4話 土精の使い道
土精が他の3属性と違う点は何か。
それは固体を扱えることだ。
液体でも、気体でも、エネルギーでもなく、固体を操る。
つまり、俺の体を押せるということだ。
1体1体の力はとても弱く、土団子を作る程度だが、数が集まれば十分俺の体を押し出せる。
ということで、建物の外に出ようと思う。
冒険も何も始まっていないし、外に出れば俺の体が動かない問題を解決してくれる人がいるかもしれない。
世紀末終わってる系異世界ならすぐ死ぬだろうが、食べ物もなく生きられるわけがないから、動けるうちに外に出て助けを求めた方がいいだろう。
良い人に出会えると自分の運を信じよう。トラックには轢かれたけど......。
......まぁ、いいか。幸運を信じよう。
トラック以外は比較的幸運な人生だったような気がしなくもないかも。
土精以外の召喚を取り消して、40体の土精を召喚。
何も心の中で40回土精召喚と唱えた訳じゃない。
結構簡単に召喚できるのだ。
大将、土40個。
へいお待ち。
待ってないよ。今来たとこ。
へへ、私も。
よし、じゃあ、やるか。
黄色く薄ぼんやり光る40個のピンポン玉に命令を出す。
(俺の体を外に押し出せ)
目指すはあの、外から光が差し込む20m先の場所だ。
扉はないが、視点が低すぎてその先に何があるのかはわからない。
だが、平坦な床だ。すぐに辿り着くだろう。
ピンポン玉は何も反応を返さず、ただ粛々と仕事をこなす。
おっ。右半身の方から土が盛り上がり、体をうつ伏せにひっくり返す。
次は仰向け、その次はうつ伏せ。
ぐるぐると体を回転させながら進める。
ゆっくりだからか目は回らない。
ここは土精の出力の低さに感謝するべきだろうか。
今ようやく知ったが、俺が寝ていた場所に何か模様が書いてあったようだ。
かなり大きい、魔法陣的なやつだ。これが俺の体を動かなくさせていたのだろうか。
そろそろ魔法陣の範囲から出られる。
そしてその時は来た。
魔法陣を出たのだ。
「おお。おおぉ」
体が動く。
立ち上がり、体に目をやる。
幸いにも筋力が鈍っていてふらつくということもなかった。
前を見る。
視点が上がったことで、光の先にはしばらく道が続いていることに気づく。
だが、動けるようになった今、何も問題はない。いくらでも歩こう。
そして異世界生活を始めるのだ。
「よし、外に......」
そして、その時も来た。
はたと気づく。
......なんか、気持ち悪い。
胃がムカムカする。
だめだ。込み上げてくる。
我慢できない。
「カハッ」
吐いてしまった。
くそ、水精に洗い流させるか、下の世話じゃないがこういう時に水精は便利だな。
などと呑気なことが思いついたが、よく見たら俺はただ吐いた訳ではなかった。
これは、血だッ。
何で?
「ぐぅ」
体に衝撃。
何だ?何だ?何だ?
体が内側から破壊されるような感覚だ。
もう、立っていられない。
ふらつき、前のめりに倒れる。
何が起こっている。
誰かに攻撃されたのか?
いや、そんな感じじゃない。
じゃあ毒か何かか?空気中に毒でも漂っていたのか?
魔法陣はむしろ安全地帯だったのか。
くそ、意識が飛びそうだ。
歩いて行くことは、不可能。
最後に土精に命令をしなければ。
40体と言わず限界まで土精を増やし、命令を下す。
「俺を魔法陣に戻せッ」
何か大きな影が俺を覆った気がしたが、すぐに意識は落ちた。