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ヒロインと悪役令嬢の物語ー10(ミランダ・ヴェルミリオの一日:3)

 結婚した相手、コニャック侯爵も病気で亡くなったと聞いた。

 だからなのね……コニャック夫人が誰の求婚もうけいれないのは。

 なんて悲恋なんだろう。


 令嬢の間で流行っている物語よりも切なく悲しく美しい。

 まるで小説のような話が本当のことだなんて。


「夫人!」

「はい?」


 私は立ち上がると、

「そのお話、文章に、小説に書いてはダメですか」


「え? 小説?」

「はい! もちろん、お名前はまったくわからないようにしますし、侯爵様やゴールドスミスの方のこともわからないように書きますから」


 じっと私を見つめていたコニャック夫人は、

「……ミランダさん、文章がお上手ですものね」

「あ、その、不真面目にじゃなくて、真面目に」

「わかってますよ」

 にこりとした夫人は、

「楽しみにしていますね」

 と言ってくれた。


 それからものすごい勢いで私は文章を紡いだ。それこそ寝る間も食べる間も惜しんで。


「コニャック夫人、これ、できました」

「まあ、がんばったのね」

 小説にしたコニャック夫人の恋愛。


 紙の束を手にした夫人は、

「読ませてもらうわね」

 と1枚1枚丁寧に読み進めていった。


 夫人の長いまつ毛が文章を目で追うのに従って揺れている。

 テーブルをはさんで夫人の目の前に座った私は心臓がどきどきしてあちこちに視線をはわせた。


 よく考えなくても、人が話してくれた悲恋を書きたいからって。これってすごく失礼、よね。


「あの、コニャック夫人」

 話しかけた私に夫人はにゅっと手のひらを向けてきた。

 待ちなさいってことよね。

 もう冷や汗しか出てこなくなってきたんですけど。


 じっとコニャック夫人の手元を見つめる私。夫人の手がもう最後の1枚を持っている。

 そして、ぱたんと小説を書いた紙の束をテーブルに置いた。


「あの」

「ミランダさん」

「はい」

「よくできています」


「え? あ、本当に? ありが」

 またもや手を突き出した夫人は眉根を寄せると、

「ですが、相手が亡くなったことは、死んだという表現ではなく、お墓の前にたたずんでいるシーンを入れるとか、直接的ではなくともわかるようにした方が情緒が違います」


「は? はい」

「それと、ここ」

 夫人は私の書いた用紙をぱらぱらとめくると、びしりと指さした。


「ここは人称が違います。それと、満天にはすでに空の意味が含まれているのでこの使い方は違いますよ。それから」

「はわわわ」

 次々と修正点を指摘され、赤いペンを持ってこくると、チェックを入れられた。次回までに直すよう宿題になってしまっていた。




 その後、私が書いた処女作は、コニャック夫人の厳しい指導のもと修正を繰り返し。

「ある夫人の愛の形」

 というタイトルで恋愛娯楽小説として売り出された。


 夫人は、そういった出版に携わっていて、

「あなたには才能があるわ。結婚してもやめずに続けるのよ。きっとヒットメーカーになれます! いやヒットメーカーに私がするわ!」


 私の文章力を前々から気にいっていたらしく、チャンスをうかがっていたようだ。

 現に今も。


「ミランダさん、前回の令嬢の危険な恋人、とてもよかったわ。人気もあるのでね、シリーズ化を考えているのよ」

 と次回作の打診にやってきていた。


「純愛物はどうするんです?」

「もちろん、そちらも続けてくださいな」

 身は一つしかないんですけど。あんな美しい楚々とした夫人は鬼編集長と化している。


「わかりました。でも6ヶ月後にはお休みいただきますから」

「え? あら、そうなの? そうなのね」

 顔を輝かせた夫人は、

「それは一番大事にしてちょうだい」


 そこへノックがして私の夫が顔を出した。

「コニャック夫人、今日もお美しい」

 そういいつつ、二人でいるたび、部屋に入り込んでくるのは、私が結婚前に言ったことを信じているからだろう。


 小説書きとして進み始めた私は結婚に意味を求めておらず、彼からの求婚も断ろうと思っていた。

 その理由に小説のことは言えず、悩んだ末に夫人のことが好きなんだ、と言ったのだ。さすがにあきらめるかと思ったが。


「それでも、かまいません」

 彼は私の手を取ると、

「私の側にいてくれるだけでいい。それだけでいいんです」

 お話の中に出てくるどんな殿方の言葉よりも感動してしまった私はヴェルミリオ侯爵夫人になったというわけ。


 コニャック夫人は主人の顔を見つめると、

「おめでとうございます、侯爵様」

 と微笑を浮かべ帰っていった。


 はてな顔のアドーリフはこちらを見ると、

「何のことだい」

 きょとん顔のまま、

「そうだ、今からオペラに行かないか。今人気の作品が今日からあるそうだ」


 夫人が来た日は部屋にやってくるのもそうだが、これもいつものことで。何とかして私の点数稼ぎをしたいらしい。


「それはよろしくってね。すぐ支度をしますわ」

「ああ、じゃあ、居間のほうで待っていよう」

 部屋を出ようとする背中に、

「あ、そうでしたわ。なるべく早く支度しますわね」


「そんなに急がなくてもまだ充分に時間はあるよ」

「ですけど、馬車をゆっくり進ませないと、お腹の子に悪いですから」

「ああ、そういう……」


 目を見開いてこちらを振り返ったアドーリフの顔ったら。

 私が求婚をOKした時と同じ顔で抱きしめてきた。


お疲れさまでした。

ミランダ・ヴェルミリオの一日はこれにて終了です。


完全お遊びのお話で、ついつい調子に乗って楽しんでしまいました。

お付き合いさせてしまいすみません。次回はもう少し恋愛要素強めのを書いていけたらいいな、と思っていますが(どうなることやら)

またよかったらお立ち寄りください。ありがとうございました。

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