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ミーガンの結婚行進曲ー15

 先日のドリアーヌの一件からお城に連れてこられたが、落ち着かないから帰りたくて仕方なかった。

 それを察したのか、この城の庭にある家に連れてこられた。


「ここなら森の家に似てるし、落ち着くだろ?」

「王様とお会いしたとこだ。ねえ、ここは何? メイドさんとか働いてる人の家とか?」

 一軒だけそんな家があるのは変だが、他に想像がつかない。


 ディーンは、食器棚から小さなスプーンとカップをとりだすと、

「これ、俺のだったんだ」

「ディーンの?」

「もともと、母親の家みたいなもんだから」

「お母さん」


 13ぐらいの頃に亡くなったという話だった。

 そのお母さんが、この家を。


「母さんは、辺境の地の伯爵家の人間だったんだけど。貧しいところで、伯爵家と言っても村の者と一緒に畑をしたりするような家だったんだ。でもみんな仲良く暮らすいいとこだったって言ってたな」

「そうなの」

「王妃としてここで暮らすようになったけど、寂しかったんだと思う。植物や自然に囲まれた生活をしてたんだもんな」

 なんとなく気持ちはわかる。だから、王様がこの家を建ててくれたのかも。


「時々ここで気持ちを落ち着けたり、俺が生まれてからは、生きていくすべというか、大事なことはこの家で学ばせようと思ったみたいなんだ」

 自分の手で育てる。偉い身分になったのに、人任せにしなかった。

「料理も目の前でしてくれたし、俺も手伝ったよ。野菜を作ったり、夜には木の上で星を見たりもしたなあ」

「いいお母さんね」

 まあな、と答えたディーンは嬉しそうにほほ笑んだ。


「というわけだから、ここはミーガンに受け継いでもらう」

「はい?」

「ここのほうが落ち着くだろうし、ハーブもここで育てるのもいいと思うんだ。ハーブの効能については研究する価値があるってデヴィッドも関心を示してるし」

「待って待って」

 放っておくとどんどんと話を進められてしまう。


「ん? ダメ?」

「うっ」

 きらきらさせて上目遣いで見てくる攻撃はやめてほしいんですけど。

 この攻撃に破壊力があるのをわかってやってるとしか思えない。

「でも、無理よ。何度も言うけど、周りは認めないだろうし、私、今は貴族ではないんだから」




「それは、どこか爵位のある方の養女になればいいですわよ」

 レラが紅茶の入ったカップに静かに口をつけている。

「そうよ。ほら、前にジュドが言ってたハームズワース伯のとことか。王家の遠縁にあたるんでしょう?」

「そうですわね。ハームズワース伯はおひとりですし、引き受けてくださいますわよ」


 嬉々として話す二人に私は息を吐きだした。

 どこにも味方はいないらしい。

 すっかり馴染んでいる子猫のごましおでさえ、美味しいごはんをくれるメイドさんのほうに懐いている。


「おふたりの教室はいかがですか?」

 ふたりは家を出て、町のこどもたちのために勉強や色々なことを教える場を作っている。

「楽しくやってますわよ」

「最初は女の子が本を読むための場所を作っていただけだったけど、今は男の子も女の子も自由な時間にやってきて学んだり遊んだりしてるのよ」


 留学したメリガレットも二人に賛同して子供たちに刺繍を教えたり、外国語を教えたりしてくれていた。そのおかげか、興味のある令嬢がちょくちょく寄ってくれるらしい。


「ご令嬢の意識改革にもなってるのね」

「さすが、ミーガンさん、魔女って進歩的なのねえ」

「だから、魔女じゃないですって」

 3人で女子会のように過ごしているとこに、ドアがノックされ、ディーンが顔を出した。


「あら、ディーン様、お邪魔しております」

 レラとフェリシアがカテーシーで挨拶する。

 ディーンも挨拶を返すと、

「ちょっと、伯母様が会いたいと言うんで、いいかな」


「伯母様?」

 というと、まさか。

「お邪魔しますわね」

 ディーンの後ろから、入ってきたのはロザリン・フェルプス公爵夫人。デヴィッドの母親で、王様の姉。


 以前、レラのお茶会に招待されたときも、家にやってきた夫人とあいさつを交わしたことを思い出す。あの時も突き刺すような視線を感じてビビってしまったが。威厳とオーラで圧倒されそうなのに今日もあいさつもそこそこにこちらを睨むような視線が。


「あ、あの、ロザリン様」

「あああっ」

 いきなり叫んだ夫人は、私をぎゅっと抱きしめた。

 目を白黒させる私にレラもフェリシアも目をしばしば。ディーンだけが額に手をやりため息をついているのが見えた。

 ねえ、これどういうこと?


 ぐずぐすと泣いているロザリン・フェルプス夫人を椅子に座ってもらった。

 いまだ現状の意味がわからない。


「大丈夫ですか? よかったらお茶を」

 ハンカチを目に当てつつ顔を上げた夫人は、こちらを見つめると「ありがとう」と小さくつぶやくように言う。

 目を上げ、ディーンを見るが、肩をすくめて首を横に振った。

「伯母様、俺、私が話しましょうか」


 こちらを見つめていたままのロザリン夫人は、今気づいたようにディーンに顔を向けた。

「いいえ、私が話します」

 椅子に座りなおし、居住まいを正す。


「ミーガンさん、いきなりごめんなさいね」

「いえ……」

 首を横に振る。


 やはりじっと見つめたままのロザリン夫人は、

「やっぱりよく似てるわねえ」

 と口の端を上げた。

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