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ジュド・ロックナーの恋愛事情ー8

「ふふふ、ローレッタ様、うまくいってよかったですわ」

 レラ嬢がにこやかにほほ笑むが、最近このお嬢様の笑みが怖いのは俺だけだろうか。


 横からミーガンが、

「ボバリー夫人、私のところにハーブを買いにいらしてくれたのよ」

 すっかり有名なハーブ屋になっているが、いまだあの小屋にいるらしい。


「夫人が? で?」

「もちろん、ご要望の肌にいいハーブとか色々買っていただいて」


 そんな商売の話は聞いていない。が、こいつ、本当にディーンと一緒になる気はあるんだろうか。なんだか、手駒のディーンが不憫になってきた。


 くすりと笑ったミーガンは、

「ジュド様のこと聞いたわよ」

「え? 俺?」

 フェリシアとレラ嬢もにやにやとしている。


「村の子たちがね、家出したジュド様はボバリー夫人のとこにいるのよ、なんて噂してたから」

 思わず目を剥いた。

「俺が?!」

「それはいい加減な情報だったみたいよ」

「そりゃそうだろ。俺、町にいたんだし。ミーガンもフェリシアも知ってるだろう」


 ったく、何なんだ、その噂は。


「ローレッタ様も笑ってたわ。彼女、色々と話してくれて。今、好きな人がいるって」

「それが、アンドリューズの父親か」


 2人の結婚の話は既に知っている。俺だけじゃなく、誰しも驚いたビッグニュースだ。うなづいたミーガンは、

「でね、ローレッタ様のとこに滞在してたのはアンドリューズ様だったのよ」

 またもや目を見開く俺に、フェリシアが「落ち着きなさい」とお茶を手渡してきた。


「だって、あいつ、夫人の相手が父親だって気づいてなかったわけ?」

 そうみたいねえ、と3人で顔を見合わせる。


「ローレッタ様の旦那様はもう3年も前に亡くなったんでしょ」

「ボバリー伯爵だろ」

「そう、司法官をされてたのよね。うちの父も親しかったけど、特にアンドリューズ様のお父様、クルエット伯爵様とはご親友だったのよ。亡くなられたときは本当にショックを受けられて、うちの父もとても気にしてたわ」


 レラ嬢が悲しそうな表情を浮かべていたが、

「でもこの度のご結婚は本当によかったですわよね」

 嬉しそうな声を上げた。


 うんうんとうなづいたフェリシアも、

「亡くなった親友の奥様だもの。とても気にしておられたんでしょうね。その二人がご結婚かあ、素敵よね」

「そういうわけでね、ローレッタ様からすれば、アンドリューズ様は好意を寄せ始めていた方の息子でしょ。そんな方が寄ってきて邪険にするのも気が引けるし、それに素行も気になっていたんですって」


 アンドリューズのことだ。未亡人のローレッタ夫人を遊び相手にちょうどいいと思ったのか、美しいと評判だから近づいたのか。


「それで? 何もさせずに家に置いてやったのか」

「うーん、そうなんだけど。ローレッタ様、クルエット伯爵に相談されたのよ」

 と言うミーガンにフェリシアが、

「伯爵、息子のことはなんとなく気づいていたみたいよ。親世代にはいい子で通ってたけどね」

 なぜか俺を痛ましそうな顔してみるのは何故なんだ。


「ま、そんなわけで、オペラにはすすんで行ってくださるって」

 とミーガンが、話がわかる方でねえ、と嬉しそうだが。


「ちょっと待て」

「何?」

「何ですの?」

 きょとん顔の3人に俺は手を突き出した。


「オペラのボックス席と言い、ボバリー夫人の登場と言い、いったいどういうことだよ」

「何が?」

「だから、ボックスを取ったことだよ。だいたいあの日にアンドリューズがデートすることをどうやって知った。そのうえ、あいつの取ったボックス席の隣をおさえて」

 そして俺を呼び出した。


 ぜーぜー息を切らせてる俺に、にんまりと笑ったフェリシアは、

「よかったでしょ? デートの邪魔ができたんだから」


 ああ、やっぱり。

 王太子の力を存分に使ったな。


「ディーンも甘いな」

 ぽつりと言う俺に、ミーガンは赤くなるし、レラ嬢はうふふと笑みを浮かべ、フェリシアは「そうよね~」と嬉しそうだ。


 ミーガンは「でもでも、ローレッタ様の計画もあったのよ」

 と必死に説明始めた。

「どういうことだよ」


 フェリシアは焦ってるミーガンを面白そうに横目で見つつ、

「ローレッタ様がアンドリューズ様があの日にボックス席をおさえたのをうまく聞き出してくださってね。だからその日を決行の日にしようってなったの」

 首をかしげる俺に、

「ローレッタ様はクルエット伯爵に好意を持つようになって、伯爵も同じ気持ちだと感じていたのよ。だけど、亡くなった友人に遠慮があるのか、よい友人でいましょうって態度だったんですって」

「まじめでお堅い方って有名なんですもの、仕方ないですわよ」

 とこれはレラ嬢。


「だから、うちでそういう話になって、こっちはこっちでメリガレット様のことが心配だったし」

 ごほんと咳払いをしたミーガン。

「この計画がうまくいけば、アンドリューズ様の素行にも釘が差せるし、メリガレット様も助けられるでしょ。それにローレッタ様のことがおおやけになれば、ね」


 つまり、あんな騒ぎの中、アンドリューズの母親になると叫べば、多くの人間の口から噂が伝わる。クルエット伯爵は黙っているわけにいかないだろうし。二人の間が進んで行くと狙ったってわけか。


「じゃあ、あの夜以降、ローレッタ夫人とクルエット伯爵はうまくいったってことか」

「そうよ。伯爵が困ったような恥ずかしそうな顔でプロポーズしてくれたって。ローレッタ様幸せそうに話してくれたのよ」

 そういうミーガンに、にこにこしていたレラ嬢がこちらをじっと見た。

「次は、ジュド様の番ですわね」


「え?!」

 フェリシアもミーガンもうんうんとうなづいている。


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