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魔法連隊~魔法奇襲部隊戦闘記~  作者: 西日爺


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14/18

14.八つ当たり

「……ライファ、水入れ替えろ」

「ん、あ、ちょっと待って」

「貸して。私が入れる」

ライファに渡そうとした桶をレインが奪い取った。

出発してからどれほどの時間が経ったかは分からない。エリザベスは行きとは比較にならない速度で走り続けており、がたがたと馬車は揺れ続ける。

それでも石や段差を踏まないように気を付けていて、大きな振動は今のところない。

桶に貯めていた水はすぐに暖かくなってしまった。額を冷やしている布切れはすぐ熱くなってしまうほど熱は上がっており、何度も交換している。状態は少し改善している、と思いたい。

動揺していたキョウヤも少し落ち着いた。先ほどから周りを見る余裕も出来て、ずっとルウの様子を気にしている。

ユイはずっと寝たままだ。体調がおかしい様子もなくただ静かに眠っている。

「……ライファ、後どれくらいだ」

「え、分かんねぇよ」

「……外に居るお前が一番分かるだろう」

「行きは寝てたし、外見てねぇ」

「……」

ライファの戯言にサッシャが珍しく殺気を発したが、それを気にせずにキョウヤが外を確認する。

「多分、半分は超えた。来るときに隊長達が動いた辺りかと」

「……先は長いな」

外の様子を確認する余裕も無かったサッシャが、落ち着いたように一息ついて張りつめていた緊張を少し緩めた。それでもすぐに険しい顔をする。

そんななか疲労と動揺から落ち着いたキョウヤがサッシャに様子を確認する。

「ルウ隊長の調子は?」

「……キョウヤが急いで戻ったおかげで何とかなった。後は休めるところで休ませる」

「そうか」

ルウの様子に大きな変化はない。熱にうなされながら寝ている。

ただ最初の頃よりもマシになったようで、痙攣は落ち着いてきた。もう少ししっかり休ませたいが馬車の中ではそうもいかない。

今出来る事は、ゆっくり休めるところに急ぐだけだ。


「っ……何なの!?」

急にコースを変えたエリザベスにより、馬車は大きく揺れ動いた。

勢いそのまま横倒しになる所だったが、エリザベスが反対方向に体を大きく振る。逆に振られた馬車は横倒しになるのを防ぐが、その代償に馬車の中はまるで嵐のよう。

キョウヤは近くに捕まる事で吹き飛ばされる事を何とか防ぐ。ユイはレインが、ルウはサッシャが抑えたが、外に居たライファはエリザベスの手綱を握ってしまったため、エリザベスが体を振ったのと同時に宙を舞う。

