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魔法連隊~魔法奇襲部隊戦闘記~  作者: 西日爺


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6.駐屯地

「ここが1人で、こっちが3人」

「ここが2人で、他はどこだ?」

「1人がこっち」

何事もなく無事に帰ってきた2人がそれぞれ馬車の元の位置に戻り、戦果の確認として手持ちの地図とにらめっこしていた。地図には数字と丸が書きこまれており、1カ所の1の数字に丸が書かれ、他は1から4程の数字が数か所、数字を合計すると20程になる。

エリザベスの背中と御者台と距離はあるが、互いに見えるように空中に地図を広げ合いながら確認をている。

「この辺で5人くらい逃がした」

「ルウが珍しい。逃がしたのはおまけの方か?」

「そうだったよ。まとまって動いてたから目的の相手じゃないと思う」

「なら問題はないか。目的の1人は倒したし」

「問題だよ。この忙しいときに討伐に手が必要になる。こんなミス久々」

ルウが肩を落として落ち込む。その様子に気付いたエリザベスが、首を少し後ろに曲げてルウを見る

「……」

「大丈夫だよ。ミスはしたけど怪我してないから」

「……」

「うんうん」

「エリザベス、先に仕事の話を終わらせるから。ルウ、地図をよこせ。報告用に清書する」

「あ、うん。お願い」

ルウは身を乗り出して、リュウに地図を渡す。エリザベスは少し不機嫌そうに前を向いたが、仕事の分別は付いているので特に暴れたりはしない。

受け取ったリュウは、2枚の地図を参考に清書していく。

その間ルウはエリザベスの首辺りを優しくなでる。機嫌を直した様子でエリゼベスはペースを上げて走り出した。御者にサッシャは座っているが、手綱は緩んでおり一切の指示を出していない。

後ろに座る4人は寝ているのだろうか。一切音は聞こえない。

広い草原の中、遠い所に広がる森を背に、カタカタと荷馬車が揺れる音だけが聞こえてくる。

何もないのは、嵐の前の静けさに過ぎない。

それを全員が理解しているからこそ、この後の嵐に向けて準備をしていた。


「と、とまれ!」

2時間ほどエレファントホース(エリザベス)が走ると道の先にあった駐屯地へとたどり着く。

入口に居た見張りの兵士から止められるが、完全に怯え切っている。

大きく威圧感があるエレファントホースがこのような場所に来ることなどほとんどない。

戦場に近いため万が一巻き込まれようものなら大きな損失となる。それに大柄なためとても目立ち、かつ高価なため狙われる。

そういう理由からこのような場所には通常の馬が多く、荷が多いときは多頭引き馬車を使うのが一般的だ。そのためエレファントホースなど使わない。

「な、何用だ!」

威圧感丸出しのエレファントホース(エリザベス)に対して、逃げ腰ながらもしっかりと声をかけ職務を全うするのは流石だろう。

「戦闘第2小隊、隊長のリュウだ。明日からの作戦への参加のために来た」

御者台からリュウが名乗ると兵士は一瞬固まり、先ほどより背筋を伸ばし緊張した面持ちで道を開けた。

「大変失礼いたしました!リュウ隊長とは気づかず、申し訳ありません!」

「謝罪はいい。第1のサシウスに挨拶に行きたいのだが、どこにいるか分かるか?」

「は!おそらく作戦室に居ると思われます」

「分かった。行っても大丈夫か?」

「はい。どうぞお通りください!」

兵士はそう言うと道を開けた。先ほどの怯えや緊張よりも、尊敬からの緊張が増している。

道が開いたのを確認するとエレファントホース(エリザベス)はさっさと走り出す。

サッシャが目線で「……荷物、確認しないのか?」とリュウに確認を取るが「俺の人徳」と視線で返す。

スッと目線を逸らしたサッシャにリュウは何か言いたそうだったが、静かに馬車に揺られていた。


エレファントホース(エリザベス)の背中で寝転がるルウには誰も気づかなかった。




馬車を広めの空き地に置くと、放牧地(と言う名のただの空き地)へと向かいエリザベスを放す。

「……」

エリザベスは「しょうがないなぁ」と言うようにゆっくりと歩いて行った。食事は先ほど済ませており、ライファとキョウヤの魔法をたらふく食べた後である。

「さてと。ルウ、ユイ君。行くぞ」

「「はい」」

リュウがそう2人に声をかけ歩き出す。駐屯地とは言え戦場であることに違いはないため、武器に防具と完全武装だ。

「おい、あれ」

「第2のリュウ隊長か。明日参加するって噂あったけど、本当なんだな」

「なら後ろの子供2人はなんだ?」

「知らん。お前は?」

「誰か知らないか?見たことないんだが」

「『第2小隊の切り札』って言われてる子、じゃねぇか?ほら、王都(サイシア)でリュウ隊長と一緒に居るとこ見たやつ居ただろう」

「あれが、か。そんなに強いのか?」

「サシウス隊長が勝てなかった、って噂は聞いたが」

「それはデマだろう。本当だったら化け物だぞ」

「だよなぁ」

有名人であるリュウに視線が集まり、一緒に歩いているルウやユイにも視線が集まる。ルウが少し顔を顰めている辺りこういう風に注目されるのは苦手なのだろう。

「2人とも悪いな、悪気はないんだがどうしても視線を集めちまう」

「少し恥ずかしいけど、いいよ。でも注目集めすぎて作戦に影響出たら辛い」

「私は気にしない。お姉ちゃんで慣れた」

ルウが嫌そうにつぶやいたがユイは一切気にしていないようで平然と歩いている。

そんなルウの懸念に、リュウは安心させるように笑う。

「周りは2人の事を『第2の隠し玉』ぐらいにしか見てねぇよ。そのまま勘違いさせておけば大丈夫だ」

「そうだとしても落ち着かない」

「ならさっさと予定済ませるか」

そのまま3人は舗装もされていない地面を歩いていく。着いた直後ほどではないが、視線をかなり集めている。

2人の姿を見て手を振ったり優しそうに笑いかけたりする人も居た。中には不安そうに見たり、嫌そうにする人も居たが。

そのまま歩いて行くと、目的の場所へと付く。掘っ立て小屋のような小さな建屋が数軒立っている。見た目は小さいが見張りも複数立っており重要な建屋であることが予想できる。

