ミーガンの結婚行進曲ー3
ドアがノックされ、返事をしつつドアを開けると、フード姿の女性が立っていた。
森で作って売っているハーブは、隣町でも店に置いてもらい結構売れている。
こんな森の小屋にやってくる人もいて、貴族女性やそのメイドさんがおつかいでやってくることもある。
フード姿の女性はたいがい貴族の女性が多い。内緒に美肌になるお茶を求めに来り、恋愛に効きそうなハーブを欲しがる人も多い。
たぶん、この人も。
「どうぞ」
という前につかつかと中に入ってきた女性は早々にフードをはずした。
部屋の隅で寝ていたごましおはちらりと顔を向けた。いつものような客だと思っているのか体勢を変え寝始める。
「ミーガン、お久しぶり」
「え?」
お久しぶりって。どこで会った?
頭の中で貴族令嬢のレラやフェリシア、その友人たち、お屋敷で会った貴族女性をフル回転で思い出そうとするが、目の前の女性が誰だかわからない。
「あの」
「私よ、私」
そんなオレオレ詐欺みたいに言われても。
かなり顔に出ていたのか、ムッとした表情になった女性は、
「私よ! ドリアーヌ!」
「ドリア……」
もうっ! と地団太を踏んだ女性は、
「ドリアーヌ・エドゥよ! エドゥ伯爵の娘、あんたの婚約者だったユルゲンと婚約してた」
「え? えーっ!」
こちらの世界に転生してすぐに婚約破棄された相手、ユルゲンとかいう子爵で、相手がミーガンの友人の一人、ドリアーヌだった。はず。
なんせ、その時しか会っていないし、私の中にあるミーガンのかすかな記憶をたどるしかない。
記憶の中で、ドリアーヌは確かに数少ない友人の一人だった。
そんな友人が自分の婚約者を横取りしたわけで。
私は、ミーガンの代わりというか、腹が立って、ユルゲンとドリアーヌとユルゲンの母親に悪態をついたわけで。
まあ、それで不敬罪に問われたわけだけど。
あれ、でも。
指さした私は、
「あ、でも髪が……」
記憶の中でドリアーヌは金髪撒き毛、ものすごい縦ロールだった。今、目の前にいるのは、さらさらとした金髪をハーフアップにして薄いピンクのドレスと同じ小さな花のヘアアクセサリーをつけている。
「え? 全然感じが違う? 縦ロールはダサいからやめたのよ。こっちのほうが似合うでしょ?」
髪だけでなく、メイクもドレスも、以前とは違うみたいだ。
上品なお嬢様風。
もちろん、知っているドリアーヌは貴族の伯爵令嬢なんだから上品ではあったけど。
自分で服や髪を決めるなんてことはなかったと思う。なんせ、生まれながらのお嬢様なんだもの。
「何よ、何か変?」
首を横に振った私は、
「似合ってるなあと思って」
でしょ? と嬉しそうだが。
「あの、ここには」
「あ、そうよね。あなたに話があってきたのよ」
そういうと、進めるまでもなく、椅子をちらりと見、「汚れないわよね?」と座り込んだ。
何だかわからないが、ハーブを買いに来たのではなさそうだ。
それでもお茶ぐらい出すべきよね。
台所に向かう私に、
「お茶はハーブなんでしょう? ローズヒップでいいわ」
驚いた。
「よく知ってますね。どなたかに聞いたんですか?」
振り返る私に、口をゆがめたドリアーヌは、
「あれよ、貴族の友人に聞いたの」
咳払いすると、
「そんなことより、話があるのよ、早くして」
ばんばんと空いている椅子をたたく。
何だか、強くなったというか。ミーガンのかすかな記憶でしか知らないけど、こんなタイプだったのか、それとも結婚して強くなったのかも。
お茶を運んだ私は、
「ご結婚されたんですよね。おめでとう」
眉を上げたドリアーヌは、
「あら、嫌味?」
「まさか、そんなことは」
「まあいいわ。結婚してないし」
「そうなんですね、結婚して……え? してない?!」
ドリアーヌは小さく肩をすくめた。
「婚約破棄したのよ。あなたと同じよね」
いやいやいや、同じと言われても。ミーガンの幸せを奪った張本人では?
「婚約破棄って。じゃあ今は」
「もちろん、独身よ」
ドリアーヌは、
「どうしてって顔ね」
とちらりとこちらを見た。
「性格の不一致ってやつかしらね。私の愛情が冷めてしまったのよ、仕方ないでしょ。ユルゲンも納得してくれたし」
途端ににやりとしたドリアーヌは、
「そうだ! 今ならユルゲンも独り身よ。もちろん、あなたは貴族じゃないから難しいかもしれないけど、かこわれものぐらいにはしてもらえるかもしれなくてよ。私から言っときましょうか?」
私自身はそこまで親しい間ではないドリアーヌ。ミーガンとは友人関係とはいえ、どこまで親しかったのかはっきりしない。だから大人の対応をしていたがさすがにムッとした。婚約破棄の時はぶちぎれちゃったけどね。
「どういう意味ですか?」
「え? どういうって」
顎に手を当て上を向いたドリアーヌは「うーん」と言うと、
「あなた、王子と親しいって本当なの?」
と真顔を向けてきた。
王子って、ディーンのことよね。
「ああ……親しいというかなんというか」
「あなた、自分の立場がわかってないのね」
眉をひそめた。




