勇者逃亡 ⑰
アーゲン国ウェルタ辺境伯領都ラントの冒険者ギルドまで、レオンさんに案内してもらおうとその姿を探してみるがみつからない。あんなにキラキラとしたイケメンなのにいない。隣には相棒のドラゴンを連れているのに見当たらない。嘘でしょ! ワイバーン持ち逃げされた!
「菊華、菊華。こっちだよ、こっち」
兄にトントンと肩を叩かれて振り向くと、いましたキラキラとしたイケメンさん!
「あれ? レーゲンはどこに?」
まだ子どもだというバカデカイ体の「びゅい」とかわいく鳴く、レーゲンの姿がどこにも見えないけど? キョロキョロしている私に、レオンさんはププッと噴き出して笑う。
「なんですか?」
「ああ、すまない。レーゲンならここにいるよ」
くるりと背中を見せるレオンさん。そのマントにはべったりと張り付く大きなトカゲ? トカゲなの、これ? 羽が付いてるけど?
「レーゲンだよ。街中だからね、縮小化させている。ドラゴンでも高位になると人化や縮小化ができるんだよ」
「人化ーっ!」
姉が急に興奮して騒ぎ出した。オタクの世界ではあらゆるものが擬人化されるので、人化の言葉にオタク心が刺激されたんだろう。あの興奮状態はいつものことなので、放っておく。
「冒険者ギルドに行く前に仲間を紹介したい。アオイ、サクラ、キッカ、コジロー、こっちに」
背中にちっちゃいドラゴンをくっつけたレオンさんの後ろをついていくと、肩にちっちゃいドラゴンを乗せた体の大きい男の人と黒いローブを着た女の人と白いローブを着た女の人がいた。体の大きい人は、さっきのワイバーン騒ぎのときにもいた人だった。
「冒険者パーティー「ライゼ」のリーダー、シルビオだ。こっちは魔法使いのカルラでこっちはヒーラーのオリビア。よろしくな」
「タ……、コホン。トリーア王国のスタンピードから避難してきたアオイです。こっちは上の妹のサクラ、こっちは下の妹のキッカ。それと……弟のコジローです」
ペコリと頭を下げて挨拶すると、三人から息を呑む気配がした。う~む、クセでついやっちゃうけど、安易に頭は下げないほうがいいかも。
「リーダーのシルビオだ。ワイバーン討伐では迷惑をかけた」
「あら、迷惑をかけたのは弱っちいアーゲン国の騎士たちよ。あたしたちは依頼された数のワイバーンを瞬殺したわ」
フンッと顎を上げて尊大に言い放つのは黒いローブの女性で、魔法使いと紹介されたカルラさんだ。
「クスクス。だめよ、本当のことを言っては。正直、私たちだけですべて完璧に討伐できましたけどね」
カルラさんを嗜めるようでいて、さらに毒を放つのは白いローブを着たヒーラーのオリビアさん。ヒーラー? 外見はおっとりして美人だからヒーラーにはピッタリだけど……セリフは辛辣だわ。
「ここね」
三階建ての冒険者ギルドを、家族揃って仰ぎ見る。私と兄はワイバーンの買い取り価格が気になるし、小次郎は子どもらしくワクワクしている。姉? あの人はハワハワ言いながら、出入りする冒険者をジロジロ見ている不審者となり下がった。もう、知らん。
「そんなに緊張しなくてもいいぞ?」
「そうよ。突っかかってくるバカがいたら、あたしがぶっ飛ばすわ!」
ニカッと人懐っこい笑みを向けるカルラさんだが、言葉は武闘派である。なに、この子怖い。
シルビオさんに先導されつつギルドの中へ。お邪魔しまーす。
「あれ? あまり人がいませんね?」
アーゲン国のラントの街は、冒険者が少ないとか?
「昼どきですし。ギルドが混むのは依頼書が貼りだされる朝早くと、依頼を終えて戻ってくる夕方ですよ」
「あ~あ」
オリビアさんはその後も何も知らない私たちに、依頼書が貼りだされる掲示板とか、受付窓口と買い取り窓口、魔獣を解体する作業場と、冒険者から持ち込まれた素材を鑑定する窓口などを説明してくれた。なんて親切な人!
「あのギルド職員はクソです。あっちの職員はバカです」
……その情報はいらなかったかなぁ。
横目でギルド内を観察しつつ、買い取り窓口をスルーして直接解体作業場へ。
「おーい、解体を頼む」
「おう、ランゼの。今日もワイバーンか?」
金属製の大きな作業机の向こうから野太い声が響き、ぬぼっと現れたのは、シルビオさんぐらいの大きさの筋肉隆々なエプロンをしたおじさんだった。すっご、筋肉。片手にでっかい包丁持ってるけど。
「またワイバーンだが、これは騎士の依頼とは別口だ」
「ほう、じゃあ素材は冒険者ギルドに売ってもらえるのか?」
橘一家は魚の卸市場みたいな作業場にキョロキョロ。いまは解体作業をしていないので、グロい魔獣の姿が見えない。そんなの見たくない。
「アオイさん。ワイバーンはどの部分を売りますか?」
「へ?」
ここでレオンさんたちと相談。勘違いしていたけど、まずワイバーンは討伐料がもらえる。これだけでもかなり高額なんだって。ワイバーンが高ランクの魔獣、つまりそれだけ危険だということだけど。そして解体して出た素材のお金は別。ワイバーンってば、二度おいしいわ!
「皮は防具、マントや靴にも使える。爪はナイフにいい。内臓には薬の材料になるもの……」
「あ……、別にほしいものはないです」
小次郎がもう少し大きくなったら防具とか揃えてあげたいけど……まだ成長期だしね。兄には神様からもらった包丁があるから、刃物は足りているし。内臓もらっても……薬なんて調合できないし。何もいらないからお金をください。
「いいのか? 肉は美味いぞ?」
「お肉は引き取りで!」
橘家の心がひとつになった!




