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三橋とから揚げレモン

作者: 島津恭介
掲載日:2025/06/21

 三橋宇良は、から揚げにレモンをかけない。


 食べ物の中で最もから揚げが好きな三橋である。

 そして、にんにくと生姜の効いたから揚げに、レモンの酸味は邪魔だと考えて生きてきた。

 だが、最近の三橋は、ある悩みを抱えていた。


「それでな、宇良君。あの件についてだが……」


 夜、本城課長に強引に飲みに誘われる。

 それはまあいい。

 本城課長は、ふたつ歳上の女性上司であるが、シゴデキだしとても美人だ。


 ビールで乾杯した後、から揚げが出てくる。

 流れるように、課長がから揚げにレモンをかける。

 三橋は、心の中で、ため息を吐いた。


「さあ食べたまえ宇良君。から揚げが好物なのだろう?」

「はい……大好物です」


 レモンをかけたから揚げは嫌いですとは言えない。

 会社の上下関係ではあるが、三橋は本城課長には逆らえなかった。


「はむ……美味しいです」

「うんうん、宇良君はいつも頑張っているからな。こんなことしかできないが、お礼だと思ってくれ」


 本城課長に悪気はない。

 それどころか、とてもいい人である。

 から揚げを食べる三橋を笑顔で見守る本城課長に、とても本当のことは言えなかった。


 そんなことが何度も続き、最近の三橋はレモンをかけたから揚げしか食べていない。

 レモン抜きのから揚げに、三橋は飢えていた。


 その日、三橋は帰宅後揚げ物鍋を取り出した。

 外食で食べられないなら、自分で作る。

 鶏もも肉は買ってきてある。

 準備は万端だ。


 まず、鶏もも肉を包丁で切る。

 一人暮らしではあるが、三橋は料理が好きだ。

 課長に拉致られなければ、自炊するくらいには料理男子である。

 次に、にんにくと醤油を入れた生姜汁にもも肉を漬け込む。

 それから冷蔵庫に入れて、待つこと二時間。

 キッチンペーパーを敷いたパッドに鶏肉を並べ、水分を拭き取る。


「ふふ……いいツヤだ」


 ちょっと人には見せられない顔で涎を垂らす三橋。

 そんな自分の顔には気づかぬまま、次のパッドに片栗粉を用意し、鶏肉をぶち込む。

 片栗粉を程よくまぶした後、さらに冷蔵庫に一時間。

 時計はもう九時を過ぎている。

 三橋の空腹は限界に達していた。


 鍋に米油を入れ、熱する。

 菜箸を入れると、大きな泡がポコポコと湧き出てくる。

 頃合いだろう。

 丁寧に鶏肉を鍋に入れ、強火で三分。

 ジュワジュワと美味しそうな音が食欲を刺激する。

 鶏肉を取り出し寝かせた後、再度一分揚げる。

 ようやく完成したから揚げを、三橋はわくわくしながら箸でつまみ上げた。


「ふふ……台所で食べるのがまた美味いんだぜ」


 カリッとしたから揚げの食感。

 そして、じゅわっと広がるにんにくと生姜の効いた醤油の風味。

 最高のから揚げ──。

 だが、どこか物足りない。


「あれっ……?」


 思わず、首をひねる。

 これが自分が食べたかった味のはずなのに。

 何かが足りない。


「まさか……」


 首を捻りながら、レモンをから揚げにかける。

 恐る恐る口に運ばれるから揚げ。

 酸味が加わったその味は、眼鏡をかけきりっとした本城課長の顔を思い出させた。


「課長にから揚げ……。そのギャップのせいか……?」


 レモンをかけたから揚げが好きになっているのかもしれない。

 三橋はため息を吐いて残りのから揚げを口に運んだ。



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