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魔法連隊~魔法奇襲部隊戦闘記~  作者: 西日爺


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17.覚悟と覚悟

「私、悪いことしてないのに」

早朝、レインがぼやきながら足りなかった机と椅子を抱えて入って来た。謝罪と報告周りの苛立ちからか、人を射殺しかねないような目つきになっている。

「それはこっちのセリフよ」

そう言いながら後ろから紙の束を抱えたヒカリも入ってきた。こちらも視線で人が殺せそうだが、怒りは全てレインに集まっている。

「おかえり。大丈夫だったか?」

「手遅れ。もう上に連絡行っちゃったから途中で止めようがない。作戦実行中ってタイミングも悪かったみたい。何か不測の事態が起きたのかもってかなり広まってた。謝罪と報告書がこれぐらい必要ってサシウスに渡された」

リュウの確認にヒカリがとても嫌そうに、手に持った紙の束を見せつけるように答えた。その言葉に「あれ?」と言った様子でリュウが周囲を探す。

「それで、サシウスは?」

「借りた部屋で寝てる。護衛ローテーションは任せるだって。私だって寝たいのに」

ヒカリが紙の束が燃え尽きそうな怒りの炎を上げる。

「じゃあ、サシウスは夜間を担当させる。ヒカリはこのままな、昼食べてから休め」

「そうさせてもらうわ。レインはさっさと終わらせる!」

「うー」

ヒカリの言葉にレインがとても嫌そうにうなる。リュウはそんな2人にため息をつき、見張りのローテーションを組み始めた。元々考えていており、それほど難しい事ではない。

朝から昼まではリュウとヒカリ。人数不足は否めないが戦力は問題ない。何か来ても問題なく対応できる。

昼から夕方までがレインとサッシャ。サッシャは戦闘要員ではないため頭数には居れたくないが仕方がない。

夜をサシウスにキョウヤとライファ。夜間と言う事もあり人数が欲しい。キョウヤとライファでは心もとないが、何かあったら他の人員も合わせて対応する事になる。

ユイは割り振りに入れていないが、ずっと居るだろう。

「今なら、ユイ君の気持ちがよく分かる」

ルウは未だに起きず何も変わらない。

ルウの手を握って眠るユイを眺め、誰にも聞こえないような小さい声で呟いた。


護衛を初めて5日が経過した。

「いつまで待てば良いんだ」

「良いから黙って食え」

夕方の食事時にライファが呟く。一緒に食事をしているのはキョウヤだけで、実際は食事と言うより護衛に向けての準備でもある。

何か起こるわけでもなく、ただただ静かに夜が過ぎていくのを繰り返すだけだ。

その間、ルウが起きる事も周囲の様子が変わることもないため苛立ちが出てきたのだろう。かく言うキョウヤも少し苛立っており、ライファに強く当たっている。

「無理だ。文句の1つも言いたくなる。毎日あれを見せられるんだぞ」

「それはそう、だが」

ライファの言葉にスプーンが止まる。()()と言ってるのは、ユイの様子の事だ。

全員が護衛のために完璧な時間管理をしている中、ユイだけは起床も就寝の時間も完全に壊れている。

問題はその内容だ。

起きている時はただルウの手を握り続け、早く起きるのを願っている。

眠る、と言うよりは限界が来るとこくり、こくりと船を漕ぐ。それでも握った手は離さずに、最後は堕ちたように眠る。少し経って意識が戻ると自分が寝ていたことに驚き、そして握る手を確認して落胆する。

ここ5日間ずっと繰り返している。日中も繰り返しているのは想像に難くない。

その姿はまるで自分の弱さのせいに見えて、2人の心を刺し続ける。

「なら俺たちに何か出来るのか?」

キョウヤの呟きに対する答えは決まっている。ライファは何も返せず、もくもくと食事を続けた。



「なんだエリザベス、どうした?」

状況が動いたのはその夜だった。夜間、部屋ではなく荷馬車で寝ているリュウがエリザベスに起こされた。厩舎から勝手に出てきたのだろう。

「……」

「そういう事か、分かった」

エリザベスは何かしゃべるでもなく、暗闇の方をじっと睨め付けた。リュウはそれだけで何があったのか気づき、武装する。

エリザベスはそれだけではなく、地面を前足でガリガリと掻いた。そこに書かれたのは数字だ。

「敵は3人、って事か?」

「……」

「分かった。安心しろ、応援は呼んでくる。このまま夜の見張りを頼む」

「……」

その言葉に満足したようで、エリザベスはそのまま厩舎へと帰っていく。

「さてと」


「それは俺に声をかける程なのか?」

暗闇の中、物音ひとつなくリュウとサシウスが歩く。街から少し離れた森の中。真夜中のため周囲から物音は無く、虫の鳴き声が聞こえるだけだ。

「それほどでもないとは思う。が、万が一もあるし数が多いからな」

「それだ。本当に3人も来てるのか?」

言葉だけが小さく響く闇の中、サシウスが疑問をぶつける。大規模作戦の後、強力な戦力を3人も奇襲――この場合暗殺だが――のように動かすのかと言う疑問だ。何より情報源がエレファントホース(エリザベス)だ。

