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ジュド・ロックナーの恋愛事情ー3

「ジュド様」

「え? あ、はい」


 ふふふと笑ったアリッサは、

「メリガレット様のことも気になるでしょうけど、他のお嬢様がたもジュド様を気にしてみえるようですわよ」


 へ? と思いつつ周りに視線をやると、お嬢様から奥様達まで熱い視線がこっちに向いていることに気が付いた。


「一応、王家だからでしょ」

「またそんなこと」

 曲が終わり、すっ飛んでくる旦那のラルフを横目で見つつ、

「ジュド様自身が素敵だからですわよ。気になる方がいらっしゃるならさっさとお行きなさいませ」

 と背中をぽんと小さく押した。

 その先には、ダンスを終えたメリガレット嬢とアンドリューズが。


 近づく俺にメリガレット嬢がハッとして視線を逸らす。アンドリューズが、

「じゃあ、決まりですよ。後日ご連絡いたします」

 そっとメリガレット嬢の手にキスを落とし、なぜかこちらを見てにやり。

「やあ、ジュド。メリガレット嬢と踊りたいのかい。彼女がいいと言うならいいけど、どうかな」

「はあ?」


 こういう奴だったわ。

 何か言い返すのも面倒だな、と思っていると、メリガレット嬢が「お友達が呼んでますので」とそそくさとその場を去っていった。


「あらら」

 とにやにやが止まらなそうなアンドリューズを無視した俺は何も言わずに飲み物が置かれているテーブルへと向かった。

「やけ酒かな」

 などと言うアンドリューズの声がますます俺をいらだたせたが今はそれどこではない。


「メリガレット嬢」

 フランス窓からバルコニーに出ると、声をかけた。


「ジュド、さま」

 驚いた顔をしたメリガレットは、視線を落とす。

 どうぞ、とアルコール分のないカシスドリンクを手渡した。

「あの、ありがとうございます」


 グラスに口をつける横顔から、庭へと視線を向けた。

 バルコニーの手すりから庭を眺めた。屋敷から洩れる灯りで整備されたバラ園にガゼボが影を作っている。

 あそこでお茶会があったんだよなあ、と思いつつ、俺は口を開いた。


「メリガレット嬢、あいつ、アンドリューズはやめといた方がいいですよ」

 バルコニーには二人以外に人はいない。

「知らないかもしれませんが、女性との噂は一部の人間には有名なことで」


「何が言いたいんです?」

 はっきりした答えに思わず横を向く。


「あ、いや、ああいう奴と付き合うのはメリガレット嬢にはふさわしくないというか」

「それは、私が世間知らずだからですか」

 こちらをキッとした目で見上げてくる。


「えっと」

 実際、そういうことなのだが。

 メリガレット嬢は、

「そのぐらいのことは私でもわかります」

「それなら、あいつの誘いに乗るのはどうかと」

 後日連絡するとか言っていた。あれはデートの誘いだろう。


「聞いていたんですか?」

「聞こえたんです、どうせ、オペラにでも誘うつもりなんでしょう。そんなとこに行くべきではない」

「なぜです」

「それは」


 オペラの個室に誘われたら、あんな奴と二人っきり、どうなるかはわかりそうなもんだ。だが、言い淀む俺にメリガレットは、

「そのぐらいわかります」

「ならば」

「アンドリュース様のことはよく知りませんが、そういう噂があるというならジュド様も噂が絶えないではありませんか」

「なっ」

「私、自分の責任は自分で取れます」

 失礼します、とその場を去るメリガレットを、俺は口をぽかんと開けたまま見送っていた。


 たぶん、口を開けたまま去っていく背中を見送っていたみたいだ。

 そっとバルコニーに現れたステファンに促され、屋敷へと帰ったような気がする。はっきり言ってあまり覚えていない。




「ジュド、大丈夫?」

 顔を上げると、デヴィッドが積み上げられた書物の間から顔をのぞかせている。

 ここは、王室図書館。多くの書物が集められて保存されている。使えるのは王室の人間や、許された一部の人間のみ。


 デヴィッドはもともとここにいるのが好きでよくここにいるが、今はある研究テーマと本の作成で籠りきりになっている。


「ねえ、クオラソムプ伯爵家の夜会に参加したんでしょう?」

 思わず飲みかけていた紅茶を吹き出しそうになった。

「まあそうだけど。それよりお前は? 招待状来ただろ」

「うん、来たよ」

 明るく返された。


「夜会に参加してなかったろ」

「うん」

 うん、ってお前。


 顔に出てたのか、くすくすと笑ったデヴィッドは、

「今はありがたいことに忙しいからね、あまりそういうことに構ってる余裕はないんだ」

「伯母上も文句言えなさそうだな」


 デヴィッドの母親、現王と俺の父親の姉だ。俺もデヴィッドもそろそろ婚約者がいてもおかしくないし、結婚していてもおかしくはない。

 だが、俺もそうだが、デヴィッドも今はまだ自由にしていたいってとこなんだよな。


「いい方見つかった?」

 またもや吹き出しそうになる。

「自分で探すって言っても出会いがないとだもんね。だから夜会を開いてもらってるんだって」

「それ、誰が言ってた」

 俺のための夜会ってことかよ。


 にこりとしたデヴィッドは「母君だけど、母君は叔父上から聞いたって」

「叔父? それどっちの」

 王様か宰相をしている俺の父親か。

「両方」

「うっ」

 眉を下げたデヴィッドは、

「僕もついでにって言われたみたいだけど、これは国の仕事だしね」

 と本をぽんっと叩いた。さすがに強くは言えなかったのか。くそ、うらやましい。ふらふらしてる俺には何も言い返すことができないし。


「まあまあ、ほらこれ、レラ様が持ってきてくれたんだ」

 本の山から出てきたデヴィッドは皿に盛られたクッキーを差し出してきた。


「レラ嬢、こっちに来たの?」

「いや、僕の方からお邪魔したんだ。村にも用事があるから、そのついでに捨てるような本を寄付しに行ったんだ」

「トフ村か。あの、あいつは」

「あいつ?」

「あの、ほら、ディーンの」

「なんだ、ミーガンさんか」


「彼女なら森の家にいるよ」

「え?! そうなのか?」

 てっきりディーンの側にいるものとばかり思っていた。

「あそこが一番落ち着くんだって。ディーンは通いまくってるし、兵士も常駐してるよ」

 ミーガンの困った顔が浮かぶようだ。


「じゃあ、そろそろ行くわ」

「ジュド、ミーガンさんのとこに行くんだろ。あまり行くとディーンに怒られるよ」

「は? 怒られるようなことしないし」

 ったく、とあきれた声を背中に聞きつつ図書館を後にした。


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