勇者逃亡 ⑳
ワイバーンの首を斬ったのが小次郎と私の共同作業であることを……レオンさんにバレた。バレてた。最初っから感づかれてた。
「ど、ど、どどどどど、どうして?」
あのワイバーンと対峙したときの謎の発光は、実は兄が「生活魔法」である「ライト」を最大限の出力で、ブッ放した結果だったことをあとで教えてもらった。ナイスフォローと兄を褒めて褒めて褒め倒したのに……厄介な人には見破られていたなんて!
「……目がいいから?」
無表情のまま、コテンと首を傾げるレオンさんに向け、私はしょっぱい顔をした。イケメンがあざとい仕草をしても、心が癒されないっ。いまはとにかく、小次郎の秘密を守らなきゃ。
「えっと……剣が見たいってことでしたよね?」
イケメンさん無言で頷く。なんだか、やりずらいなぁ。さりげなく小次郎を背中に庇い、姉へチラッと視線を投げた。
「菊華ちゃん。たぶん、レオンさんには魔法鞄を持っていることもバレてるわ」
困ったわねと言いたげに、姉は片手を頬にあて「ふうーっ」と悩ましげに息を吐く。無駄に色気を振り撒かないで!
「仕方ないか……。小次郎、剣を出して」
「うん」
ごそごそと深緑色のリュックに手を突っ込んで、剣の柄を掴んでそのまま引っ張り出す。小次郎が扱うには些か大きいその剣を、「はい」とレオンさんに手渡す。
レオンさんは目を大きく開いて剣を手に固まる。じっと剣を凝視して何も言わない。ちゃんと息をしているのだろうか?
「レオンさん?」
「ハッ! こ、この剣、抜いてみてもいいか?」
姉と私、小次郎の三人は微妙な表情で頷いた。だって、その剣がどんな剣だか知らないし……あのバカ神が寄越したものだし……。
私たちが見守る中、レオンさんは慎重に鞘から剣を抜いていく。やや幅広の両刃。剣の持ち手近くの刀身に金で何かの紋章が刻まれている。
「これは、聖剣だと思う」
「せ、聖剣?」
私と小次郎が「それがどうした?」とキョトン顔に対して、姉は一気に挙動が怪しくなる。どうした?
「まずいわ、まずいわ。菊華ちゃん、小次郎ちゃん。聖剣って勇者が持つ剣って相場が決まっているのよ。むしろ、聖剣が扱えるのは勇者のみって……」
ぬわんですってぇーっ! なんでそんな身バレするようなモンを小次郎に渡してんのよ、あのアホ神ーっ!
姉と私がダラダラと冷や汗を全身にかいていると、小次郎は無垢な瞳をレオンさんに向けて言い切った。
「……父の形見です。お金に困ったら売ります」
ええーっ! こ、小次郎? そんな打ち合わせなしで知らん設定を口にされたら、私は何も言えないのですが? ちなみに姉はもっとヤバいことを滑らせそうなので、私の手で口を塞いでます。モガモガと暴れないでちょーだい。
「父上は?」
小次郎はフルフルと頭を横に振り、身の上話を始める。ほとんどは嘘じゃないけど……。
「……というわけで葵さんと桜さんと菊華ちゃんの家に引き取られたんです」
「血の繋がりはなさそうだと思っていたが、そんなことが。そうか……」
レオンさんのキレイな緑色の瞳に憐憫の色が混じる。そして、自分の手にある剣へと視線を落とす。
「この聖剣は、神に認められた者だけが手にすることができる神剣だ。父上の持ち物だったとしても、今はコジローが所持しているなら、なるべく隠しておけ。いらないトラブルの元となる。そして、コジローには才能がある。剣の鍛錬をするといい」
「え、えっと……」
小次郎が返事に困って左右をキョロキョロとし出したので、私はすかさず笑顔で応える。
「兄と相談しておきま~す」
案の定、一家の長である兄にすべての決定権があると思っているレオンさんは、無表情で「うむ」と頷いた。どうも、この世界では実力主義でありながら、男尊女卑つーか、父親絶対の社会みたい。女子どもは一家の長に大人しく従うことって。冒険者とか地位や権力のある女性は違うかもしれないけど、そんなのほんの一部の人だけだもんね。
やだなぁ、自由に生き方を決められないなんて。私や姉はこの世界に馴染んでいけるんだろうか? あ、姉はある意味、馴染んでるけどね。
私は小次郎のリュックにレオンさんから返された剣を奥の奥にしまい込むように手を突っ込んだ。小次郎にも絶対にリュックから出さないように言い含めておく。レオンさんからはついでにと「魔法鞄」も持っていると悟られないようにと注意を受けた。それは重々承知です。
ワイバーンの肉を受け取ったら、「ライゼ」の宿泊するホテルの厨房を借りて料理することが許可された。わーい。お兄ちゃんは定番のステーキ以外にも肉料理を作ってくれると信じている。調味料もふんだんに使っていいとのことだし、楽しみ、楽しみ。
「ところで、今日……私たちの宿はどこにするつもりなの?」
冒険者ギルドで安くてお勧めの宿をいくつか教えてもらったし、シルビオさんたちからも情報収集済みでしょ? そろそろ、宿に移動してゆっくりしたい。
私の質問に兄はわざとらしく目を逸らした。なんだ?
「アオイたちはここに泊ればいい」
シルビオさんがなんでもないように言ったけど……ここ、お高いでしょう?
「……シルビオさんが一泊分、払ってくれるって」
「え?」
「もちろん、この部屋じゃない。もう少し手頃な値段の部屋が空いているということで、もう借りてきた。部屋の場所はアオイが知っているし、鍵も渡してある」
「まあ、お言葉に甘えよう。さぁ、部屋へ移動するぞ。荷物を持って」
兄の号令に姉と小次郎が立ち上がるけど……本当にいいの?
「借りてもらった部屋には……お風呂が付いている」
「早く行きましょう。シルビオさん、ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げたあと、私たちは早足で部屋をあとにするのだった。




