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ヒロインと悪役令嬢の物語ー3

 それから数日間、私はメルクールの町へ行ったり来たりしていた。

 本を置いていた部屋がそろそろやばそうで、新たな場所を探さないといけないし、新しい仕事も探さないといけないし、な状態だった。


 しばらくはマニーさんのお店で働かせてもらえそうだが。

 ミーガンさんのハーブも人気らしいし、町での販路を任せてもらうとか。待って待って、他の町にも広げるとか。本人に聞いてみようかしら。あの崖の時以来、会ってないし。元気なのかしら。


 なんてノートとペンを片手に考えていると、レラ様が「ミーガン様のところに行きますの?」と聞かれた。

 ノートにミーガン、ハーブと書いていたようだ。


「ええ、お元気かなあ、と思って」

「そうですわよね。あの時以来、会えてませんし。ディーン様お会いに行ってないのかしら」

 ディーン様、クロだったのよねえ、と不思議な気持ちになる。


「ミーガンさん、飼い主だったんですものねえ」

「ええ、それに、ディーン様、たぶん……」

「え? まさか、そうなんですか? でもジュド様とミーガンさん、じゃないです?」

「あのおふたり、そうですわねえ」


 上を向いたレラ様は、こちらに向き直ると、

「フェリシア様、ジュド様のことをお好きだったんじゃありませんの?」

 いきなりずばりと聞いてきた。

「え? 私がですか?」


 ジュドとは、町に住むグレンという遊び人として知りあった。ふらふらして遊んでばかりいて、家から出された奴なんだろう。としか思っていなかった。何かとからんでくるし、そう悪い人間ではなさそうだったから、普通に接してはいたが。


「どちらかというと、出来の悪い兄のような存在で。あ、出来が悪いは言いすぎですね」

 一応王家の男だった。肩をすくめる私にレラ様は。

「出来はいいはずですわよ」

 と、おかしそうに笑った


 町に行っては家探しをしていたが、お化け屋敷の話を子供たちから聞いた。


「そういうとこなら安く借りれ、いえ、買えるかも」

 叔父様のところで世話になっていた私は貰ったお金を貯めこんでいたのだ。何とか、安く買いたたいて、いえ交渉して、と思いつつ、現在の持ち主を探したのだが。


「ああ、あの家かあ」

 大工であるジミーおじいちゃんは昔からの顔なじみだ。母さんが生きている時分から、つまり私がまだ2歳ぐらいのころから窓の修理や家具の修繕までやってくれていた。


「あそこはずいぶん昔に持ち主が亡くなってなあ」

 でしょうねえ。幽霊屋敷と言われているぐらいだから、人がいなくなって久しいだろう想像はつく。


「持ち主は誰なの?」

「持ち主? そりゃあ、名前は何だったか」

 遠い目をしてお茶に口をつけたジミーおじいちゃんは、

「商人の家族だったんだ。海の向こうからスパイスを運んできて、町どころか国中で売れてなあ。あっという間に大きな商家になった。それで、町はずれに大きな家を建てて。わしもまだ見習いで、棟梁の下で勉強してる時で。そうそう、小さな女の子がいてい、いつも大きなお人形をかかえてうろうろしててな。フェリシアの小さい頃は人形なんて持ってなかったなあ。あんたは大人の手伝いをしてはお駄賃をもらって歩いて」


「もうっ、わたしのことはいいから」

 お金持ちの家の子と、貧しいうちの私を比べないでほしい。ムッとしていると、ジミーおじいちゃんは、

「フェリシアもかわいかった。だがその子も負けず劣らずかわいい子で、あっそうだ、そうそう、マリー、マリーベルっちゅう名前の子だ。そうだそうだ、お父さんがハンス・コルヴィン、コルヴィン商会だ。奥さんがまた綺麗な人で、ベスさんという名前で」

 本当にきれいな人だったんだろう。若いジミー爺さんが憧れて見つめてた姿が目に浮かぶようだ。


「それで? その人たちのあとに誰が住んだの?」

「へ?」

 ぽかんとしたジミー爺さんは、

「そりゃ住んどらんよ」

「え? でも」


「コルヴィンさんたちは死んだからなあ」

「亡くなったのね。でも子孫というか、そうよ、マリーベルさんは?」

 ジミー爺さんは悲しそうに眉を下げた。


「みんな死んだんだ。殺されたんだよ」

「なんだ、え!? こ、こ、殺され?」

 そんな話は聞いたことがなかった。ジミー爺さんが若いころならずいぶんと昔の話だが。


「いったいいつ?」

「いつって、あれは家を建てて間もなかったから、60年は前か」

「そんなことがあったなんて。じゃあ、あの家が幽霊屋敷って噂は」

 肩を震わせてそう聞くと、ジミー爺さんは、ははは、と笑う。

「そりゃ、違うよ」

「何が違うの」

 あの屋敷でそんな事件があれば、恨んで出てきてもおかしくない。


「あの家で死んだわけじゃないんだ」

「え? そうなの? じゃあ」

「あの家から離れたところに教会があるだろう。その裏に墓地があるんだが、その近くに倒れてたんだ。家族3人が重なるようにしてなあ」

「そんなとこで」


 うんうんとうなづいた爺さんは、

「かわいそうになあ。あの商会で働いていた男とその仲間が犯人だったんだ。もちろん捕まっているし、恨んで出てくるなんてことはありゃせんよ」

 犯人も捕まっている。じゃあ、何でまた幽霊騒ぎになってるんだろう。


「長いこと誰も住んでないし。持ち主がいないからなあ。あのまま朽ちてしまうのか。お金もかけて頑丈に作ってある立派な屋敷なんだが」

 私は目をぱちくりとさせた。

「持ち主がいないの!?」

「ああ、コルヴィン商会もつぶれっちまって。結局、貴族様から不動産屋に渡ったが長いこと売れんでなあ」


 つまりは幽霊騒ぎで価値がなくなっているってこと?

 これは買いでは。


 でもなあ。

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