「なら、ルウとユイ君をどう思う?」

「ちっ……悔しいが納得だ」

動きには一切現れないが、言葉は悔しそうに響く。作戦行動中でなかったら怒りを壁にぶつけて穴でも開けていたかもしれない。サシウスもルウとユイの重要性を理解している。

「それで作戦は?」

「一気に仕留めるでも良いんだがな。一応は声かけしなきゃダメだ」

「面倒だがそうだな」

「あぁ。だから俺が正面から行くからサシウスは後ろに回れ。声をかけて敵が動いたら、一気に仕留める」

「了解だ」

そう言うとサシウスが回り込もうと動き出すが、フッと笑って足を止めた。

「どうした」

「色々足りなくて不器用だったリュウと、こういう作戦が出来るとは思えなくてつい、な」

暗闇で見えないがとても悪い笑みを浮かべていただろう。リュウが嫌そうにシッシッと手を払う。

「お前ごと叩き切る前にさっさと行け」

「はいはい」

リュウの反応に笑いながら答えると、サシウスは闇夜に消えた。


「こんばんは。こんな暗闇でどうしました」

「!?」

リュウは音も出さずに近寄ると、手持ちの照明に魔法(ライト)をかけて3人を照らした。相手はリュウが近くに居たことに気付いておらず、照らされた事に驚くと臨戦態勢に入る。

その変化に納得したように頷く。

「すぐ臨戦態勢。3人で他には居ないな。目的はなんだ、俺か?それとも俺の仲間か?」

「……」

相手は何も言わない。しかしお互いに目配せすると、2人はナイフを抜いてリュウに襲い掛かり、1人は後ろを向いて逃げ出した。

「うっ――」

「どうした、なんで逃げだそうとしてるんだ」

逃げ出そうと離れた1人のすぐ横からサシウスが現れる。明かりを照らしたせいで暗闇が見えづらく、その隙をついた。

サシウスはロングソードで心臓を一突きするとそのまま一気に振り払い、反撃も何もさせずに殺し切る。

「……何で隊長格が、2人も」

逃がそうとした味方が一瞬で殺された。その事に少なからず動揺して止まってしまう。その間にリュウはロングソードを抜いて静かに睨みつける

「俺の事も知ってるとなると、やっぱりルウ達狙いか」

「……」

リュウの言葉に何も反応せず、敵は2人揃ってリュウを襲いにかかる。

そしてそれは何も意味をなさない。

先を走ってきた1人にリュウは一気に踏み込むと、一太刀で2つにする。

「くっ」

目の前で起きた光景に敵は驚きながらもナイフで切りかかる。しかしその判断が無意味なほどにリュウは強かった。

「うっ、ぐふっ……」

ナイフを振るよりも早く腕を斬り飛ばす。痛みと速さに一瞬敵が固まると、リュウはロングソードの柄で腹をぶん殴った。その衝撃に体を()の字に曲げると、リュウは目の前に来た首を全力で絞めて堕とす。

「おっと、死なれちゃまずい」

そのまま地面に転がすと、切り落とした腕に残った服をはぎ取り、腕に巻いて止血を始める。

戦闘と言えるようなものではなかったが、戦いは一瞬で終わっていた。


「さすが、戦闘第2小隊隊長は伊達じゃねぇな」

「戦闘第1小隊隊長に言われても嬉しくねぇな」

サシウスの軽口にリュウが楽しそうに文句を言う。けれどその表情をすぐに消すと転がした敵をロープで縛り、サシウスに差し出した。

「これはやるよ。まともな情報は吐かないと思うが、それでも手柄にはなるだろ」

「こっちとしてはありがたいが良いのか?この功績があれば、リュウももっと上に行けるだろ?」

サシウスのその言葉にリュウから嫌そうな気配が滲みだす。

「行ってどうするんだ。ルウ達を守る人が居なくなるだろ」

「他に任せればいいだろ。人増やしても良いんだから」

サシウスのその言葉にリュウが殺気を混ぜる。リュウの珍しい殺気にさすがのサシウスが一瞬たじろぐ。

自分が何をしたのか気付いたリュウは、すぐに殺気を消して目線を逸らした。

「わりぃ」

「良いけどよ、何か癪に障ったか?」

サシウスが反省するように言う。けれどリュウは辛そうに星が輝く空を見上げた。

「……サシウスは、ルウ達の力は必要だと思うか?」

少し違う質問。その言葉にサシウスは悩まずに答える。

「必要だろ。判断力、能力、情報処理能力。全てにおいて戦線への影響がでかすぎる」

「俺もそう思う」

「だからリュウが指示を出せるような立場になって安全を――」

サシウスはそこまで言うとリュウと目が合った。暗闇で見えないはずなのに何かを後悔するような、諦めるような視線だ。

「あんな力を発揮して、体への影響が無いと思うか?」

「そのために今寝て休んでるんじゃ――」

「それだけじゃ無いんだよ。殲滅魔法を使ってる時点で、もう手遅れなんだ」

サシウスの言葉を遮りリュウが何かを覚悟するように言葉にする。その言葉をサシウスは何も言えずに受け止める。リュウは全てを諦めた様に微笑むと、返事を待たずに宿へとゆっくりと歩き出した。

「でも戦場はそんな感情許されない。必要なのはサシウスも分かるだろ」

「そりゃあ、当然だ」

「だから俺が上に行ってルウとユイの安全を優先した指示を出したら、その分他の人が危険になるだろうな。そしてあの2人はそれを許せない。きっと勝手に、大切な仲間を安全にするため危険に向かう」

「……」

「俺たちは、子供たち(ルウとユイ)の覚悟と犠牲の上で生かされてるんだ。最低な大人だよ」

少しずつ遠くなる声は、けれど不思議と耳に残り逃がさない。まるで断罪されているようだ。

「2人の進む先をもう変えられない、止められない。ならさ、せめて安らげるよう、これぐらいの安心は隣で作りたいじゃねぇか」

リュウの背中がどんどん遠くなる。

「おい!」

サシウスはその背を呆然と眺めていたがつい声をかけてしまう。けれどリュウは手を上げるだけで歩みを止めなかった。

「朝から護衛の予定なんだ。あと頼む」



サシウスは何も言えず、足元に転がっていた情報源を持ち上げた。

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