「止まれ。何用だ」

掘っ立て小屋の一つに近づいたところ、入り口のそばにいた見張りに止められる。既にリュウと気づいているようだが先ほどまでと違い一切の緊張も怯えもなく、しっかりとした訓練と経験に裏打ちされた自信が見て取れる。

「戦闘第2小隊、隊長のリュウ。後ろは部下2名だ。第1小隊隊長で本作戦の作戦隊長のサシウスに到着の挨拶と打ち合わせに来た」

リュウが名乗ると、ルウとユイも背筋を伸ばす。見張りは3人の顔を確認すると警戒を緩めた。

「第2小隊リュウ隊長、お疲れ様です。サシウス隊長ですがただいま中で打ち合わせの最中です。そろそろ終わると思います」

「分かった。近くで待たせてもらう」

見張りの兵士の言葉にこの場を離れようとすると、ちょうどよく扉が開きぞくぞくと人が出てきた。

「ん、誰だ。遅刻者か?ちっ、打ち合わせは終わったぞ」

中から最初に出てきた人がちょうどリュウと鉢合わせになる形になる。事情も知らないので打ち合わせに遅刻した人と勘違いしたらしい。

「サシウスに用があって来ただけだ」

「あ?てめぇサシウス隊長をそんな気安く……え?りゅ、リュウ隊長!?」

「そうだがどうした?ん、汗すごいが大丈夫か」

喧嘩腰だった相手が正面に居るのがリュウ隊長であることに気付くと冷や汗を流しだした。

それもそのはず、リュウは戦闘小隊全体では最強格の1人だ。第2小隊は独立して動くことが多く、その行動も秘密が多い。

実力は第1小隊隊長に引けを取らず、互いに得意な戦場だったら負けないだろうとまで言われる実力者。

性格もよく面倒見も良いことで知られており、第2小隊に居るだけで実力が伸びるとまで言われている。

そのためリュウは強い憧れや尊敬で見られる事が多いのだ。

先ほどから注目が集まるのもそのためである。見る事はあっても同じ戦場に立つ言う事がどうしても少ないため、こういう時はどうしても注目を集める。

「リュウ隊長と気づかず、た、大変失礼しました!」

「謝罪は良い。サシウスは中か?」

「は、はい!打ち合わせを終えて休憩をしてます!」

「分かった。驚かせてすまないな。明日の参加者か?」

「はい!イドラと言います」

「そうか。明日はよろしくな」

「はい!よろしくお願いします!あ、道を塞ぎすみません!どうぞお通りください!」

兵士はそう言うとスッと扉から横にずれてリュウ達を通そうとした。

「……」

「……」

「あ……」

当然だが後ろには部屋から出ようとしていた人が並んでいる。リュウが入ることなど出来ないわけがない。

「先どうぞ」

「……あぁ、すみません」

リュウは横にずれると、部屋を出ようとしていた人たちを先に行かせる。

「……」

兵士は失敗に顔を青くする余裕すらなく、楽になるために気を失う事も出来ず、ただただおびただしい量の汗を流していた。



「誰だ」

帰る人波が消えた頃、小屋の中から声が聞こえた。重く、しかしそれでいてどこまでも届くような声だった。その重厚で威圧されるような、意識に刺さるような声にルウとユイは固まってしまう。

「俺だ。入るぞ」

そんな威圧はどこ吹く風、一切気にせずリュウが入っていく。2人は固まっていたが、それに気付いた見張りが2人の後ろに回り込み背中を軽く押した。威圧の呪縛から抜け出した2人は驚いたように見張りを見ると優しい微笑みを返される。お礼に軽く頷くと部屋へと入っていった。

「よう、元気そうだな」

リュウは中に入るととても気楽に話しかける。

部屋の中は『コの字』型にテーブルが置かれていた。入口部分が丁度何もないところになっており、人が座っている状態で入ろうものなら視線が集中するだろう。

その部屋には既に人が居た。

1人は女性。頭に包帯を巻いており、部屋の端にある暖炉でお湯を沸かしている。綺麗な宝石が嵌められた片手斧を2本腰に装備している黒髪の女性だ。

もう1人は男性。こちらは椅子に座っているだけだが、威圧感はものすごい。すごい筋肉質で着ている服が膨れ上がっているような印象を与える。眼光は厳しく、気の弱い人だったら前に来ただけで気を失うかもしれない。

「これが元気に見えるなら引退した方が良いんじゃねぇか」

リュウの軽口に男性が睨みつけてきた。睨みつけられたのはリュウなのだが、関係のないルウやユイまで眼光に気圧されている。

「そういうお前は元気そうだな。良い事でもあったのか」

男性がリュウに聞く。言葉は軽く、これまでの厳しい印象から少し外れる。

「あぁ、あったぞ。友人が軽口を返せるぐらい元気がある、ってわかったからな」

リュウがその言葉にニヤリと笑いながら返す。そのままお互い睨みあうが、すぐにふっと微笑んだ。元が怖いため微笑も怖いが。

「よぉリュウ。無事生きてたな」

「久しぶりだなサシウス。よく生き延びてたな」

リュウと男性――サシウスはそのまま固く握手をした。

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