氷上の秘密の恋人ー11
お屋敷に着いた途端、自分の部屋へと連れていかれた。
「あの、ここはどなたのお部屋で」
「あなたのよ」
マルガリータ様がにこにことした表情で答えてくださるが。
どう見てもメイドの部屋ではない。家具も絨毯も窓ひとつとってもお嬢様のお部屋を思い出す。
しかも、鏡台の側には真っ白なドレス。まるでウェディングドレスだ。
「えーっと……」
まさかとは思うけど。
「あの、こちらのドレスは」
「もちろん、あなたのよ。サイズはぴったりだと思うけど。デザインはどう? 気に入らなければ直すわよ」
「あ、いや、その」
ずっと言葉にならない状態なんですけど。それはどういう意味ですか。
「私って、私、結婚するんですか?」
「そうでしょう?」
「いや、そうでしょうって。そんな約束は誰とも」
デヴィッド様には告白された、と思う。夢だとも思ってはいたけど。でも結婚の話なんて何もしていないし、何もなく毎日が過ぎていた。だから、私が結婚なんて話は。
何と言っていいか口をパクパクとさせていると、ドアがバタンと開き、クララさんが入ってきた。いつもより、きれいなドレス姿でちょっと驚いた。
「あら、メイベルさん、早く着替えて、時間がないのよ」
「あ、あの」
「ドレスは、これでいいわね」
いきなり指をならしたクララさん。私の姿はシンプルな薄い紫色のドレス姿に変わっていた。
「マルガレータもよろしくね」
「はいはい」
こちらを振り返ったマルガレータ様は、
「さあ、行きましょう」
と私の手を引いた。
手を引かれ着いた先は屋敷のすぐそばに建つ小さな教会。
まじで結婚式なのかしら。
外にはクララさんを筆頭に、レラお嬢様やフェリシア様、久々にお会いするミーガン様まで、私と同じような薄い紫色のドレスを着ている。
「メイベル」
「間に合いましたね」
お3人ともにこにこと嬉しそうだ。
「え? これってもしかして」
横に立つマルガリータ様が「そういうこと。私は既婚者だけど、構わないんですって。そもそも花嫁が一番年上ですもんね」と悪そうに笑い、振り返ったクララさんが「マルガリータ!」と小声で怒っている。
ああ、そういうことか。
「さあ、もう中に入りますよ」
そう言われ、クララさんが緊張した面持ちで中に入る。そのあとを私たちプライズメイド、5人がブーケを手に持ちあとをついて入っていった。
中には横長の椅子が並び、お屋敷で働くおじいちゃんやおばあちゃん、マリーにサリー、ハームズワース伯。そして、新郎のカークおじいさんが祭壇前で緊張顔で立っている。
すぐ近くには、同じスーツ姿の男性が並んでいた。
驚いたことに、バロワン様にジェラルド様とデヴィッド様が並び、見慣れない男性も二人立っている。グルームズマンというプライズメイドの男性版らしい。
「ディーン様と侍従のヒースさんよ、ジェラルドさんのお兄さんなんですって」
こそりとフェリシア様が教えてくれたが。
ディーン様って王太子様?!
驚いたまま、クララさんとカークさんのお式は厳かにすすんで行った。
お二人は式を挙げずにいたそうで、誰ともなしに式を挙げようという話になり、ハームズワース伯が喜んで陣頭指揮をとったとか。こういうお祝い事がお好きらしい。
もうこんな歳だからと嫌がっていたらしいクララさんだけど、嬉しそうな笑顔を浮かべ、カークさんもにこにこと奥さんを見つめている。マルガリータ様は「よかったよかった」とぐずぐずと泣いてバロワン様が背中をなでていた。そんな様子をみんなして見守っている。小さなお式だがとてもあたたかくて嬉しい気持ちになっていた。
すてきなお式だったなあ。
着替えようとさっき通された部屋に戻った。驚いたけど、この部屋、みなさんの着替え部屋だったのね。
この素敵なウェディングドレスも。
「クララさんは他のを着てたし、誰のかしら」
首をかしげてドレスをそっと触った。
光沢のある白いドレスは細かな刺繍が施され、かかったベールが神秘的だ。
「素敵」
「気にいった?」
驚いて振り返ると、デヴィッド様が「入っていい?」と戸口に立っていた。
「ごめん、いきなりで驚いたよね」
「結婚式のことですか?」
「おじいさまがいきなり言い出してね」
大騒ぎなハームズワース伯の姿が想像できる。
「昔からあの調子でね。いまだに剣術では誰も勝てそうにないぐらい元気だし」
「え? 剣術? あの伯爵ですか」
うなづいたデヴィッド様は「ディーンやジュド、それに僕もハームズワース伯に鍛えられたんだ。もともと国で一番強い辺境伯だったからね」
「そ、そうだったんですか」
だから、おとなしいと噂のデヴィッド様の剣術も強いわけだ。
「それに、結婚式の練習になるなんて言い出すし」
「練習?」
「あ」と声を漏らしたデヴィッド様は「外に行こう」と手をとった。




