ヒロインと悪役令嬢の物語ー1
ジュドのお話に続いて、レラとフェリシアのお話です。
本来なら悪役令嬢とヒロインだった二人が、ミーガンのお話ではすっかり仲のいい友人になり……二人で町に住むことになります。
単体で読んでもわかりにくいかと……できたら最初に書いたミーガンのお話の続きとして読んでいただけたらと思います。
※こちらは女性同士の恋愛になります。プラトニックな書き方になると思いますが、それでも苦手だなと思われる方はごめんなさい。
大きな家というかお屋敷だ。
2階建てで一階には食堂、広間、図書室。2階には寝室に子供部屋、客室が数部屋。
「こんなに広いところを使えるなんてラッキーよね」
広い玄関でぐるりと家の中を見回した。
「フェリシア様、片付けは休憩して甘いものでも食べましょう」
台所から甘い匂いがすると思ったらレラがいつの間にやら最近ハマっているお菓子を作っていたらしい。
「レラ様、本の入れ替えはすみましたの?」
「あと少しです」
「やってしまったほうがラクではありません?」
「そうですけど、職人さんたちもご休憩が必要でしょ?」
みなさーん、とレラが声を掛けると、壁紙を貼っている職人や家の外壁にペンキを塗りなおしている職人や、小さな椅子や机を修繕している大工さんまでが「はーい」とえらく可愛らしく返事を返す。
ったく、私が呼んでもしぶしぶ返事するくせに。
もともといたメルクールの職人たちは小さい頃からの顔見知りで家族みたいなものだ。だから、安い工賃で色々と働いてくれて文句は言えないんだけどね。
この家は子供たちに本を読んでもらうための場所だ。
最初はメルクールの小さなアパートの一室を借りていた。もともと私と母さんが住んでいた部屋の隣が空き室でそこに本を置くことにしたのだ。
貴族になって古くなった本を処分すると聞いて、それを全部もらいうけた。
だってまだまだ読めるんだもの。
私だって町に住んでいた時は読みたい本もなかなか自由には読めなかった。特に女の子は。
だから好きに本が読める場所。できたら習いたいことを教える場所が欲しかった。
レラと友達になって、レラも本やおもちゃ、不要になったものを貴族のご令嬢たちから譲り受けて運んでくれた。ただあまりに多くの本は安普請のアパートには禁物だ。床がたわむ、斜めになる、大家さんが荒れるってことで新たな場所を探していた。
なかなか見つからなかったが、そんな中、全然売れないお屋敷があるという噂を聞いて飛びついたのだ。
そして、この屋敷へと移動することをレラ様に告げた。レラ様のお家で。
叔母様の件があり、家を出た私はレラ様の家でお世話になっていた。
事の始まりは叔母様がやらかしたことにある。
すべては愛する叔父様のためだったとは言え、王室を敵に回してはいいことは何一つない。
「爵位はく奪は間違いないだろうなあ」
母さんが死んでから突然現れた叔父さんに引き取られた私。
まさか、母さんが貴族の娘だったなんて思わなかった。
引き取られて生活が楽にはなるのかな、でも貴族なんて大変そうだし。と思っていたが、叔父様は優しい人で、奥さんは怪しげな美しさの人で寄り付きにくいかなと感じた。
実際は子供もおらず、どう扱っていいかわからないというのが本音だったようだ。
「何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってちょうだい」
「フ、フェリシアさん、こんなドレスが似合うと思うわ。髪はメイドで上手な子にやらせるから」
子供の扱いはわからないみたいだが、そう悪い人ではない。一生懸命に関係を築いてくれようとしていたし。
だが、夫への愛情のかけ方を間違ったのよねえ。出世させることが夫への愛の証って思ったんだろうなあ。
確かに爵位をあげたのは叔母様の手腕だったらしいし。それはすごいと思う。
私が王太子妃になるって話が浮上して、叔母様がやっきになったのも無理はないかなあ、まあ悪いことだけど。私も利益優先で王太子妃になりたかったから、人のことはいえないんだけどね。
「さあて、このぐらいもらっていってもいいわよね」
私は、着るものを何着かと、台所から失敬してきた小鍋やカップを入れたカバンを持ち直した。
「叔父様、私、町に戻ります」
自宅の塔に幽閉状態の叔母様に食事を運んできた叔父様を捕まえた。
「でもお前、住むところも何も」
目を丸くしてこちらを凝視する叔父様に、私は首を横に振る。
「いいえ、私は大丈夫です。叔父様もこれからが大変でしょう?」
「それは」
「私はもともと町育ちだし、生きていくすべは心得てるから大丈夫です」
私は叔父様の腕をつかんだ。
「ねえ、叔父様、私は先に町に行きます。叔母様のことが決まったら、お二人とも、私のとこにいらっしゃいませんか? 食べていくぐらいなら何とでもできます」
どう考えても、このまま暮らしていくのは無理だろう。爵位を取り上げられたら、普通の庶民として生きるしかない。命があれば、の話だが。叔母様は、どうなるか、私にもわからない。
「フェリシア……」
うつむいた叔父様は「強い子に育ったんだなあ。自分が情けないよ」
そんなことはない。自分の身がかわいければ、奥さんのことは放っておいて自分の保身に走るだろう。だが、叔父様は、王室にお詫びと叔母様の減刑の嘆願を書いて送っているらしい。そんなことをしたら自分の身もどうなるかわからないのに。
「姉上にそっくりだよ」
「そうですか?」
「ああ」
ここ何日間は、お通夜のようなお屋敷の中で久しぶりに叔父様と笑顔をかわした。




