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Eleventh Question“Live”

 エレベーターの中でM4カービンのリロードをするクリス、そして隣ではスーツのネクタイを締め直してる渡辺。


 現在、ニューヨークのとあるビルの屋上に向かっている真っ最中だった。と言うのも、イレナの指示により浮遊している目標地点からある程度離れており、そして唯一の移動手段であるヘリが着陸できるビルがここだというのだった。


「それにしても、想像してたのと違いましたね。もっと、こう。なんというか、人っぽいのが出てくるのかと」


「あぁ、俺もマシュマロマンを期待してたんだがな」


 ニューヨークに入った時には、すでに地上は大混乱に陥っていた。多くの人が、黒い獣に襲われており、警察なども対応に追われていたが、とても追いついている様子ではなかった。


 しかし、無数の敵を前に二人にできることなど高が知れている。できることは、一刻も早くこの元凶となっている、空中に浮かぶ繭を処理することだった。


「どうやってあれを倒す? のでしょうか」


「さぁな。核兵器以外だったらなんだっていい」


 M4カービンのコッキングハンドルを引く音がエレベーターの中で響く。


「最期の戦いだ。出し惜しみは無しだ」


「はい」


 その瞬間、エレベーターが軽く振動するのと同時に中の照明が数回点滅したかと思うとそのまま消える。同時に、エレベーターに乗っている時の特有の浮遊感も消えた。


「……」


「……」


 無言の二人、だがお互い言わんとすることはわかっていた。


「Fuck!!」


「……確か、最後の表示って五十階付近でしたよね」


「屋上は六十階くらいだったか? あぁ、チクショウ! 急がなきゃいけねぇってのにっ!」


 クリスは床にM4カービンを投げ捨てると、目の前の扉をこじ開けようと指を隙間に入れる。すかさず渡辺も手伝いに入るが、扉は固く閉ざされておりビクともしない。


「開きませんね……っ」


「っ、こうなったら第二の手段だ。スピード観たことあるか?」


「名前だけは」


「名作だぞ。サムライ、背中貸せ」


 クリスに言われ、その場にしゃがむ渡辺。その背中にクリスが乗ると天井を銃の先端で軽く突っつき始める。すると、天井の一部が外れエレベーターの外に出られる通路ができる。


 できた通路の端を両手で掴み、体を浮かせエレベーターの天井に滑り込ませるクリス。


「よし、行けたな。おい、こっちこい」


 と、クリスが渡辺を引っ張り上げようと手を差し出そうとした。だが、それよりも先に、渡辺は普通には飛んでは届かない通気口の端を軽々と掴み、クリスの手を借りることもなくエレベーターの天井へと辿り着く。


「お待たせしました」


「……お前、この仕事終わったらスタントマンにでも就職しろ」


「ははは、考えておきます」


 そうして周りを見渡す二人、一応非常灯はついているのか薄暗く普段は見ることのできないエレベーターの裏側が見ることができる。そして、背面の壁に描かれている数字では『54』と『55』の間で停止していたことがわかる。


「ここを伝って昇ることは……できないですよね」


「できたらそいつはスパイダーマンだ」


 エレベーターを支えるワイヤーを触りながら渡辺は言うが、クリスの言う通り現実的ではない。クリスは背中に銃を回し、おそらく五十五階の扉を抉じ開けようと指を隙間に入れる。すると、先ほどとは打って変わって、一人の力でもゆっくりとではあるが開けることができた。


「よし、開いたぞ」


「急ぎましょう、多分屋上でも酷いことになっているはずです」


 半分ほど空いた扉に体を滑らすクリスと渡辺。ビルの五十五階に人の気配はなく窓から差し込んだ光だけが廊下を照らしており、地上の喧騒とは裏腹にやけに静まり返っており不気味な空気が流れている。


 クリスは銃の安全装置を解除し、渡辺は刀の柄に手を当てながら廊下を警戒しながら屋上へと続く階段を探しながら進んでゆく。


 しかし、ふと窓から差し込んだ太陽の光に一瞬だけ影が差し込む。


「っ……!?」


 銃を窓に向けるクリス。その視界に入り込んだものは、数十羽にも及ぶワシの群れだった。そのどれもがアメリカを象徴する白と茶の二色のワシではなく、あの繭と同様のドス黒い色をしている。


 そして、眼が合う。


「走れ走れ走れっ!」


「はいっ!」


 次の瞬間、廊下の窓ガラスが粉々に砕ける音。クリスと渡辺の後ろで次々と廊下に入り込んでゆくワシの群れ、それは廊下に入り込んだ瞬間、どろりと溶けると形を変え地上で見た狼へと姿を変えてゆく。


