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氷上の秘密の恋人ー3

 そして着いた先、ハームズワース伯のお屋敷は少し古めかしいが、玄関を中心に完全な左右対称の建物で、縦長の窓を連結させた大きな窓が続いている。

 窓だけでもかなりの磨きがいがありそうだ。


 少し骨休めもしてきなさい、と奥様に言われたが、屋敷の中に入った私はそうも言ってられないと確信した。


「マリーさん、窓ふきをお願いできますか」

「はい……」

 おとなしい、というよりおとなしすぎるぐらいなマリーと、元気のいいサリー。

「サリーさん、玄関は終わった? 2階のお部屋を掃除しましょう」


 古株のメイドさんが辞めて新しく雇ったのがマリーとサリーという若いメイドさん二人だ。


「サリーさんはどこかで働いていたの?」

「前は子爵家の下働きしてたんですけど、すぐ辞めたんです」

 ぺろりと舌を出すサリー。


「マリーさんは?」

「彼女はお屋敷勤めは初めてだって言ってました。商店の手伝いをしてたんですって」

 目を瞬いた私は「ああ、そうなのね」と返事をしつつ小さく息をついた。


 これはなかなかな状況だ。


 お屋敷の主、ハームズワース伯爵は鷹揚な方のようで、それだけがありがたいが、おおざっぱな面も強いようで窓が曇っていようが、廊下にほこりがたまっていようが気にならないらしい。


 私は気になるのよね。

 まずは廊下から綺麗にした私は、二人のメイドにあれこれ指示しつつ、屋敷中を掃除し始めた。


「何かお手伝いできることあるかい?」

 顔をあげると、クララおばあさんが立っていた。後ろにはマルガレータ様が立っている。


 バロワン様とその奥様、マルガレータ様がここに移住することになったのは知っていた。

 何があったのか、何をしたのかは私たち下々のものには伝わっていない。ただ、伯爵の身分を捨て、この地に移動することになったということは、何かしらあったのは間違いないだろう。怖い人だったらどうしようと思っていたが。


 ここでお会いしたバロワン様は非常に優し気な方だ。マルガレータ様はヴェルミリオ家でお見かけしたことがあったが、あの時とはずいぶん印象が違う。変わらず綺麗な方だが地味なドレス姿だし、口数少なくおとなしい。

 クララさんというおばあさんと一緒に行動していることが多くて謎だったが。


「マルガレータは、実は私とは親戚関係にあるんだよ」

 そうなんだ、とついお二方を見つめていたようだ。クララさんは肩をすくめると、

「ああ、もちろん私もこの子も貴族なんて身分ではないよ。住んでいたところは小さな村でね」


 私も同じようなもんだけど。ということはもしかするとマルガレータ様とバロワン様は身分を超えた恋だったのかしら。


「まるでロマンス小説みたい」

 とつぶやいてしまい、目を丸くしたマルガレータ様が頬を赤くし、クララおばあさんが、

「あらまあ」と笑っていた。


 ふたりとも、悪い人ではなさそうだ。

 クララおばあさんは会った時から、「何でも言ってちょうだい、おじいさんも使っていいから」と言ってくれていた。

 おばあさんと旦那さんのカークおじいさんは夫婦そろってこちらのお屋敷に滞在している。


 だけど。


「さすがにお掃除していただくわけにいきませんから」

 と答えると、

「いいからいいから。この子も何かやらせないと。メイベルさんもずっといてくれるわけではないだろう?」


「まあ、そうですけど。マルガリータ様は女主人としてのお仕事がありますから」

 このお屋敷には新しいメイド以外は女がいない。メイドの長たる人間がいないのだ。ここで暮らすことになったマルガリータ様が必然的にメイド長の仕事をすることになったようだ。


「今は暇らしいよ。人間、暇にしてるとろくなことがないからねえ」

「ちょっと姉さん!」

「あら、本当だろう?」


 やいやい言い合う二人は親戚らしいがまるで本当の姉妹のようだ。ちょっと歳が離れているが。なんだかいい関係性だなあ。


 私にとってレラ様はご主人様だが、

「メイベルは私のお姉さんみたいな存在よ」

 と言われたことを思い出していた。


「メイベルさん?」

「あ、はい。すみません。じゃあ、家具や飾り物を拭く予定なんですけどそれでも」

「まかせて。ほら、マルガレータ」

「はいはい」


 二人そろって階段を降りて行った。

 私は楽し気な二人の後姿を眺めていた。


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