ヒロインと悪役令嬢の物語ー5
その日の夕食は何を食べたかよく覚えていない。
「今日はフェリシア様の大好きなシチューでしたわね」
レラ様にそういわれて好物が出ていたことに気づいた。もしかしたらメイベルさんが本のお礼にメニューを考えてくれたのかしら。
ロマンス小説、気に入ってくれたのかな。
貴族令嬢が主役の小説、マニーさんの読んでいた本を思い出しハッとする。
レラ様の大事な人ってまさか。
禁断の恋?
だって、身近な人ってクロだったディーン様とジュド、それにデヴィッド様。だけどこの3人ではなさそうだし。他に独身男性はたくさんいるだろうけど。レラ様のような侯爵令嬢と会うような人って限られてるだろう。
第一、レラ様からはそんな素振りが見えない。
令嬢の禁断の恋。
表紙が中身が目の前にちらつく。
えーっ、そんなまさか。
結局、お化け屋敷を買った。
あれからレラ様に大事な人のことを聞くこともできずにいた。
大事な人が誰にしろ、私には関係ないんだから。
そうよ。友達と言っても、レラ様は侯爵令嬢で私は庶民になる一歩手前。ずっと友達でいてもらえるとは思えない。
いつか、大事な人か、どこかの貴族と結婚するだろう。
そろそろここから出ないとね。
「あたらしい場所。お化け屋敷っていってたところですか?」
「ええ、私もそこに住もうかと思ってます」
まだ直すところはたくさんあるが、住みながら直していけばいいだろう。
私はレラ様に向き直ると頭を下げた。
「今までありがとうございました」
「嫌です」
「え?」
「私も、私にもお手伝いさせてください」
真剣な表情を向けられる。
「ダメですか?」
一緒に子供たちのための場所を作っていく。それはうれしい。だけど。大事な人はいいの?
「いえ、私もうれしいですけど、でも」
「よかった! じゃあ行きましょう」
「え? え?」
途端笑顔になったレラ様はあっという間と言うか、いつの間に用意してたのか大きなトランクを箪笥の奥から出してきた。
「それは?」
「とりあえず、お洋服と香油とブラシと鏡と」
着替えやら髪を整えるものやら肌用のものやらいろいろと入っているらしい。
「あの、今から出るつもりだったんですけど」
「もちろん、私も行きますわ」
家を出る私とレラ様。
見送るお母さまのミランダ様、メイドさんたちに執事さん、従僕の人、人、人。
いや、そんな永遠の別れじゃないですよ、ね?
目をしばしばさせている私に、屋敷の奥から出てきた男性、この屋敷にお邪魔してから1回しか会っていないヴェルミリオ侯爵、レラ様のお父様だ。
いきなり私に近づくと、ぐいっと手を両手でつかんだ。
「?????」
「フェリシアさん」
「はい」
「どうか、レラをよろしく頼みます」
「は、はあ」
「レラはいい子です」
「知ってます」
「大事に大事に育ててきました」
「はい」
「どうかどうか」
「ほら、あなたったら」
横からミランダ様が侯爵の手を掴んで、私から離してくれた。
「もう行きなさい」
「はい、お母さま」
レラ様が「行きましょう」と私を馬車に促した。
そして馬車はメルクールへと向かっていく。窓から見ると、侯爵は何とも言えない歪んだような泣きそうな顔してるし、ミランダ様は笑顔で手を振ってくれている。メイドさんたちも泣いてる人はいるし頭を下げてる人、手を振っている人それぞれだが。
これ、何?
まるで遠くに行ってしまう永遠の別れというか嫁入りのようだ。
嫁入り?
手を振り終えて馬車の中で座りなおしたレラ様はこちらの視線に気づいたのかにっこりとほほ笑んだ。
思わずドキっとしてしまって慌てて車窓から手を振る真似をしていた。
家の直しはあちこちあった。
既にジミー爺さんを筆頭に知り合いの大工さんたち、左官、塗装屋、職人の人たちがうろうろしている。
私とレラ様は子供たちの本を運んでもらい、作り付けの本棚に本を収め、部屋を作っていた。
レラ様は最近お菓子作りにハマっているらしく、クッキーやらケーキやら作っては職人たちのおやつに出している。
今日も今日とて、「おやつですよ~」の言葉に職人たちがそわそわと庭に置いてある大きな台へと集まってきた。子供たちが外でも行動できるようにと、大きな四角い台のようなものを作ってもらった。テーブルよりは大きいし、馬車の荷台ぐらいの大きさがある。今もそこに大工や壁貼りの職人が座ってお茶を各自でついでいる。
クッキーを運ぶレラ様の側に飛んで行ったのはジミー爺さんの孫、テリーだ。
「いつもすみません、運びます」
「あら、テリーさん、ごめんなさいね」
にこりとするレラ様に頬を赤らめるテリー。まわりの職人たちが「テリー、顔が赤いぞ」「奥さんに怒られるぞ」と冷やかしている。
そう、テリーにはまだ結婚したばかりの奥さんがいるのだ。
マニーさんの愛読書が脳裏に浮かぶ。あれも貴族令嬢と妻帯者の大工だったじゃないの。
つい、ジト目で見ていたようで、テリーがこちらの視線に気づいて肩を震わせていた。




