デーモンの呼び出し
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ねー、つぶつぶ~。あんたってさ「さいきょー」とか興味ないの?
うちのアニキがなんか、男のロマン? とやらにはまり出してさ。モデルガンとか集め出したのよね、最近。しかも、やたら口径の大きいやつ。
威力特化こそロマンとか言い出して、ぽかすかお金を使い始めてさ。あの手のびょーきに関して、あんたなら詳しいんじゃないかと思って。
――さいきょーは目指すうちは楽しいが、いざさいきょーになっても疲れるだけ?
ふーん、追う側から追われる側になったとたん、しんどくなるって?
攻めるより、守る方が難しいとはちらほら聞くもんね。ただがむしゃらに追い続けることに意味があって、追い付いちゃう、追い越しちゃうことはその場限りでけっこう……といったところかしら?
私にいわせりゃ、どこか無責任なところもあるけど……それらをほっぽって、自分の都合を押し付けるのが男のロマンてとこかしら?
ああ、気に障ったらごめ~ん。なんというか心が素直で自由なんだと思ったのよ。
お詫びにひとつ、「さいきょー」に関する話、してあげよっか?
ひと昔前は、モンスターとかの育成ゲームが大流行りしていたのよね。あんたのところも、そうだったんじゃない?
あのころは、まだインターネットとかがそこまで広まっていなかったしね。本、友達、自分の手とか身近にあるものを駆使して、「さいきょー」の称号をみんなが求めていたかなあ。
あたしはそれを遠巻きに見ている側。ほかのことに関心があったことも手伝ってね。毎日のように、同じ話題で盛り上がっているみんなを「ほんと、すきねー」みたいに半ば呆れながら眺めていたわ。
家帰ると、兄貴も同じゲームやっているしね。どこにいってもワンパターンだし、自分の部屋にこもることも多かったのを覚えている。
で、ある日の学校。
いつもくだんのゲームで賑わっていた面子のひとりが、「さいきょー」のモンスターを手に入れたと騒いでいたのよ。
詳しいことはきいてないけれど、なにかデーモン系? 悪魔系? なモンスターらしくって、これまでのモンスターたちとはダンチの力なのだとか。
こっそりゲーム機を持ち込んでいるガチ勢の彼だったけど、その他のガチ勢の子たちと対戦をして、一度も土をつけられなかったみたい。
先生たちへバレないよう、こっそりこっそり騒ぎながら、このモンスターの入手経路をみんなは彼へ尋ねるけど、彼はナイショの一点張り。
そりゃそうよね。自分だけが知っているからアドバンテージを握れるのに、それを誰かに教えるとかお人よしか、ちょっと足りてないかのどちらかよ。
商売の販路とかと同じ。自分の利になることは大事に扱うこと。モンスター情報だってしかりでしょう。
とはいっても、こうも見せびらかすようなやり方をして悦にひたるというのは、本人が良くても、まわりには面白くないこと。
あたしだってその一人。ゲームの細かいことは分からずとも、はたから見ると、なに調子乗ってんの? て感じ。
そいつのご自慢のタネとやらが知れれば、ちょっとはこのイラつきも収まりそう。
なので私はすでに、このゲームのマスターを自称するアニキに情報をもらおうとしたわけよ。
けれどアニキいわく、そのようなモンスターはゲームにいないはず、とのこと。
最初はアニキの力不足で見つけられていないのだと思ったけどね。ゲーム内の探検記録だかは全部埋まっていて、モンスターの一覧も例外じゃない。
そこには一部の空きもなくって、あの子の言っていたデーモン系モンスターの名前は存在していなかったの。
「適当なニックネームつけているか、雑誌やイベントの特典なんじゃね?」
アニキはそういって、あまり興味はなさそうだったわ。
当時からアニキも「さいきょー」にはこだわっていたけれど、それは通常の仕様の中での話。例外を交えてまでの「さいきょー」には、あまりそそられるものがなかったのかもね。
あたしもそう聞くと「なんだ、インチキヤローか」の評価にとどまって、まあむかつく気はしなくなったわ。なんだか可哀想に思えてきて。
――なに? 実はアニキのことけっこう好きなんじゃないのか?
ふーんだ。
まあ、アニキが崖から落ちそうになったら背中を押しちゃうかもだけど、いざ崖にしがみついて「助けてくれ!」と言われたら、助けるのはやぶさかじゃないわよ。好感度的に。
とにかく、その子は来る日も来る日も、例のインチキデーモンモンスターで無双していたわね。
一度覚えた気持ちよさは、そう簡単に手放せるはずがない。もうロマンとか男とかの次元じゃないと思うわ。命もって生まれたものの本能ってやつ?
やがて彼はこっそり仲間と対戦するに飽き足らず、授業中なども机の下でこっそりゲームをいじるようになっていたわ。席が近くだったから、その様子は横から見るともろ見え。
ダメダメなやつは、とことんまでダメダメな道へのめり込んでいくのよね~、とあたしはなかばあきれて、その様子を眺めていた。
それから、もう一か月ほどが経ったかしら。
彼は放課後にも教室へ残って、例のゲーム機をいじる時間を増やしていたわ。どうせならもっと目立たないところでやればいいのに、とあたしは思ったわね。
こうも先生がいつ顔を出すか分からない空間でやりたいなんて、よっぽど時間がもったいないのかしら?
あたしも今日はたまたま委員会で頼まれた仕事がある。ひとりでできるものだからと、教室へ残ってもくもく進めていたのだけど。
ふっと顔をあげた拍子に、すぐ目の前を机が吹っ飛んでいって、固まっちゃったわ。
壁をへこます、大音量の激突音を聞いて、ようやくあたしは「ひっ」と声をあげられる。
飛んだ机は例の子のものだったわ。すぐ、そちらへ目を向けたけれど、一緒に飛び損ねたのかそっぽを向いたイス。
そして机のあった床に刻まれた、深い深い三本の爪痕以外は、何も残されていなかったの。そのときから彼の行方は、ようとしれない。
「さいきょー」を呼び出した彼は、その代償なり対価なりを払うときが来てしまったのかしらね。