい。好きで好きでたまらないシャルロット様とイチャイチャしたいけど好きすぎてどうしたらいいか分からない、と我が家に来て一時間もシャルロット様への愛を叫び尽くしていました。私ではなくシャルロット様にお聞かせしろ、と告げたのですが、スコット伯爵令息が、気持ち悪いと言われたらどうするんだと叫びまして……」
「そ、そうなの? その、ラドクリフ様は、女性慣れしていそうな雰囲気に見えたのだけれど」
「ないです。スターレン家はまず男だらけです。いえ、夫人もいるのですが、夫人は……その……男装の麗人でして、男性よりも麗しいお方です」
「そう言えばそうですね。私の母もスコット伯爵夫人を追いかけておりますわ」
「そうですの? 実は、顔合わせの時は、領地から王都までの道で土砂崩れが起きて間に合わなかったからお会い出来なかったの」
私はなるほど、と頷いた。あの夫人を見たら間違いなく一発でわかる。私の母も夫人の追っかけをしているからね。私も夫人にナチュラルに口説かれたことがある。
あの家は、顔が良すぎて女性不信に陥った伯爵に惚れた夫人が「なら女らしくない私なら平気だろう」と突撃したんだよね。何だかんだ伯爵は夫人なら平気になったんだけどさ。
禁断の園を垣間見るような見た目なんだわ。夫人が高身長なのも相まって、そらもう麗しい紳士二人が並んでるように見えるんだわ。
まあ、滅多に王都の社交に出ないからシャルロット様はご存知なかったとは思うけれど。あの二人が揃うと修羅場が起きるんだよね。伯爵を未だ諦められない女性と夫人に惚れ込んだ女性が二人に近づこうとして潰し合うの。
因みに、今は他国に嫁がれている現国王の妹王女もそれぞれに属していた。
第一王女は伯爵に惚れ込み、第二王女は夫人の過激派強火担だった。で、二人が婚約した時、王女はそれぞれ相手の方を潰そうとして、つまりそれは自分の好きな方を害するということで、王家内で命懸けの修羅場が起きた。
可哀想なのは伯爵で、女性不信が悪化して女性恐怖症に陥った。家族と夫人を除いて。ちなみに女性使用人に若いのはいないのよね、あの家。
ちなみにだけど、私の母も伯爵は挨拶は出来る。というのも、私の母の好みは日に焼けたゴリラのような男で、父が好みど真ん中。夫人を介して紹介された時に「うわ。薄っぺら。ほっそ。折れそう。もやしだもやし」とこれっぽっちも興味を抱かなかったのがむしろ良かったそうだ。
男装の麗人は美しい方が良いけど、男の好みはゴリラってどういうことなんやろね。
「スコット伯爵令息の周りにはまともで若い貴族令嬢がいなかったんです」
「わたくしに気を使わなくてもいつも通りの呼び名で呼んで差し上げて。それと、マレット様も貴族令嬢ではありませんか」
「お気遣いありがとうございます。あと、私のことはぜひリリアンとお呼びください」
「ええ。わたくしのことはシャルロットとお呼びになって」
「光栄です。それで、私ですが……我が家は馬の育成を担っていまして、それも軍馬です。幼い頃から馬に乗るのが当たり前で、私も乗馬服を身にまとい馬に跨っていました。淑女の横乗りではなく、です。それに剣の稽古もしていましたので、ラドクリフ様の中で私は『一般的な貴族令嬢』の括りには入っていないのです」
カエルや虫取りも私は平気でしていたし、どこをどう考えても貴族令嬢ではないわけだ、私は。畑に入って土まみれになるしね。
「伯爵様が女性がダメなので使用人は高齢です。なので、ラドクリフ様は女性慣れをしていません。見た目はとても軽薄そうかもしれませんが、あれはもうご両親から受け継いだ奇跡の顔なのです」
「その……伯爵様が女性が駄目ならわたくしも駄目なのではないかしら?」
シャルロット様の懸念はもっともだろう。
ひとつ頷いた後、私は口を開いた。
「伯爵様は自分を欲まみれにみる女性がダメなのです。シャルロット様がラドクリフ様にのみ好意を向けていれば問題はありません」
「そうなのですね……いえ、確かに顔合わせの場で、わたくしも母も伯爵様はたしかに素晴らしいお顔立ちだと思いましたがそれだけで……」
「だからだと思います。侯爵夫妻は大変仲睦まじいご夫婦だと有名ですから」
「そうなのね……」
「ラドクリフ様はシャルロット様に一目惚れしたのは間違いないです。ですので、あの馬鹿が馬鹿な行動に出る前に説明と、後は少しばかり架け橋になろうかと思いまして、図々しく面会のお願いを致しました」
物語にあるような、気心知れた幼馴染が邪魔者になるような状況になってたまるか、と私は考えて動いたのだ。常識外れだけど、誤解されて侯爵家に睨まれたらたまったものではない。
後、あの誤解されやすい幼馴染の結婚が上手くいって欲しいのだ。何だかんだ幼馴染としての情があるので。
スターレン家は癖が強いからね。
「それに、私は跡取り娘で家に残ります。隣接する領地でスコット伯爵領と一番取引をしておりますのでシャルロット様には誤解されたくなかったのです」
