好きな人が助けたから(最終話)
私はクロを大事だと思っていたし、だからだと思ってたけど。デヴィッドは? みんな、きなこを助けなきゃとと思ったんだろうけど。
首をかしげる私に、
「好きな相手というのは、僕はレラを好きだった。僕の好きな人が僕のことを助けてくれたから戻れたんです。つまり、ディーンはあなたが好きだから戻れた」
「あ」
にこっとしたデヴィッドは、
「僕は、伯爵夫人が持っていた袋をこっそり盗むと中身を飲み干したんです。てっきりそれで死ぬんだと思っていました」
と話し始めた。
薬を飲んでから身体があちこち痛くなりそのまま気を失っていたらしい。てっきり死んだと思っていたが、気付くと見知らぬ家の中。
目の前に黒い猫がいた。それがまさかディーンだなんて。
そこはクララおばあさんの家で、おばあさんが僕を運んでくれたらしかった。
ディーンから起こったことのすべてを教えてもらった。
「ごめんなさい。僕の母が」
ディーンに会えて嬉しかったが、こんな状況になったのは自分の母と伯爵夫人のせいだ。謝っても許してはもらえないだろうと思っていた。
ディーンは僕を森へと連れていくと、
「ミーガンさんのとこで一緒に暮らそう」
と言ってくれた。「きっといつか戻れるときがくる」と言って。
ディーンには色々教わった。昔からお兄さんみたいな存在だったけど。王太子の勉強で忙しくなってからはあまり交流もなくて。だからミーガンさんのところでの暮らしは小さい頃に戻ったみたい楽しかったんだ。
「ディーンは僕たちの中では長男のような位置にいた。未来の王様だしね。誰からも頼られる存在だったし、本人も自分の立場をよくわかっていたと思うよ」
デヴィッドは目を見開くと、ちょっと嬉しそうに笑みを浮かべる。
「だからそんなディーンがミーガンさんに甘えているのを見て、実をいうと驚いたんだ」
ミーガンさんが膨れるのを見て笑ってた。ミーガンさんが笑ってるのを嬉しそうに見てた。
「ディーン、ミーガンさんに一緒に寝ようと言われて知らん顔で他所に行ってたでしょ。でもね夜中、よく眠ってるミーガンさんの近くに移動してたんだ。守るようにね」
デヴィッドは、ある夜、月明かりが漏れる窓辺の下から、
「ねえ、ディーン、戻ることできるかな」
と聞いた。窓の縁に丸くなって外を見ていたディーンはベッドで眠るミーガンにふりかえると、
「きっと戻れる、きっと」
「でも」
視線を戻したディーンは外に目を移すと、
「もし戻れないとしても俺はここで彼女のそばにいるよ」
そう言ったんだ。
「好きな人に助けてもらったら元に戻れる。それはディーン自身が好きな人から助けてもらったらってこと。ディーンはあなたのことを誰よりも大事に想ってるんだ」
デヴィッドはにこりとすると、
「僕もふたりが一緒になってくれたら嬉しいな」
「デヴィッド!」
いきなり声がかかって驚いた。デヴィッドはやれやれとでもいう顔で振り返る。
「あ、ディーン」
「何してんだ」
と腕組みをしてこちらを見ている。こころなしか怒っているような。
クスクスと笑ったデヴィッドは、ウインクすると、
「ほらね」
と私に耳打ちした。
「デヴィッド」
「はいはい、すぐ行きます」
とデヴィッドはそそくさとその場を去った
「ったく」と屋敷に入っていくデヴィッドを目で追っている。さらさらとしたシルバーに近い髪に通った鼻筋。
目の前にするとやっぱりドギマギしてしまう。本当にこんな人が私のことなんて、どう考えてもありえない。私は主人公でもなんでもなく、モブみたいな存在の悪役魔女なのに。
「私も戻りますね。料理手伝わないと」
目の前をうつむきつつ通り過ぎようとした。何事もなく。
が、
「待って」
いきなり腕を掴まれた
「この前はごめん」
「この前」
あの夜のこと? だから思い出すとだめなんだってば。この顔を見せるわけにはいかない。うつむいた顔をますます下に向け、
「大丈夫です、大丈夫」
「ちょ、ちょっと、どうして下ばかり向いているの」
行く手を塞ぎ、顔を覗き込んでこようとする。
さっと横を向く。
そっちに顔を向けてくる。
反対側に顔を背ける。
「ミーガンさん!」
頬を手ではさまれた。
「熱いっ、大丈夫? 熱がある?」
手に挟まれて顔をあげさせられた私は、
「ねふはなひでふ」
両手で頬を挟まれててうまく喋れない。
「あ、ごめんごめん」
と手を離したディーンは「あ……」と一言。
真っ赤なのがばれてしまった。
「こ、これは何でもなくて、真っ赤なのはあの、恥ずかしいとかそんなんじゃなくて」
離した手をディーンは私の背中に回した。そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
「かわいい」
!?
「もごもごもご」
かわいくなんてありません、と言ってるつもりが厚い胸板に阻まれて何を言っているかわからない状態だ。
「少しは意識してくれてる?」
そっと力がゆるんで、顔を上げるとグレーがかったきれいな目が私を見つめている。
「好きだよ」
と囁いたディーンは優しく私を包み込んで、胸のあたりが温かくなる。涙まであふれそうになってきてディーンの胸に顔をうずめた私はその背中にそっと手をまわした。
お疲れさまでした。ここまでお読みいただきありがとうございました。
モブな私~、本編はここで完結となります。
これから以降の二人のことも書いていきたいな、と思っておりますが、まだ全然書いていない状態でして……
それより前に、ジュドやフェリシア、他の登場人物の短めなお話を上げていこうかなと思っています。(明日からWi-Fi環境のないところ(実家です)に行かないといけなくて、上げるのは来週に入ってからになると思いますが……)
よかったらまた覗きに来ていただけたらうれしいです。
なかなかラブラブシーンのないお話でしたが(すみません( ;∀;))最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。




