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ミーガンの結婚行進曲ー16

「似てる?」

「ええ、あなた、お父さんに似てるって言われていたでしょう?」


 ミーガンの父親、アッシュ・ボナート。母親が亡くなり、二人で大きな屋敷に暮らしていたが、その父も病気で亡くなり、私は家を出なくてはならなくなった。知らない間に父が貴族の身分を返上するという書類にサインしたと聞いた。


「私、アッシュ様をよく知っているんですよ」

「父のことをですか?」

「ええ、あの頃は城で、あ、あなた、お父様の以前のお仕事のことは」

 遠慮がちに聞いてくるロザリン夫人。私はああ、と納得した。父は庶民だったのだ。


「知っています。若いころの仕事は馬や馬具を管理する厩舎の仕事をしていたそうです」

「そうね、そうだったわ」

 懐かしそうに窓から見える外に目をやる夫人は、

「このお城の厩舎にいたのよ」


 驚いた。どこにいたかなんて聞いたことはなかった。それがまさか王様のお城だなんて。


「あの頃は私もディーンの父親もまだみんな若かったわ」

 にこりとしたロザリン夫人は、

「あなたのお父様は、アッシュはそれはそれは整った顔立ちをしていて、貴族の奥様もメイドもみんな目が離せなくなっていたわ」


「へえ、そうなんだ」

 と口を挟んだディーンにロザリン夫人は、

「あなたも王もみんな勝ててはいなかったわよ」

 いたずらっ子のように笑う。


 レラもフェリシアも「ミーガンさんのお父様、すごいイケメンだったのね」となぜだか楽しそうだ。

 確かに、あの人、顔だけはよかったからなあ、とひとり納得していた。


「でも、とても優しい人だったわ」

 とロザリン夫人は夢見るように言うが、娘から見てもおとなしい人だった。


「女性はみんなうっとりとして振り向いてほしがっていたわ。私は何とも思っていなかった。けど、ある日、馬に乗るのを失敗したのよ。恥ずかしくて、つい馬にあたってしまったの。それをあの人は怒ってね。馬には何の責任もないって。自分の地位を考えれば、とんでもない行為だとわかっていたはずなのに、黙っていられなかったのね」

 ぽっと頬を赤くするロザリン夫人の様子に私もレラやフェリシアと視線を交わしあった。これは惚れたってことよね。


 まさかお父さんと王様のお姉さんが。そのときは、まだディーンのおじいさんが王様だったんだろうから、お姫様ってことよね。


 それ以来、恋に落ちちゃったふたり。

 だが、身分の違いで一緒にはなれない。


「アッシュは私の前から姿を消したの」

 ぽつりとロザリン夫人は言った。

 父王から大反対され、知らない間にアッシュは戦地へと送られた。


「てっきり、リヒャルトが手配してわざと戦争に行かせたんだと思っていたの」

「伯母上」

 ディーンが口を挟むが、ロザリン夫人は「わかってます。それは勘違いだったの」と私たちに説明してくれた。


 父親である王様は、娘と馬の仕事をする庶民の付き合い自体大反対。一緒になるなんて考えられないことだった。次期王である、今の王様、リヒャルト・ルクルットにアッシュを戦地に送るよう命令する。


「リヒャルトはアッシュと仲が良かったの。だから、戦地に送ったと嘘をついて、国の端、遠くの地に行かせたのよ」

 そのことを知っているのは、リヒャルト以外は侍従の人のみ。

 もちろんロザリンにも戦地に行ったと思わせた。


「長い間、そのことを恨んでいたわ。だから、デヴィッドにまで迷惑をかけることになって」

 そういった夫人は、フェリシアやレラに顔を向けると「ごめんなさい」と頭を下げた。

 二人はあわてて手を横に振っている。

「大丈夫です。そのおかげといってはですけど、私たち幸せですし」

「そうですよ。結果がよければそれでいいんです」

 微笑んだロザリン夫人は私に向き直る。


「あなたのお父様とお母様は、遠くの地で出会い、恋をしたのね」

「そうだと思います。母は避暑地で出会ったとか言ってましたけど」

 完全に母の一目ぼれだったらしい。が、伯爵家の娘という立場ももろともせず、父と結婚し家を継いだ。


「私は結局、お母様のように強くはなかったのよね」

 眉を下げる夫人に、私は、

「強すぎる人でしたから」

 と苦笑した。おとなしい父とは正反対。父は押し切られた形で家に入ったんじゃないかなあ、と思っている。でも幸せだったようだ。いつも母がすることを楽しそうに見ていた。


「伯母上」

「ああ、そうだったわ」

 しんっとした中、ディーンに声をかけられた夫人は、

「長々と私の話を聞いてもらってありがとう」

 静かにほほ笑んだ。そしていきなり私の手を掴んだ。


「ミーガンさん!」

「は、はい」

「あなた、王太子妃になることに不安を感じているのでしょう?」

「え、あ、まあ何というか、身分も違いますし」

「あら、それは大丈夫よ」

 いきなり言い切った夫人は、

「妃になることが不安でも、私が母親代わりとして準備もするし、覚えなければならないことは教えますからね。だから大丈夫よ。安心して」

 掴んだ手をぎゅっと握りなおす。


「まあ」

「すてき」

 とレラやフェリシアは我がことのように喜んでいるが。

 ただただ焦っている私は口をぱくつかせて「はい」とだけ何とか返事を返した。


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