「こいつらを相手してられっかっ!」


「クリスさんっ! 階段ですっ! ですが……っ」


 先頭をゆく渡辺が声を上げる、後ろで応戦していたクリスが渡辺の視線の先に目をやると、確かに階段のイラストが描かれた箇所を発見するが、その階段は鉄製の防火扉で固く閉ざされている。


「クソが、サムライっ! 後ろ任せたっ!」


「了解っ!」


 位置が入れ替わり、クリスが先頭を走り抜ける。後ろでは渡辺が刀を抜き、狼と対峙している。だが、廊下という狭い場所であるためか、うまく戦うことができず、あまり長くは持ちそうにない。


 クリスは防火扉の前に立つ念の為ドアノブを回してみるがビクともしない。大きく舌打ちをし着ていたオーバーコートを脱ぎ、ポケットから愛用のウォークマンを取り出すと代わりに腰に下げていた手榴弾を仕込む。そしてオーバーコートを防火扉のドアノブに吊り下げると手榴弾のピンを抜いた。


 防火扉から離れ廊下の陰に隠れるクリス、しばらくすると凄まじい爆発音と共に廊下に防火扉と思しき破片がクリスの隠れている廊下にまで飛んでくる。


「サムライっ!」


「今行きますっ!」


 渡辺は首元に喰らいつこうとしていた狼を頭部から串刺しにし薙ぎ払うとすぐさまクリスの元へと駆けつける。まだ爆煙で視界不良の階段の入り口目掛け二人は突っ込んでゆき、階段を駆け上がってゆく。


 だが、二人が階段を駆け上がる音と同時に聞こえてくるのは、その下で同じく二人を追う狼の爪で地面を蹴り付ける音。


 しかし屋上までの道のりは長く、昇った階数が十階を超えた辺りだった。


「あと三階で屋上ですっ!」


 渡辺はまだ余裕そうにしているが、すでにクリスは体力の限界が近づいており階段を駆け上がる足取りが目に見えて落ちていた。迫り来る狼との距離は縮まりつつある。


「ハァ……っ、ハァ……、クソ……っ! ここで迎え撃つしか……っ」


 M4カービンのマガジンは装填している分を合わせ残り二本、デザートイーグルに装填できるマガジンも一本しかない。ここで消耗させたくはないが、そうでもしなければ殺されるのはこちらである。


 クリスが銃を構え狼を迎え討とうとした時、左手で銃を構えるクリスを渡辺が制止する。


「クリスさん、ここは僕が。あなたは先に」


「な、お前っ! こんな狭いところじゃそいつは不利だぞっ!」


「大丈夫です、あんな畜生共は普通のミラクルに比べれば敵ではありません。それよりも、クリスさんにはするべきことがあります。安心してください、必ず追いつくんで」


「追いつくって、お前あの量をっ……!?」


 完全に覚悟が決まっている表情をしている渡辺の行動にクリスが吠えようとした、まさにその瞬間だった。


「……伏せてください」


 背後から聞こえてきた暗い男性の声。その言葉に思わず従いしゃがみ込む二人、同時に頭上に炎の柱が横切る、それは階段の踊場とそこにちょうど駆け上がってきた狼どもを焼き尽くし、辺り一体を灼熱地獄と化す。


 咄嗟に二人同時に後ろを振り向き、この炎を吐き出した人物の正体を確認する。するとそこには火炎放射器とタンクを背負い、その物々しい見た目とはあまりにもミスマッチなバーテンダーの服装を着た初老の男性が立っていた。


「……クリスチャン様、渡辺様。ご無事で?」


「……危ねぇだろって、言うところだったが。マジで助かった、ありがとう」


「……お役に立てれば幸いです」


 恭しくお辞儀をしたバーテンダーの正体はコルトのマスターだった。その姿を見てどこか安心をした様子の二人だったが、炎の勢いは徐々に弱まっている。


「……クリスチャン様、渡辺様。お急ぎを、イレナ様が屋上でお待ちです」


「言われなくても、行きましょうっ! 走れますかっ!?」


 立ち上がり、そう言って手を差し出す渡辺。その言葉を聞き、少しだけ頬を吊り上げ、その手を強く取るクリス。


「新人が。生意気言いやがって、行けるに決まってんだろうが、サムライっ!」


 渡辺に引き上げられ立ち上がるクリス。再び渡辺を先頭に屋上へと向かって走り出す一向、その後ろではコルトのマスターが追ってくる狼の軍団を火炎放射器で焼き払っている。


 そして見えてきた屋上への入り口。


 出口から照らされた太陽の光と、街の焼かれる匂いが一気に流れ込んでくる。だが、そんな感覚を受け入れたのも束の間。突如後ろから来た強い衝撃で勢いよくヘリポートの上を倒れ込むクリスと渡辺。