これが一番だ。今は親同士の関係が良好だけど、私の代になった時に不仲になっていると取引に影響が出る。他の地域とも取引はしているけれど、やはり近い伯爵家は良い取引相手なのだ。
生き物を育てるのにはお金がかかる。軍馬一頭のお値段はかなり高いけれど、それだけお金をかけて育てている。なので取引が縮小すると良質な馬の育成が難しくなる。
「分かりましたわ。リリアン様はラドクリフ様に思いを寄せたりなどはありませんでしたの?」
「ないですね。私の好みではないのです。私の好みは美形でもなければゴリラでもない……そうですね、知的で眼鏡の似合う男性です。私がこんな性格で書類仕事も苦手なので、頭が良くて文官系統の男性が好みです」
いや、好みってか結婚相手の条件だな、これ。
でも知的で眼鏡の似合う男性が好みなのは確かだ。その点、ラドクリフは私の好みから離れている。
「シャルロット様、リリアン様は面白いでしょう?」
「ええ。最初は何事かしらと思いましたけれど、リリアン様は真っ直ぐな方ね」
「貴族向きの性格でないことは分かっています。そのせいで私自身の婚約が決まっていないのですけれど……」
「そうですの?」
「はい。やはり男性は馬にまたがるような女性は嫌だそうで、お見合いはことごとく失敗しています」
ラドクリフが羨ましい。こんな美女を婚約者に出来てるんだよ。
私なんてラドクリフがアホなことを言いに来た前日、何度目か忘れたお見合いを断られたばかりなんだよ。
まあ、ショックとかはないけど。
「リリアン様、ラドクリフ様にお伝え願えるかしら? わたくしはどんなあなたでも受け入れたいので、あなたの言葉でお手紙を下さい、と」
「はい。必ずお伝えいたします」
その後は我が家の軍馬の話とか様々な話をしたのだけど、付き添いできてくださったルチア様がかなりの笑い上戸なのが分かったりして楽しかった。
ちなみに、請われたのでシャルロット様にはラドクリフの子供の頃のお間抜けな思い出話をお伝えした。この位は許されるでしょう。
それから一ヶ月後、私はお見合いをしていた。
知的眼鏡の美形を前に私はぽけーっと口を開いていた。
「シャルロット様からのご紹介と聞いたのですが……」
「はい。フレンディア嬢とは学院が同じで、私好みの素晴らしい方がいると教えていただいたのです」
「はぇ」
何がどうしてどうやったら侯爵令息が子爵家の応接室にいるのか私にはこれっぽっちも理解出来なかった。
ジュブテン侯爵家の三男であるセルディック・ボブロン様は兄二人、姉二人を持つ末っ子で、いずれは家を出て文官になる予定だった。ただ、本人は王宮の人間関係がややこしいところよりも穏やかな雰囲気の中で生きていたいタイプだった。
「私はあまり体が強くないので、健康的で明るい女性が好みなのです。それに、回りくどい貴族らしい話し方も苦手で……フレンディア嬢とは研究科が同じで、私の好みの女性を聞かれてお答えしたところ、マレット嬢のお話を伺いました」
「まあ、そうでしたか。こんな野猿でがっかりしませんでしたか?」
「まったく。むしろ、私の好みそのものです」
なんとも奇特な方だ、と思いながら目の前のセルディック様を見つめる。両親は侯爵家からお手紙が来た時に腰を抜かしていた。わかる。あのゴリラな父親でもさすがに侯爵家は驚いたようだ。
「子爵家は私が跡取りですのでセルディック様はその夫になります。当主にはなれないのですが、本当によろしいのですか?」
「はい。むしろ私には重荷です。当主の教育を受けてきたわけでもないですし、私はどちらかと言うと補佐の方が向いている性格ですから」
さらっさらの薄い茶色の髪の毛に落ち着いた緑の目をした、銀縁眼鏡の知的美形は穏やかな笑みを浮かべている。背は私とダンスをするには丁度よさそうな高さ。体格はがっしりはしていない。父とは正反対だ。
だけど、私好み過ぎて、シャルロット様ーーー!これはどういうことですかーーー!と内心で叫んだよね。
キラキラと輝く目が美しい……と思いながら、我に返った時には婚約までの道筋が立っていた。
今度はボブロン家に両親と私が赴いて正式に婚約が結ばれた。
ちなみに、ちゃんと政略要素がある。軍馬ですね。こちらをスコット伯爵領と同じ優先度で取引することになりましてですね。
うちの馬は本当に優良品質だからね。大切にしてもらえることが第一条件だよ。
セルディック様は野猿な私でもちゃんと女性扱いしてくれるんだわ。驚くよね。
そんなわけで、ラドクリフがアホなことを頼み込んだことから始まった一連の出来事は、私の婚約で落ち着くというミラクルが起きたけれど、まあ、誰も損はしてないし、むしろ円滑で円満な状況なわけで。
敢えて言うなら、好きな女のことは本人に聞け。別の女に相談するな。ってことかなー。
多分ラドクリフの両親の方がドラマがあるし、小説のネタにしやすいと思う。




