18.
暗殺者を撃退してから5日が経った。
結局、情報は何も拾えなかった。その前に自害されてしまったからだ。
どこでも使えて、防ぐ手段がない。
こういう時、魔法はとても便利だ。
その間、何も起きなかった。
――そう、何も。
でもその日だけは違った。
ずっと起きて堕ちてを繰り返していたユイが、その日は朝からずっと祈るように起きていた。
普段と違う様子に護衛をしていたリュウとヒカリは期待してしまい、けれど何も変わらずに時だけが過ぎていく。
お昼が過ぎた辺りで次の担当のレインとサッシャが変わるように入ってきた。
休憩に入らなければいけないのだが、それでもリュウとヒカリは一緒に居続けてしまう。
もう少し経つと仮眠を取っていたサシウス、キョウヤ、ライファも合流した。
部屋はこの人数が入り切れるほど広くないため、3人はそのまま外で待つことにする。
そのまま時は過ぎて行く。
――きっと大丈夫。
誰も、そんな根拠のない事は言えない。
――もうすぐだから。
誰も、そんな妄言を吐く事は無い。
――安心して。
誰も、そんな意味のない戯言を言わない。
全員が合流して、どれほど経っただろう。数分かもしれない。数十分かもしれない。1時間かもしれない。
「――ッ!!」
ユイが悲鳴のような引きつった声をあげるとガバっと顔を上げ、泣きそうな顔でルウの顔を見た。
その動きは全員に伝播し、未だに動かないルウの顔を見つめる。
「ルウ!」
瞼がピクリと動いた。ユイが気づくと声をあげる。その声に合わせて周りに居る人たちもルウに近寄っていく。外で待っていた3人も慌てて部屋に入ってきた。
「……う」
「ルウ!」
ユイは手を握ったまま涙をこぼす。ルウはその握られた手を弱々しく握り返すとゆっくりと目を開けた。
「……ユイ?」
小さく響くルウの声。
その声に不安から解放されたユイが抱きついた。ルウがポンポンと優しく背中を撫でて宥めるが安堵した泣き声が返されるだけ。
それ以上は何もせず、ルウは優しく抱きしめ返した。
「ルウ、無事か?」
泣き声をBGMにしながら、リュウが声をかけて来た。ルウが何とか顔を動かすと、口角が動いた程度の儚い笑顔を返す。
「何とか。ごめん、心配かけた」
「謝るのはこっちだ。動けるか?」
リュウの言葉にルウはゆっくりと頭を横に振る。
「数日は無理だと思う。何かいつもより、体が重い」
「当たり前だ。お前、10日も寝てたんだぞ」
「そんなに?」
相当驚いたようだが、声に力がない。その状態に気付いたサッシャが、水受けに魔法で水を入れる。
「ユイ、良いかな?水が飲みたい」
未だに抱きついて泣くユイに、申し訳なさそうにルウが聞く。ユイは涙を布団で拭きながら起き上がると、ルウをゆっくりと起き上がらせる。
「はい」
どこかかすれ声になりながらも咽ないよう丁寧に、ゆっくりと水を飲ませる。ルウは一口飲むと、ふぅと一息ついて力を抜く。
「意識が戻ってすぐで悪いんだが、動かしても大丈夫か?」
サシウスがルウの状態を確認しながら聞いてくる。ルウは体を動かそうとするが思った通りには動かず、これでは歩くのもままならないだろう。
「動けないから任せっぱなしになる」
「構わん。今日はこのまま休んで、明日朝一に出発しよう」
「今意識が戻ったばっかりなんですよ!」
サシウスの言葉にユイが嫌そうに文句を言う。けれどサシウスは気にしない。
「分かってるがここじゃ前線に近すぎてまともに休ませる事も出来ない。俺たちもリュウも次の任務が待ってるから、これ以上ここで時間使うのも難しいんだ」
「……」
ユイが文句を言えずに黙る。けれどサシウスは小さく微笑むとユイの頭を撫でた。
「だから、安全なところまで護衛しながら戻ろう」
ユイが信じられない事を聞いたようにゆっくりと顔を上げた。安心した様な信じられないような表情に、サシウスは優しく笑いかけてた。
「当分は大規模な接触はなさそうだから後方任務なんだよ。魔法連隊も休めるように、こっちからも口出ししてやる」
サシウスが動けないルウの頭も撫でる。ほんの少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「お前たちのおかげだ。ありがとう」
その部屋は、優しさと笑顔に包まれていた。
翌日。
宿の老婆はリュウが背負うルウをとても愛おしそうに、そして不安そうに見ていた。
「もう行っちゃうのかい?」
「ご心配おかけしました。先の予定と危険への対応のため、このようにドタバタと帰る事を申しわ――」
「そんなのどうでも良いの。ルウ君の体調は?」
そう言うと老婆は心配そうに、背負われたルウの手を握る。ルウはニコリと返し、その後ろに居るユイは心配そうに眺めるだけだ。
「大丈夫です。御心配をおかけしました」
「大丈夫なら良いのよ。良かったわ」
そのまま、今度はユイを抱きしめる。予想していなかったのかユイは一瞬固まるが、すぐに抱きしめ返した。
「またいらっしゃい。歓迎するから」
「はい、ありがとうございました」
短い挨拶、それでも必要な事は伝わった。宿の前には、エリザベスが馬車引いて待っている。
「よし、行こうか。世話になった」
「気を付けるんですよ」
リュウはそれ以上言わず、みんなを引き連れて歩き出す。
老婆もそれ以上返さなかった。
ガタガタとエリザベスが馬車を引いて行く。御者台に2人、後ろに7人、たくさんの人を乗せながらも、それでも問題なく進んで行く。
ルウは本調子ではないのだろう、乗ってすぐに眠りだした。今は隣に座っていたヒカリの膝枕で寝ている。
ユイも寝不足がたたったのか、レインの肩に寄っかかって目を瞑っている。
まるで旅行のような朗らかな気候、平和な馬車の中の空気は兵士の移動とは思えない。
ただただ平和に、世界は進んで行く。
「……いつまでも、こんな時間が続けばいいのに」
それは誰の言葉だっただろう。
届いた言葉は静かに世界に広がり、消えて行った。
これは、戦争で生まれた英雄譚ではない。
これは、結末が決まった物語。
と言う事で、この作品はここで一区切りです。
この作品がなぜここで終わるのか、と言う裏話は12月2日更新の活動報告「【新作】魔法連隊、について」にちょこっと載ってます。
では、また。