 次の瞬間、大きな炸裂音と共に先ほど自分達が通ってきた屋上の出口が爆発で吹き飛び背中に細かい破片が当たる。衝撃の正体は、コルトのマスターが二人を突き飛ばしたからだった。


「……突然申し訳ございません。出口にC4爆弾を仕掛けさせていただいておりまして」


「「それは先に言って」おけ!」ください!」


 抗議の声を上げるクリスと渡辺、その前をコツコツとブーツで地面を歩くような音が聞こえてくる。同時に顔を上げた二人の目に映ったのはC4爆弾のスイッチを投げ捨てる黒のオーバーコートを着込み、渡辺と同様のスーツを着込んだ、こちらを見下ろすイレナの姿があった。


「随分と遅かったわね。仲良くモーニングにでも行ってたのかしら?」


「……あぁ、クロワッサンとコーヒーをな」


 クリスの返答にも、微笑を崩さずイレナは踵を返しヘリポートをまっすぐ歩く。その後ろ姿を目で追いながら立ち上がるクリスと渡辺が彼女の向かった先にあったものに思わず目を見開く。


「なら、腹ごしらえは完璧ね。さぁ、最後のお仕事の時間よ」


 二人の目の前にあったものは、ヘリはヘリでもただのヘリではない。それはおそらく映画でしか見たことがないような、本来であれば軍などが保有している、ミサイル等の武装を搭載している軍用ヘリだった。


 唖然としている二人を他所に、イレナは何の躊躇いもなくヘリの腹のドアを開けそこに乗り込む。そして、コルトのマスターもまた何の迷いなくヘリの操縦席へと搭乗してゆく。


「二人ともっ! 急いでっ!」


 イレナの催促に、少し顔を見合わせたクリスと渡辺は覚悟を決めたように軍用ヘリへと駆け出して乗り込む。ヘリの中は座席の他に壁にはクリスでも扱ったことのないような武装品や装備品があり興味津々で周りを見るクリスと、緊張しガチガチになって腰の刀をまるでぬいぐるみでも抱きしめるように抱いている渡辺の姿があった。


「これをつけて、一応安全のために」


 イレナが差し出したのは通信機能付きのヘルメットだった、それを渡されたクリスと渡辺は各々装着してゆく。


「……おい、イレナ。こんなもん、一体どうやって用意したんだ」


「あら、組織の私物よ」


「……俺らってゴジラとでも戦うつもりだったのかよ」


 思わず溢れるクリスの言葉に、軽く吹き出す渡辺。そんな二人を見て、イレナはどこか嬉しそうだった。もっとも、そのことに二人は気づいていないが。


『……離陸します。ご注意を』


 操縦席に座っているマスターの通信機の音声と共に機体の上部のモーターが動き出し、凄まじい風と共に浮上する機体。先ほどまで目線の下にあったヘリポートとビルがどんどん離れてゆき、傾いた機体が目標地点へと向かい始める。


「でも、ゴジラの方がまだマシだったかもしれないわね」


 イレナは開け放った搭乗席のドアを開け放つ。入り込んだ空気が少しだけ和やかだった空気を斬り裂き、一瞬で搭乗席を緊張と重圧で塗りつぶす。


 風圧で押し返される視界の中見えたのは、炎と悲鳴、そして黒煙と何かが焼ける臭いがする、多くの人で賑わい、開拓の始まりの地として発展を遂げたニューヨークの成れの果ての姿だ。


 そして、


「私たちが相手にするのは、モンスターじゃない。神よ」


 ヘリの目の前を浮かぶ、おおよその大きさすら測れないほど巨大な、全ての元凶の黒い繭。その外壁の一部が無数に剥がれ落ち、それが新たな生命として地上を古き生命を喰らっている。


 故に、これは。


「さぁ、始めるわよ」


 コンパウンドボウをイレナが構える。同時に、クリスもヘリの壁に立てかけてあった対戦車ライフルであるGM6 Lynxを構える。


「生き残るための、最後の戦いを」


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