ミーガンの結婚行進曲ー2
「うん、これ疲れに効くんだよなあ」
元の姿に戻ってからとにかく忙しいディーンは、ほうっと大きく息を吐き出した。
「あまり無理してこなくても」
こちらを凝視したディーンは、
「そういうなら、城に来てよ」
とぐいっと身体を乗り出してくる。
いやいや。それこそ無理だし。
首をぶんぶんと横に振ると、不満そうに口の端を曲げる。
「何? 身分を気にしてるの?」
うんうんとうなづいた。ディーンもそこら辺はわかってるはず。
「私、庶民だし、こんな森に住んでるハーブ売りだし。周りの人は認めないでしょう?」
「俺が認めてるけど」
いやいやいや、そんな、子どもみたいなことを。
二の句が告げないでいると、ディーンは、
「まあ、ミーガンが言うこともわかるよ」
と自分の首の後ろに手をやった。
が、小声で、
「身分は養女でも何でも手はあるし」
とつぶやいている。
養女……お話しの世界でよく聞くフレーズだ。
「ハームズワース伯なら快諾してくれると思うし」
と、勝手なことを嬉々として言い出した。
だけど問題はそれだけじゃないんだけど。
「あの……」
「ん?」
「あ、あのね」
と、ドアがノックされ外から侍従のヒースさんの声がする。
「ディーン様、そろそろ」
「もうそんな時間?」
あ〜と顔を歪めたディーンは、それでもキラキラした顔をこちらに向けた。
「またすぐ来るから」
「あの、あまり無理は」
言うまもなく引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。
これにいつも負けてるのよね。
ディーンの腕の中はホッとしてしまって、ますます本当のことが告げにくくなると言うのに。
にしてもちょっと長いんですけど。あの、ちょっとモゴモゴ言いつつ胸に手を当て押そうともがいていると。
「いいから黙って」
顔をあげると、きらきらとした顔が近づいてきて焦る。
「いや、あの、ちょっと」
と胸を押していると、
「みゃああああああ!」
と言う声とともに子猫が私とディーンの間に無理やり入ってきた。
「うわっ! 何、子猫?」
「うん。初めて会うわよね」
子猫は私に抱っこされ満足そうに頭を擦り付けてくる。
「森で迷子になってて、ご飯あげたらいついちゃって」
「ふーん。まさか、そいつもどこかの王子じゃないよな」
思わず吹き出した私は、
「まさか、あなたみたいに?」
と子猫を抱き上げる。
ディーンは真っ黒で綺麗な猫だった。この子は黒と白のいわゆるハチワレちゃんで。
「名前は?」
「ん? ごましお」
「はい?」
「白黒だから、ごましおちゃん」
無言になったディーンは子猫を見つめると、
「かわいそうに」
と一言、ごましおを抱きかかえた。
「ミーガンの命名力は、むべなるかな、だからなあ」
「みゃあ」
とごましおも合わせるように鳴いて返してる。
「もうっ、どういう意味よ」
くすくすと笑ったディーンは、
「まあまあ、また来るから。機嫌直して」
と頬にキスしてきた。
さらに先に進もうとしていたようだが、タイミングよくヒースさんがドアを開け中に入ってくるし、ごましおは邪魔するように「みゃーーーーーー!」とすごい声をあげるしで。
「何でだよ」
と不満たらたらなディーンは、ヒースさんに引きずられていく。
「ミーガン様、失礼しました」
にこりと紳士の笑みを向けるヒースさんに、ディーンは、「ヒース!」といいつつも、こちらに小さく手を振り引きずられたまま帰っていった。
ごましおは閉まったドアを見上げ、小さく「みゃっ」と鳴いている。
ディーンのことは一応気に入ったのかな。
私も手を振り送り出すと椅子に座り込んだ。
ディーンの言い分は、城に来て近くにいてほしい、そしてゆくゆくは、と思っているらしいが。
そこら辺のハードルは高いはずで、まじに養女の話を持ってきそうだ
早く、罪を犯して刑罰を受けてここに流れてきたことを言わないと。
さっさと言えばいいのにこの関係がなくなってしまうのが怖い。
何より軽蔑されたくない。蔑むような目を向けられたくないのかもしれない。
婚約破棄してきたユンゲルと相手の女、ドリアーヌとユンゲルの母親にキレて文句を言った。そんなことで罪に問われるなんて。
ありえない! と向こうの世界では叫んでしまいそうだが。
この世界では不敬罪は普通だし、私みたいな考えは通用しないだろう。
それにしても、あの二人、どうしてるんだろう。今頃結婚してるよね、と思い出していた。
そんな時だった。
彼女が私の前に現れたのは。




