ジュド・ロックナーの恋愛事情ー10(最終話)
メリガレットがレラ嬢とフェリシアのところに通っていた時の話も聞いた。
「本とか人形も持ってきてくれたのよ」
「メリガレット様、刺繍や縫物が上手なの、女の子たちに教えてくれて喜ばれていましたのよ」
ということだった。
驚いたのもあるが、楽しそうなメリガレットの姿が目に浮かんだ。
だからこそ悩んでいた。
手にした本をテーブルに置いた。人知れずため息が出る。
「また失恋ですか」
「なっ」
お茶を運んできたステファンが失礼なことを遠慮なく言う。こいつにこそ本をぶつけてやろうかと思ったが。
「メリガレット嬢、いいお嬢様でしたのに」
と濃い目のお茶を注いでくれた。
「今は、サヴァタニア国のクォルツ学園に交換留学生として向かわれたとか。がんばっていらっしゃることでしょう」
ステファンのいれた紅茶を口にふくむ。砂糖を多く入れたそれは苦さと甘さが共存していて、ますますかの令嬢を思い出す。
サヴァタニア国と言うと、俺たちの国より女性の勉学の場が多くなっていて、女性の仕事の場も広がっていると聞く。
フェリシアたちの話や活動は貴族の令嬢には新しく刺激的かもしれない。それを見て自分で勉強しようと決めた。そんなふうなタイプだとは。
少し、いや、かなり感心したし、頑張ってほしいとも思った。
きっと、新しい地であの子も見分を広げていくだろう。
恥ずかしそうな顔、真剣な顔、泣きそうな顔、くるくると変わる表情が頭に浮かぶ。
今よりももっと素敵な女性に成長するだろうな。
そして。
理解のある男と学校で出会うだろう。
たぶん。
ガタンっ
音を立てて椅子から立ち上がる俺を、ステファンが驚いた顔で見ている。
「どうかされましたか」
もうすっかりぬるくなってしまった紅茶を飲み干した俺は、
「紅茶うまかった、ありがとう」
「いえ」
「ちょっとディーンのとこに行ってくる」
ステファンが目を見開いたが、瞬間、口角を上げた。
「いってらっしゃいませ」
その声を聞くか聞かないうちに部屋から飛び出していた。
「お前、まだ王にはならないだろ」
城に着くなり、本が積み上げられた机についていたディーンを捕まえた。王子の勉強なのか、まさかもう王になる日が近いんじゃないよな。
多少焦りつつ聞くと、眉を上げたディーンは、
「それ、父上が聞いたら怒るぞ。まだまだ譲る気はないようだからな」
やたら勉強が多いんだ、やることもたくさんあるのに、とぶつくさ言っている。
しばらく猫だったんだからやらないといけない勉強も多いんだろう。
だが、これなら、もうしばらくは王交代はなさそうだ。
「ならいいか」
と上を向くと、
「何がだ」
目を上げるディーンに机にばんっと手を置くと顔を突き出した。
「俺をサヴァタニア国の交換留学生に推してくれ」
「サヴァタニア国」
「クォルツ学園だ」
のけ反っていたディーンが、にやりとした表情に変わる。
「ははーん、お前」
「何だよ」
余計なことを言われそうで、思わず身構えたが、
「いや、わかった、帰ったら王室のため、王国のためになるように学んできてくれるんだな」
と机の上に置いた手を組むと、いきなり真剣な顔に変わった。
俺も同じように真面目な表情を浮かべると口を真一文字にした。
「そういうことだ」
あの国には学ぶことも多そうなのは確かだ。これからの国のために新しい知識を吸収することは大切なことだとも感じていた。
「わかった。すぐ手配する。お前も行く準備をしておけ」
「ありがとう」
まじにホッとした。
いきなりの申し出に反対されるかもと思っていたんだ。
よほど安堵した顔をしていたのか、俺の顔を見ていたディーンは一転口角を上げた。
「ジュド」
「?」
「ちゃんと勉強しろよ。メリガレット嬢の尻ばかり追いかけないようにな」
「な!」
瞬間、顔が熱くなるのがわかった。
「かわいいなあ、ジュド」
「う、うるさい!」
くくく、と笑う嫌ないとこに背を向けた俺はドアを開けた。
このドアを抜け、この国を出て、新たな土地に向かう。
新たな学園で始まる生活。
新入生として現れた俺に彼女は目を白黒させるだろうか、頬を真っ赤にするだろうか。
まずは何と言って挨拶をしようか。
「これから一緒に学んでいこう。どうぞよろしく」
手を差し出してそっと握手をしよう。
本当は手をつかんでぎゅっと抱きしめたいが、それはしばらく我慢だな。
お疲れさまでした。
ジュドのお話はこれで完結となります。
留学生として旅立ったジュドさんですが、メリガレットとすんなり恋愛関係になるのか、それとも5歳のときに想われていたらしい令嬢と再会したりして、なんて想像もしていましたが(お気に入りキャラのアンドリューズも出したいななんて思ったりしましたが)
次回はフェリシアとレラのお話をあげていこうと思っています。
またよかったら覗きにきてください。
お付き合いいただきありがとうございました。




