ヒロインと悪役令嬢の物語ー6
数日たったある日、買い出しに出ていた私が家に帰ると、食堂から人の声が聞こえてきた。
「商人のお家ですか、かなりのお金持ちだったんですねえ」
「ええ、そうなんですけど」
「……あ、もしかしてつぶれちゃったとか」
レラ様は答えに窮してるようだ。私は部屋に入りつつ、
「お化け屋敷って噂なんですよ」
ただいま~と言いつつ2人、レラ様とミーガンさんの側に行った。
「おかえりなさい」
と笑顔で迎えてくれるレラ様にちょっと心がほっこりする。
が、なぜかミーガンさんがにや~とした顔でこちらを見ているような。
「何ニヤニヤしてるんです?」
「え? そんな」
と頬をおさえるミーガンさんが、
「お化け屋敷って本当なんですか?」
と聞いてきた。
「ええ、噂はね。でも私、まだ見たことないんですよ。だから噂ってだけだと」
おかげで安く買えてラッキーだったなんて言っていると、レラ様が小首をかしげた。
「でも、いますわよ」
「え?」「はい?」
ふたりしてレラ様の顔を凝視する。
きょとんとしたレラ様は、
「小さい女の子とお母さんとお父さんですわよ、たぶん」
「え?」
「女の子は2階によくいますわ」
「え?」
「あ母さんはいつも女の子と一緒で。お父さんは」
「えーっ!!!!」
ミーガンさんが「なるほどねえ」と唸ってる。
「じゃあ、お父さんは1階の」
「ええ、この辺りですわね。何か探しているのかよくうろうろされてて、女の子は2階の」
とこの家の平面図をテーブルに広げて説明を始めたレラ様。鉛筆を手に2階の廊下を指し示す。
「噓でしょ。私、見たことないし、レラ様そんなこと一言も」
顔を上げたレラ様は、
「フェリシア様、こういうお話苦手かと思って」
確かに、この家を買うかどうするかでそんなふうに言った気もするが。
頭を抱える私をよそにミーガンさんが、
「レラ様は平気なんですね」
うーん、と上を向いたレラ様は、
「古いお城では幽霊はつきものですから」
ばっと顔をあげた私。
「そーなの?!」
「ええ、今の王城でも何代か前の王女様の幽霊が出るとか聞きますし」
「知らなかった……」
まあまあ、と背中をさすってくれたミーガンが、
「昔のお城は歴史も古いからそういう話はつきものなんでしょ」
「そういうことですわね」
レラも「害はないですから」と一言。
害はないと言っても、現れないでいてくれる方がいいに決まってる。
「やっぱり殺されたから恨んで出てくるのかしら」
と上目遣いに言うと、顔を見合わせたレラ様とミーガン。
「犯人は捕まってるんでしょう?」
「じゃあ、恨むと言ってもねえ」
「そうだけど」
とテーブルに広げられた平面図に目を落とした。
そこには、この食堂が真ん中に描かれている。
食堂の隣は台所でドアでつながっているが。
「前から思ってたんだけど、ここって何なのかしら」
平面図を見つめ、壁に目をやった。
「どこか変なの?」
「?」
ミーガンとレラ様が図面を覗き込む。
「ここよ、ほら」
台所とつながったドアの横、両方に大きな柱のようなでっぱりがある。
台所側に引っ込んだ戸棚があるわけでもなく、そちらは平たんな壁で。
図面で見ても大きな箪笥ぐらいありそうな空間が描かれているだけだ。
覗き込んでいたミーガンさんがハッとすると、
「こ、こ、こ、これはやばいわ」
「はい?」
「やばいって何です?」
今度はレラ様と2人ではてな顔。
「だだだだって、こんな空間ってあれでしょ。上からつながってて、あ、待ってこれ以上はネタバレになるわ」
「何わけわからないことを言ってるんです」
渋面を向けるが、ミーガンさんは「怪しい家だったのね」なんてひとり納得しているし。
そんな様子を見ていたレラ様が、
「変なら大工さんに聞いてみます?」
と言い出した。
「大工さんって、テリーですか?」
「そうですね、テリーさんでも」
「駄目ですよ」
「はい?」
私の頭の中には仲良く話すレラ様とイケメン大工のテリーの姿が浮かぶ。
「ですから、二人で話すのはよくないというか」
「なぜです?」
「なぜって、テリーは奥さんがいるし」
首をかしげるレラ様。
「テリーさんのことお嫌いなんですか?」
え? なんでそうなるの?
「テリーさん、フェリシア様が怒ってるみたいだって気にされてたから」
「二人だけで話したんですか?」
「ええ、気にされていたから」
「あまり話はしない方がいいと思います」
「なぜです」
「なぜでもどうしてもです!」
ついきつく言ってしまっていたようだ。
シンっとした中で、レラ様の表情が曇っていくのだけがわかる。
「フェリシア様、変です」
それだけ言うと台所へと引っ込んでしまった。




