勇者仲間 ③
思い出してほしい。ブランを作った毛糸は、元々は貴族令嬢の手袋だったことを……。
私の「手芸創作」のスキルで、編みぐるみが巨大化して魔物を攻撃できるならと、もう一体作るために毛糸を買いにきたんだけど……ちょっと考えが甘かったみたい。手芸屋さんはなかったけど、なんでも売っている雑貨屋さんを見つけて毛糸を探すこと暫し。
「ブランは白い編みぐるみだったから、もっと色の濃い毛糸とがいいかな?」
黒い馬? 赤いドラゴン? う~ん、黄色も目立つよね。
ふくよかな女性の店員さんがニコニコと営業トークをしかけてきたので、私も毛糸を買いにきたことと編みぐるみを作りたいことをウキウキモードで話した。そして、ブランの編みぐるみをベタ褒めしてもらい、鼻がぐぃ~んと伸びたところで、「おや?」と店員さんがあることに気づく。
「あら、この毛糸。ずいぶんと品質がいい……あらあら、これはカラーシープの毛糸ですね」
「からーしーぷ?」
なんじゃそりゃ。どうやら話を聞くと、ただの羊の毛糸ではなく、カラーシープという魔獣の毛糸らしい。
え、魔獣の?
「それって、なにか変わります?」
「付与するならカラーシープの毛糸です。魔力の通りがいいので」
「まりょく」
うん……ここで、私は悟ったよ。アレでしょ? 私の「手芸創作」スキルで、編みぐるみをブランのように動かしたいなら、普通の毛糸だったらアウトってことでしょ?
「あ、あのぅ……普通の毛糸とカラーシープの毛糸って、お値段は……?」
「色にもよりますが……軽く三倍はしますよ?」
はうっ! うん知ってた。カラーシープの毛糸が高いって。魔力の通りがよくて付与魔法をかけるのに最適なら高いよね? そりゃ貴族令嬢の手袋に使われるぐらいだもん。つまり……あの手袋にも何らかの付与魔法が施されていたかも。
「カ、カ、カラーシープの毛糸ってあります?」
ただの編みぐるみを作るんじゃない。小次郎と共に戦える編みぐるみが欲しいのよ。だから、高くてもカラーシープの毛糸を買わないと……。
「……たかっ」
普通の毛糸が一玉五百円だったとして、カラーシープの毛糸は安くて千五百円で、一万円するものもある。染色による手間賃で違うらしいけど、高すぎる。
「……一番安いのは?」
「そうねぇ、これかしら」
私は店員さんが薦めてくれた毛糸を買いました。……あと目に使うボタンを。
みんなの視線がテーブルの上に置かれた毛糸に集中している。コロンと転がった毛糸玉……その色の地味なこと。
「茶色?」
「何を編むつもりなんだ?」
小次郎と兄の言葉に、私はそぉーっと顔を背けた。いやいや、私だって攻撃力の強い動物にしようと思ったよ? 犬のつもりで作ったブランが勝手にオオカミに種族変更していたことは置いといて。
「茶色……イノシシ? あ、鷹とか鷲とか?」
姉の無邪気な声に私は荒んだ声で答えた。
「イノシシでもいいの? あと鷹とか鷲とか、編めないよ」
かなりの種類の編みぐるみを制作した私だが、そういえば猛禽類は作った覚えが……。
「あ……アレなら、イケる?」
私は、兄たちの前から毛糸をひったくると、部屋の隅でせっせっと編みぐるみを作り始めた。確か、アレは攻撃力もあったはずだし、頭もよかったはず。
じぃーっと見る兄たちの視線を背中に浴びつつ、私は茶色の糸を編み続けた。
兄が夕食の支度に宿の厨房へと下りていき、その手伝いとして小次郎も部屋から出て行った。姉は、冒険者ギルドでの依頼で得る報酬と、かかる宿代や生活費を計算して貯蓄シミレーションをしているみたいだ。家を買うためにコツコツと貯めていかないといけないし、異世界で不自由なく生活するには、まだまだ足りないものが多すぎる。無駄使いしないために、姉は必死に計算している。
そして、できた夕食を部屋に運んできた兄と小次郎が揃ったところで、私は作り終えた編みぐるみをテーブルの上にちょこんと乗せた。
「菊華……これは?」
「編みぐるみ。……フクロウよ」
そう、猛禽類で思い出したが、私はある映画のキャラクターであるフクロウをせがまれていっぱい作ったことがある。ちょうど色も茶色だし、フクロウがいいのでは? とピンときたのだ。胸とお腹は白い毛糸の余りを使って、胸の模様にベージュ。ブランより大きめな黒いボタンを目に、赤い糸で口を、攻撃するなら足のかぎ爪をどうしようか悩んだけど……ブランも動き出したら牙も爪も生えていたし、今回は作らなかった。もし、かぎ爪がなかったらあとで作ってあげよう。
「あら、かわいい」
ツンツンと指で突く姉の姿に、私はあることを思いついた。
「あのさ、そのフクロウに魔力を注ぐの……お兄ちゃんかお姉ちゃんがやってみない?」
そう、ブランは私が作って私の魔力で動くが、もしかしたら私の作った編みぐるみは他の誰かの魔力でも動くのでは? と思ったのだ。特に、私の家族だったら動く可能性は高いのでは?
小次郎はなんとなく勇者だから魔力が桁違いの気がしたし、せっかく勇者なんだからもっと強そうな相棒がいいかなって。
「そうか……。桜、どうする?」
「う~ん、もっとかわいいのがいいかな?」
「お姉ちゃん、ペットじゃないのよ?」
愛玩用の編みぐるみなんか作っている場合じゃないでしょ?
「じゃあ、俺か……。よしっ! フクロウは頭もいいし、飛べたら斥候の役もできるし……高いところの果実が取り放題」
ん? なんか最後欲望塗れの何かを呟かなかった?
私が首を捻っている間に、兄はポンッとその手をフクロウの頭に乗せた。




