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氷上の秘密の恋人ー7

 あのあと、男は捕まり警察に渡された。


 マリーさんにはかわいそうだったけど。たくさん泣いて、サリーさんやクララさん、マルガレータ様に慰められ元気を出したようだ。


 かくいう私は。


「メイベルさん、お茶を持ってきたよ」

「ひゃあ。デヴィッド様! そんなこと私が」

 屋敷に戻った私はベッドに寝かされ、医者に診せられ、しばらく休むように言われた。


「もう大丈夫です」

「だめだめ、医者も言っていただろう? せめて今日一日は休まないと」

 手慣れた手つきでお茶を淹れたカップを手渡された。


「すみません」

 首を横に振ったデヴィッド様は、

「たぶん、説明しないといけないことがあるかと思って」

 と椅子に座り、自分用にも淹れたお茶を手に持った。


 私がマリーの恋人だった男と出くわし、連れ去られたとき、様子がおかしいと思ったデヴィッド様は私のことを探していてくれたらしい。


「君と廊下で会った時、様子が変だっただろう? だから気になって。探していたんだ。屋敷内に姿が見えないし、庭に回ったら、踏みしだかれたハーブやバラの花が地面に散乱してて争ったような足跡があったんだ」


 何かあったのかもしれない、と思っているとクロードが通りかかり。

「デヴィッド様、メイベルさんを見かけませんでしたか」

 と声をかけてきた。


「え?」

「私にご用事と聞いて探しているのですが、どこにも見当たらなくて」

 ハッとしたデヴィッドは、

「クロード、急いで探してくれ、彼女が危ない」

「危ない? どういう」


 ふたりでメイベルのことを言っていると、どさっと物が落ちる音がした。

 見るとメイドのマリーが青白い顔で「まさか、メイベルさん」と泣き出してしまう。

 そしてマリーの恋人の話を聞きだした。


 メイベルに注意され、そのことを彼に伝えたことも。

 ここにはその彼にご飯を持ってきていたとこだったらしいことも。


 つまり、ここで、メイベルはマリーの恋人と鉢合わせしたんじゃないのか。

 騒がしい音に、ジェラルドやクララさんたちまでが顔を見せ、屋敷の人間全員でメイベルを探し始めた。


「森を抜けた先にある湖にいるとわかってすぐに走ったんだけど、怖い目にあわせたね」

 デヴィッド様は眉を下げたが、

「いえ、来てくださって本当に助かりました。でも湖にいるってわかって、って。わかったんですか?」

 偶然ではないような物言いに首を傾げた。


 ちょっと、うつむき、顔を上げたデヴィッド様は「これは伝えないと理解しにくいよね」と一言。

「クララさんとマルガレータ夫人の魔法で居場所がわかったんだ」

「へえ、まほ、え?! 魔法!?」

 うなづいたデヴィッド様は、

「湖面を凍らせたのもそうだし、僕が君のところまで滑りもせずに走っていけたのはそこだけ草地のような一本道になっていたからなんだ」


 ただただ目をしばしばとさせていた私は奥様が言っていた「秘密は守られるわね」という言葉を思い出していた。


「じゃあじゃあ、デヴィッド様のお仕事、王室の資料作成というのは」

「魔法のことを書き残しておくことだよ。王室に資料として残すことになったんだ。もちろん、これはトップシークレットだけどね」

 魔法、王室だけの秘密資料、ふたりの魔法使い、それもあのバロワン夫人とくららおばあさんが。


「あ、あのあの、じゃあフェリシア様やバロワン様、それにカークおじいさんは?」

「みんな、このことは知っているよ。おふたりは魔法使いの生き残りなんだ。いまのところ、他に魔法使いの存在は確認されていない」


 そのあと、なぜ、魔法のことが王室の知ることになったのか。バロワン様のことや、行方不明だったディーン様、デヴィッド様のこと、長いお話をデヴィッド様から聞いた。


 まるでおとぎ話のような、夢でも見ていたかのような話だが。

 目の前で湖は一瞬で凍ったのを見てしまっては嘘だとは言えなかった。

 それに、魔法使いだと言うおふたりにも救ってもらったし、何より悪い人とは思っていない。


「お話してくださってありがとうございます」

「ううん、もう少し休んで」

 部屋を出ていくデヴィッド様の背中を見つめてた。


 湖上で抱きしめてくださったのは心配してのことですか?

 と聞きたかったけど、あれも夢のようなものだったのかも。


 もう数日で侯爵様の家に帰る。

 ここでのことは私にとって素敵な夢だったんだ、と思った。



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