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氷上の秘密の恋人ー1

ジュド、フェリシア&レラに続いて、デヴィッドさんのお話ですが、レラのメイドだったメイベルが主人公です。


レラの専属メイドだったメイベル、レラが家を離れ、町に出てから、すっかり元気がありません。そんなとき、ご主人から資料を作りにいくデヴィッドの世話を頼まれます。そして一緒にフェリシアの叔父さんと叔母さんのいるハームズワース伯の屋敷に滞在することになるのですが。


こちらも単体で読んでもわかりにくいかと……

ミーガンのお話の続きとして読んでいただけたらと思います。

 おじいさん、おばあさん率が高すぎる。


 近づいてきたハームズワース伯爵のお屋敷。

 馬車の窓から見えたのはずらりと並ぶお年寄り。

 バロワン様と奥様はわかるんだけど、他のおじいさんたちは誰なんだろう。


 馬車を降りると、真っ先にお年寄りの真ん中にいた白いひげの一番高齢そうなおじいさんが杖をついて前に出てきた。よろよろと杖が揺れ身体が斜めになって。つい転んでしまうのでは、と焦って前に飛び出していた。


「失礼したします」と支えようとすると、おじいさんはにかりと笑顔になった。

「あんたがメイベルさんだね。しばらく家のことをよろしく頼みますよ、おお、デヴィッドか。大きくなったなあ」

 デヴィッド様もあわてて駆け寄ってきていたようだ。

「おじい様、わざとではありませんよね?」


 え? わざと?


 にかにかしたままのハームズワース伯は「何を言うか、もう歳なんだからな」とわざとらしくごほごほとせき込んでみせた。

 真偽のほどはわからないが、精神的にはかなりお元気そうだ。


 ハームズワース伯は「さてさて、みんなを紹介しよう」とバロワン様と奥様のマルガリータ様、マルガリータ様の親戚だというクララおばあさんとマークおじいさんを紹介してくださった。

 他にも従僕のおじいさん、馬の世話係のおじいさん、料理担当のおばあさん等々。


 唯一若いふたりの女の子は新しく雇われたメイドさんらしい。

 ふたりとも、もじもじと落ち着かない様子で、ちらちらと見ている先は。


「よろしくお願いします」とにこにこと笑顔なデヴィッド様。若いメイドさんの視線を集めるのも無理はない。

 そんな王家の王子様と長い時間を同じ馬車に乗せられてきた私は、メイベル・グローブ。レラ・エリオン・ヴェルミリオン公爵令嬢専属のメイドだ、いやメイドだった。


 あれは数日前のこと。


 私はヴェルミリオン侯爵家のお屋敷で、いつものごとく掃除を終え廊下の窓をチェックしていた。


「メイ……」

「……」

「メイベルさん」


 ……え?


「あ、はい」

 振り返ると同じメイド仲間のリアが本を抱えて立っていた。


「メイベルさん、ありがとう。これ、とっても面白かったです。ドキドキしちゃって」

 頬を上気させて嬉しそうに報告してくれる。


 貴族令嬢の秘密の恋人。


 何ともあやしげな本のタイトルだけど、ちまたでヒットしているロマンス小説で、この本はフェリシア様がくださったものだ。


「……リアさん、それ」

「はい?」

「私、もう読みましたから他の方に貸してもいいし、持っていてくださいな」

「え? いいんですか?」


 本当に? もう一回読みたかったんですぅ! あっ、もちろん、貸します、ナンシーさんもスジャさんも読みたがってたし。


 顔を輝かせあれこれ言い募るリアさんは、どのシーンがいいかまで話し始めたが、

「主人公の恋人が天然のたらしなんですよね。だからライバル多いけど、貴族の奥様がでてきて、あっ!」

「あ?」

「いけない! メイベルさん、奥様が居間のほうに来てくださいと」

「え!? わ、わかりました」

 焦った私は廊下を走らないように、でも歩くよりも速いスピードで奥様の待つ部屋へと急いだ。


 奥様、ミランダ・ヴェルミリオ侯爵夫人は居間のソファに座りお茶を飲んでいた。


「奥様、遅くなりました」

「大丈夫よ」


 頭を下げる私に、奥様はにこりとすると、

「あなた、ヘンカリー地方に行ってきてもらえる?」

「ヘンカリーですか?」

 ヘンカリーというと、最近耳にした。

 そうよ、フェリシア様の。


「あの、そちらって。フェリシア様、バロワン家の方々が」

「そうよ。バロワン様と奥様、それにハームズワース伯爵様がいらっしゃるお家にね」


 なぜ私?

 確かにレラ様のお付きのメイドだった私。レラ様が家を出た今、私の仕事はお屋敷のことだけではあるけれど。

 あっ! もしかして。


「あ、あの、奥様、私、何かしてしまったでしょうか。もしそうなら」

「ん?」

 顔を上げた奥様はレラ様と同じ青い目をくるりと回した。


「あら、違うわよ。あなたはちゃんとやってくれてるわ。長いことレラのために頑張ってくれたでしょう?」

「いえ、私なんて」

「レラは本当に感謝してたわよ。もちろん、私もヴェルミリオ侯爵もね」

「そんな……」


 レラ様と初めて会ったのは、メイドとしてこのお屋敷に来た10年前のことだ。

 まだ子供だった私だが、レラ様は私より5歳下。お庭でお花を触っていたお嬢様はまるでお人形のようで、お姫様のようで、私は目が離せなくなっていた。

 兄弟も多い私は父や母と別れて住み込みで働くことに不安感がなかったといえば噓になるがまわりのメイド仲間はみんな同じようなものだ。何よりお嬢様のお世話係という仕事のおかげで頑張ってこれたと言っていい。


 まだ子供だったから、お屋敷の仕事、掃除や洗濯、料理はもちろん、行儀もいちから教わった。

 レラ様のお世話係として恥ずかしくない存在になれたのでは、と自負していたけれど。

 レラ様は、王太子妃にはならずに、以前のライバルだったフェリシア様と町に住んで子供たちに勉強を教えるという道を選ばれた。


 晴天の霹靂とはああいうことをいうのだろう。

 まさか、フェリシア様と行動をともにするなんて。


 そういえば、草原で怪我をされたときに助けていただいてから、仲の良いお友達のようになってはいたけれど。

 王太子妃にならなくとも、デヴィッド様やジュド様、他にも侯爵家や地位の高いお家に嫁ぐことは容易にできたとはずだ。そこに私もついていくものだと思っていたのだけれど。



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