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03 置き手紙

「……ジュスト。私、置き手紙には、探さないでくださいって、ちゃんと書いていたはずだけど?」


 何故、手紙に書かれていた通り、そうしてくれなかったのかと、背の高い彼を見上げつつ睨み付ければ、ジュストは悪気なくにこっと明るく微笑んだ。


「それはそれは、申し訳ありません。もしかしたら、僕に探して欲しいっていう、そういう隠喩なのかなと思ったんですけど……」


 表情をわざとらしく変えてすまなそうにしても、騙されない。大体ジュストは、私のことを常に揶揄って遊んでいるんだから。


「そんなこと、ある訳ないでしょ!」


 ムキになって言い返した私に、ジュストは声をあげて笑った。


「ははは。ミシェルお嬢様、平民の服も良く似合いますね。いえいえ。違いますね。何でも、お似合いになりますが」


「そっ……そう? ありがとう。けれど、足が見えてしまうのが、やはり気になるわね。この恰好をしている皆は、気にならないのかしら」


 外見は美男と言って差し支えないジュストに、着ている服を褒められれば悪い気はせず、私は素直にお礼を言った。


「ええ。高貴なお嬢様のお忍び旅のようで、可愛らしく目の保養になりますね。なりますが、すぐに着替えていただきます。わかりますね……?」


「……わかっているわ」


 私は貴族令嬢で足を夫以外の誰かに見せることなど、本来であればもってのほかなのだ。ジュストの言い聞かせるような言葉と鋭い眼差しに、私は素直に頷くほかなかった。


「どうして、家出をしたんですか?」


 私たちはさきほど辿った道を引き返して歩きつつ、ジュストは何気なく聞いた。だから、私だっていつもの調子で、彼の質問に答えた。


「……ラザール様がオレリーのことを、私から代わって婚約者にしたいと思っているみたいなの」


「あー……あの話ですね。ですが、結局は婚約者はミシェルお嬢様のままです。先方のご両親だって、健康な体を持つミシェルお嬢様が良いと仰ったと言ったでしょう。それに、貴族の政略結婚に、愛なんか必要あります?」


 政略結婚した貴族なんて、家を繋ぐための長子とスペアとなる次男を産んで終われば、お互いに大事な役目はやり遂げたとばかりに、その後はお互いに愛人を作ったりすることも多い。


 だから、ジュストだって、私に割り切ってそうすべきだと言っているのだ。


「愛は要るわよ! ……少なくとも、私は」


 私の両親は恋愛結婚で、夜会の中で跪き、母に愛を乞うた父の話は有名だ。


 そんなロマンチックな恋物語主人公二人の娘としては、出来れば愛し合った人と結婚したい。決められた婚約者だとしても、愛を育みたいと願ってしまうのだって自然なことのはずだ。


「では、ラザール様に、直接そう言えば良いでしょう」


「ラザール様は、オレリーのことが好きだもの。私のことなんて、好きではないわ」


「それは、仕方ありません。ミシェルお嬢様は、常に傍に居る僕の事が好きなので、婚約者のラザール様も面白くないでしょうね。よそ見をしても、仕方ないですね」


 私は思わず立ち止まって、同じように足を止めたジュストの顔を見上げた。にこにこと感じの良い笑顔……いいえ。これに騙されてはいけない。


 彼だって、さっき教えてくれたでしょう。見掛けのようなわかりやすく見える部分には、騙されてはいけないって。


「……そんな訳、ないでしょう」


「僕は別に良いですよ。ミシェルお嬢様が二人の男の子を産み終わり、その後で愛人にして貰って可愛がって貰っても一向に構いませんし」


「そんな訳ないったら! いいえ……ジュストに、愛人なんて、そんなことさせられない。一体、何を言っているのかしら」


「……知っていますか。お嬢様。目は口ほどに物を言うと。僕のことが、好きなのではないですか?」


 確かに私をじっと見つめる目は、口と同じことを言っているようだった。


 ……「貴女は幼い頃から傍に居るこのジュストが、好きではないのか」と。


「私がジュストを好きだって、今まで一度でも言ったことがあった?」


 今まで一度も口にしたことがないのに、何を勘違いしているのかしら。私が睨むと、彼は嬉しそうに言った。


「ええ。言えない気持ちほど、高まるものです。それこそ、『禁じられた恋』は激しく燃えるでしょうね……もし、僕のことが好きでないならば、何故、僕の故郷へ家出して来たんですか?」


「……それは! ジュストがこの村がすごく住みやすいって言ってたし、私の好きそうな風景だと」


「そうですね。あ。良かったら、実家見に行きます? すぐそこなんです。実家」


 ジュストが曲がり角の右を指さしたので、私の心は揺れ動いた。


 ……ジュストのご両親、ジュストが住んでいた家……見てみたい。迷った私を見透かすように、彼は背中を優しく押したので、私は歩き出した。


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