ハーブと猫と平和に暮らせていける、かな?!
朝になって戻ってきた女におばあさんも目を瞬かせた。
「あの、これ。台所お借りしていいですか?亅
台所で持ってきたハーブをよく洗う。細かくするとティーポットを借りてその中に入れた。お湯を入れ数分蒸らす。
「これ、風邪にいいんです亅
カップにハーブティーを注ぐとおばあさんとおじいさんに勧めた。
「おじいさん、咳してたし。おばあさんも予防に亅
2人して不思議そうに、でも興味深そうにカップに口をつけた。
「すっとするね、これ。喉にいい感じだなあ亅
「予防にもなるんだねえ。これは何?亅
おばあさんが刻んだハーブをつまんで匂いを嗅いでいる。
「エルダーフラワーとタイムです。あとエキナセアと。風邪にいいハーブなんです亅
「へえ、よく知ってるねえ。若いのにえらいもんだ亅
「ほんとわざわざありがとうねえ亅
「昨日、よくしてもらって。私の方こそありがとうございました。病院の薬には劣るかもしれませんが、よかったら亅
テーブルに置いたハーブを細かく刻んだ。
「朝昼晩で一日3回ぐらい飲んでみてください。たぶん、効くと思うので。あと、これはうがいに使ってみてください亅
タイムを濃く出したものだ。
「本当にありがとうね亅
「あんた、名前はミーガンさんだったね。朝ごはん食べていきなさい亅
結局、朝ごはんまでごちそうになり平身低頭の私。クロもたらふくこちそうになり満足げだ。
そんなクロをなでながら、おじいさんが、
「あの小屋に住むんだって?」
「は、はい。ダメですかね」
「いや、誰も使ってないし、住んでも構わないだろうが、だいぶ汚いだろう。直すとこがあれば直してあげよう」
「そうね、それがいいわ。それに」
ありがたい申し出に、おばあさんも手を打つと、奥からコップや皿、小さな鍋まで持ってきてくれた。
「ほらこれもっていきなさい」
恐縮する私にハーブのお礼だからとあれこれ持たされてしまった。
さっそく、その日のうちにおじいさんや村の人が小屋を直しに来てくれた。
「まるでハイジのおんじみたいねえ」
とそばでおじいさんたちの働きを見ていたクロに言ったが、こちらを見上げ目をぱちくり。
「あー、そういう有名なお話があるのよ」
「にゃあ~」
ふーんって感じで大あくびで返された。
おじいさんの喉の調子も数日後にはすっかりよくなったらしい。小屋まで様子を見に来てくれたおばあさんからは、
「おじいさんが治ったのを見てたみたいでね。そのお茶が欲しいって人がいるのよ。風邪気味なんだって。それに胃痛とか頭痛とか効くのはないかねえ」。
「ハーブですね。胃痛や頭痛にもいいのがあると思います。すぐ用意しますね」
ハーブはいろいろと自生していて、風邪にいいもの、お腹にいいもの、等々。軽い病程度なら治せるものが多く育っている。
それらを摘んで、お茶にできるように手を加えておばあさんに持って帰ってもらった。
それから、おばあさんたちが宣伝してくれたこともあって私のハーブの需要が村の中で増えていった。
村の人たちと物々交換をして食べ物を得ることもできたし、お礼にと小屋での生活で必要なものを作ってもらったり、なおしてもらったり。
村で手が必要な作業があるときは手伝ったりもして、交流もできて村人の仲間とみなしてもらえるようにまでなっていた。
「まるでどうぶつの森みたいよね」
某ゲーム名を言うとまたもや訳のわからないことを言ってると思ったのかクロは首をかしげていた。
このまま静かに暮らしていくのかな。
なんだかそれも悪くないと思うまでになっていた。
仕事や時間に追われることもないし。私もミーガンも婚約者に裏切られて大変だったけど、この村での生活ではそんなつらいことも皆無だ。どこの誰かもわからない私の素性を詮索するでもなく、そのまま受け入れてくれる。
そんな平和な暮らしが数ヶ月、続いていた。
この世界で生きてきてわかったことは、ファンタジーのような世界で、読んでいた漫画を実写にするとこんな感じかなって思えるような世界ってこと。食べ物も生き物も以前の世界と変わらないのはありがたかった。それにハーブも。
ただ不思議なのが、国の名前も森の名前もどこかで聞いたことあるような気がすること。
転生ものだろうなあと思いつつも、何の話だか思い出せない。マンガサイトでかなりの数のマンガや小説を並行して読んでたし、ゲームにも手を出してたし。
「だいたい国の名前なんて記憶に残ってないわよ」
ねえ、と窓辺を見たが、クロはいつのまにか散歩に行ったのか姿が見えない。一方的なおしゃべり相手のいない中、私はテーブルに摘んできたハーブを広げた。
思考は読んでいた漫画や小説に飛んでいくが。
「『悪役令嬢は王子から追いかけられる』、『ヒロインかと思ったらパワー強めの令嬢でした』、悪役令嬢は聖女の~、うーん、タイトルもうろ覚えなのよねえ」
読みすぎなのは自覚していたが、毎日更新されるのを何本も読み流していたのがネックになったようだ。
「私が今いるところはリスプール王国のトフ村、森はノームの森って名前なのよね、ノームの森かあ」
ノームって聞いたことあるんだけどなあ。
と頭を悩ませつつ、ハーブをまとめると乾燥させようと小屋につるしていた。
トントン
ドアをノックする音がする。
てっきり村の誰かかなと思い、のんきに返事を返したが。
まさか平和な日常が一変することになるとは思ってもみなかった。