13.護りたいと願う者達
急な戦場の変化に最初に反応したのはリュウだった。急いで立ち上がるとルウの元へと再び走りだす。
次に動き出したのはヒカリ。敵の悲鳴と怒号を背に合流した。
それを封じたのは、敵の奥から飛んできた強力な一本の矢だった。
全てを吹き飛ばし貫くように敵を数人貫通し、殲滅魔法の一部を貫通し、倒れたままの動かないルウに向けて飛んできた。
「避けて!」
ヒカリが気づくと大声で叫ぶ。しかしルウの殲滅魔法に驚いたままのライファとキョウヤは動けない。いや、声すら聞こえていないかもしれない。
「だああぁ!くっそがあああ!」
それを守ったのはリュウだった。槍を捨て射線に飛び込むと腰に差した剣に持ち替え、矢へと振り抜いた。まるで居合切りのように、矢を弾き飛ばすかのように剣を叩き込む。
「ちっ!―――ヒ―――……」
信じられない事に矢は切れず、弾かれず、そして折れずに剣とぶつかり合った。
あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになるのを両手で何とか耐え、そのまま貫通していきそうな威力にリュウが動けなくなる。
その光景を前にやっと危険を理解したのだろう、ライファとキョウヤが動き出す。急いでルウを動かそうとするが、それよりも先に動き出したのはリュウの助けを聞いたヒカリだった。
何も言わずに自分の斧を矢に向けて全力で振り下ろした。まるで凶悪なハサミのように、剣と斧が両側から叩き込まれる。
「はぁ!?こっのぉ!」
信じられない事に矢は斧を弾いてしまい、ヒカリが悲鳴を上げる。
それでも吹き飛ばされそうになるのを何とか堪え、諦めずに再び斧を振り下ろす。全体重をかけた、守りを一切考えない一撃。
斧が再びぶつかった瞬間、甲高い音を響かせて矢は真っ二つに両断された。二つになった矢は軌道を変えながら後ろの方へ、ルウの方へと飛んでいく。ちょうどライファの近くに跳んで行ったが誰かに当たるようなことはなく、けれどその飛び方からも威力がよく分かる。矢は地面に落ちると、深く突き刺さった。
そしてヒカリの斧の限界も超えていた。それだけ矢が信じられない威力だったのだろう。手斧の中央からひびが入ると砕け散った。その残骸を信じられない様子でヒカリが見つめる。
「どんな威力よ。私の手斧が……」
破片の中から宝石を回収すると、取っ手だけになった斧をホルダーにしまう。
「ルウ!大丈夫か!」
リュウはそんなヒカリを放置してルウに駆け寄る。戦略魔法に驚いて尻もちをついたキョウヤが居るが、一切目に入っていない様子。
ルウは地面に倒れたまま動かない。いや、よく見ると痙攣を起こしており小刻みに震えている。
「くそっ!……『ウォーター』」
リュウは自分の服を袖から破ると、発生させた水に浸した。その袖でルウの顔の汗を拭う。異様に熱を帯びているおり、そのままおでこに袖を当て鉢巻きのようにしばりつけた。
残った水は少しでも体温が下がるように体にかける。
「あれだ!殺せ!」
そんな危険な状態を見逃されるほど戦場は甘くない。先ほどの殲滅魔法で敵の数はかなり減り、逃げ出したのも相当数いる。なのにまだ諦めず襲いに来た。
それでも数は少ないためリュウとヒカリでなら対処できるだろう。
「ライファ!キョウヤ!急いでルウを運べ!」
「は、はい!」
リュウはルウを早く逃がそうと横で座り込むキョウヤに手を伸ばすと立たせる。キョウヤがちゃんと立ったかも確認せずにルウを抱き上げると押し付けた。
かなり焦ってるのだろう、すぐ近くで転がっているライファには蹴飛ばす様に立ち上がらせる。
「一刻を争う。急いでサッシャに言って町まで運ばせろ!『2回使った』と言えば伝わるはずだ」
「え、あ、はい」
「急げ!」
今まで見たことがないリュウの怒号に2人は確認も何も出来ずに急いで走り出した。
「リュウ、どうしたのよ。あなたらしくもない」
ヒカリですら初めて見る、怒りと焦りを多分に含んだ声に驚く。なだめるのだが耳に入ってるのか怪しい。
そのままリュウはヒカリの言葉を無視して槍を拾う。調子を確認すると持っていた剣をしまい、ヒカリに放り投げた。ヒカリの手斧が壊れてしまったためその代わりだ。ヒカリは受け取った剣の調子を確認すると敵に向けた。