「おま――ひゃっ――ひ――!」

「エリザベス、何があったの!」

御者台から落ち地面に削られるライファを無視し、レインが外を確認する。

すると正面の方から弓を構えた5人の人影が確認された。全力で走っていたため警戒が疎かになっていたようだ。先ほどの急な進路変更は矢を避けたためだった。

まだ距離はあるが5人がかりの弓矢を避けながらいくのはエリザベスとは言え至難の業だろう。

「……行きの賊、か?」

「リュウ隊長とルウが仕留め損ねた?」

敵の動きを確認しながら、エリザベスが回避を続ける。最初と違い急激な動きがないのは、矢を放つと同時に動いているためだ。

「フォーーーー!?」

引きずっていたライファが邪魔になったのだろう。エリザベスが首を大きく振ると重り(ライファ)を空へと弾き上げる。御者台に無事墜落させたがボロ雑巾だ。

「どうする、急がないと」

「……」

キョウヤの言葉にサッシャが黙る。全員で降りて討伐すれば行けるが、今はその時間が惜しい。

「私、行ってくるわ。キョウヤ、ユイちゃんを支えて」

悩んでいるサッシャを無視してとてもいい微笑を浮かべたレインが勝手に動き出した。マントを羽織り、ナイフなどの武装を確認する。

「はぁ?」

キョウヤが驚くもその動きを止める事は出来なかった。そもそも止める事が出来たのかさえ怪しい。キビキビとすごい勢いで準備していく。

「……いや、レイン落ち着け」

「私は落ち着いてるわ。大丈夫、怪我なんてしないわよ」

「……違う、相手の情報を少しでも取っておきたいから1人は残して欲しいんだ。賊なら自決まではしないはず」

サッシャの言葉をまともに聞いているのか怪しい。レインは何も言わずに準備を完了させ、馬車の後ろ側へと向かった。

「行ってきます」

周りの困惑も気にせず、とても素晴らしい笑みで馬車から降りた。いつもは使わない丁寧な言葉が余計に恐怖を植え付けた。


「おい、誰か落ちたぞ」

「……エレファントホースが止まりもしねぇ……捨て駒か?くそ野郎だな」

「くそ野郎のおかげで金になるんだ。全然足りねぇがな」

「だな。もっと置いてけよ」

放ち続けていた矢が止まる。その隙をついて馬車は速度を上げて去って行った。それに気づき散発的に矢を放つが、それが届く事は無い。

馬車を襲撃したのは行きにルウとリュウに襲撃された賊の生き残りだ。街道を通る馬車や人を見定めて襲ってきた賊だが、大半が殲滅された。そこには(かしら)も含まれる。

だからこそ、賊は無能ではなかった。無能だったら強者も弱者も気にせず襲うため生き残らないだろう。

「ちっ……あれ、親分達を襲撃した馬車だぞ。エレファントホース引いてて目立った奴だ」

「つまり金を持ってるバカだ。しかも戦は続いているはずだぞ」

「だな。なのにもう逃げ出したんだ。臆病者のクズだろう」

「人まで見捨ててちげぇねぇ。拾いに行くぞ」

そう笑いあいながら落ちた人を拾いに行く。


彼らは何も知らない。


これまで逃げる兵を襲ったことはあったが、それは逃げたのではなく怪我をして襲いやすくなった者を狙っていたのだ。

そして人ではなく物資を狙っていた。人員を目的とした襲撃は救助隊や討伐隊が結成されやすくなる。それだけ高リスクなのだ。

元々はそういう判断が出来る頭脳が居たのだろうか、既にルウ達に襲撃された後だ。

「女だ。しかも美人そうだぞ」

「だな、売れば良い値段になりそうだ」

「しかも羽織ってるマントも良さそうだ」

「人も減ってどうしようか悩んだが、それだけ懐に入る金が増えるんだ。悪い事じゃねぇな」

「死んだ奴らの分も有効活用してやるよ」

そういうとまた笑い出した。

彼らは何も不安も心配もないのだろう。既に何もかも手に入れたつもりになっている。どんどん女性(レイン)に近づく。誰も武器を構えず、既に襲撃は終わったつもりなのだろう。


彼らは、何も考えていない。


「(後、15歩……10歩……)」

レインは俯き加減に距離を測る。ローブの前を強く握り、怯えている女性に見せている。

「おい、見ろよ。怯えちゃって……可愛いねぇ」

「はっはっは。安心しろ。殺しはしねぇよ、殺しは……なぁ」

どんどん近づいてくる。

よく見ればレインには怪我1つない。馬車から落とされたのならそんな事はありえない。しっかりと目線を見ていれば、距離を測っている事にも気付いたはずだ。

「(5歩……)」

「無理矢理連れてこられたんだろう、くそ野郎の元から離れられて良かったと思わしてやるよ」

見下す笑いを浮かべる。既に自分たちのモノだと思っているのだろう。

レインは気にせずただ静かに距離を測る。それはただ、獲物を見つけた肉食獣のよう。

「(……0)」

歩いて約4歩。先頭に居た(獲物)が射程に入った瞬間、レインは動いた。

ヒュン、と空気が切り裂かれるような音が響く。反応できた者はいなかった。

「……え?」

賊は首元に走った痛みに驚き、手で触れようとする。再びヒュン、と音がした。首を触ろうとした手は何も触ることが出来ず、文字通り空を舞った。

ボトン、と手が落ちる音が聞こえたが誰も気づかなかっただろう。急に動いたレインに驚き、全員が固まってしまったのだから。

「――ヒュー……。」

首から洩れる空気に気付くことも出来ず、1人が倒れた。

それで終わるわけがない。賊が動けない隙に一気に距離を詰める。

ドスン、とすぐ後ろに居た人の心臓にナイフを一突き。相手が反応する間もなくナイフを抜いた。即死だ。まだ生きているが、その目は困惑と恐怖に染まっている。

「て、敵ヒッ――」

3人目は被害が出る前に反応したがそれ以上の事は出来なかった。マントに隠していた剣を一気に抜くと、首を叩き切られた。

「……は?」

4人目は反応も何も出来なかった。固まったまま、ただ振られた剣を体で受け止めた。ただこの2人は幸せだっただろう。

恐怖をほとんど感じずに死ぬことが出来たのだから。

「えっ……はっ……」

最後の1人は惨劇を一番後ろで眺めていたが、何が起きたか理解できなかった。1人、1人と倒れていくのと小さな悲鳴、倒れた仲間から聞こえるうめき声と泣き声に足が固まる。

「……私、とても機嫌が悪いの」

「ひっ」

この惨劇の中、初めてレインが声を発した。それを正面から聞いた生き残りは怯え、今すぐにでも後ろを向いて全力で逃げたかった。

けれどレインから発せられる気配が後ろを向いたら殺すと言っている。

逃げ出すことなど出来ない。まぁ、逃げなかったところで結果は何も変わらないだろうが。

「運よく生き残ったんだから、長く生きたいわよね」

とてもきれいに笑った。悪意も殺意もない笑みだったが、その手に持った剣はその笑顔に似合わない。

ブンと血糊を振り落として仕舞うと、懐からナイフを取り出す。

「えっ……あっ……」

賊は恐怖で震えているが逃げる事も何もできない。その笑みを正面から受け止める。



「どうしよう……」

足元に転がるか細い悲鳴と血、体の部品を前に困ったように立ち尽くす。まだ生きている者は居るようだが、すぐに物にと変わるだろう。

「全員殺しちゃった……」


サッシャの言葉は一応覚えていた。

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