リュウはその動きも一切目に入らず、ただこちらに来る敵に怒りと殺意をぶつけている。
「さっさと敵を処理して追いかける。周りの味方は?」
「『天使の火炎』を怖がって今まで通り弓撃ってるわ」
「そうか」
敵は多い。それでも先ほどのルウの殲滅魔法のおかげでかなり減り、戦う意思がある敵も減った。
リュウが敵を睨みつける。今まで以上の迫力があるが相手に見抜く実力はない。
「ちょっとリュウ、本当に何があったのよ。そんなに怒り狂うなんて珍しい」
ヒカリとリュウの関係だからこその軽い調子だが、他の人だったら恐怖して話しかけることなど出来ないだろう。それほどに今のリュウは怒っている。
「ヒカリは殲滅魔法について調べたんだよな?」
「調べたわ。負荷が大きくて撃つと動けなくなるのよね」
ヒカリはまだ気づいていない。そもそも、さっきのルウの状態もその延長線ぐらいに感じているのだろう。
「それは1回目だ」
「えっ?」
リュウが辛そうに呟く。
「1回撃つと負荷が大きくて動けなくなるんだ。ルウの場合は一晩くらいは意識を失ったように眠る」
「……」
「ユイ君に関しては、知らない。ルウからは似た感じと聞いているが、意識を失う事は無いと聞いていた」
「でも今回、ユイちゃんも意識を失ったわよね」
「威力なのか範囲なのかは分からん。1回目は人によっても条件によっても症状が違う」
「……ちょっと待って、1回目?」
「2回目はどうなるか分からない。俺は最初、もう目を覚まさないかもと覚悟した」
ヒカリは何も言えなかった。リュウが怒っているのは自分の不甲斐なさに対してだ。
だからこそ、ルウの覚悟が見えてしまった。
借りた剣が、より重く感じた。
「サッシャ、毛布あるだけ出したわ」
「……真ん中にひいて、丸めて枕変わりにも」
「……!」
馬車が小さくガタン、と揺れた。
「……エリザベス、出発はまだだ。レイン、この桶を『ウォーター』で水いっぱいにしてくれ」
「了解!……『ウォーター』」
馬車の中はさながら戦場のような状態だった。
ルウを馬車の真ん中あたりに寝かせている。そのすぐ隣でサッシャが布や桶を並べた。汗を拭い、殲滅魔法を撃った時の火傷を治療するために水で濡らしている。
ユイは座席で寝かせており、馬車は普段以上に狭く感じる。
馬車の中にはルウとユイ、サッシャのほかにレインにはキョウヤが乗り込んでいる。
ちなみにライファは場所すらないため、御者台に寂しく座っている。御者は一切できないため、ただの置物だ。
ライファとキョウヤは、道中をほぼ全速力で走って来た。
途中、交代の兵士とすれ違ったが様子のおかしい2人に話しかける人は居ない。作戦本部の前を通る時にサシウスだけは声をかけて来たが、時間が無いと最小限の言葉のみ。後で叱られるかもしれないが、今はそれどころではない。
エリザベスの元にたどり着くと何故かいつでも出発できる状態で待っていた。音や気配で異常を察して、エリザベスがレインとサッシャにアピールして準備を始めたとの事。
異常を感知しただけで内容までは不明だったが、ルウを抱えたキョウヤを見ると状況を理解。『2回使った』と言う情報を聞くとサッシャは顔を青くして大急ぎで出発の準備を再開した。
それだけでルウの状態がどれだけ危険なのか分かる。
キョウヤは自分の腕を抱えたまま端っこで疲れ果てている。人を抱えたままずっと走り続けたのだ。周りもそれを理解していて、特に何を頼むでもなく休ませている。
「(体が熱を持っていた。異常に)」
ずっと抱えていたからこそ、ルウの異常をよく分かっている。
「(ずっと呻いて、震えていた)」
自分の手に残るルウの異常に震えが止まらない。何が起きたかは分からない。ただ、良くない事が起こっているのだけは何となく気づいた。
「(あのまま居たらルウ隊長は……)」
体が震えて来た。今になって恐怖を感じる。よく知る仲間の死が目の前にあったことを今になって実感していた。
「……よし、エリザベス出発だ」
その言葉を待っていたのだろう、サッシャの「よし」の「よ」辺りで馬車は動き出していた。
来る時のような静けさとは無縁、ガタガタと音を立てて速度を上げていく。




