お呼ばれした家で
「ミーガンさん」
「ミーガンさん?」
ハッとして目を瞬いた。
「どうしたの?」
フェリシアが腰に腕をあて眉をしかめている。
横ではレラがうふふと笑顔を浮かべている。
「手が止まってますよ」
手元に目を落とした私はあわてて卵をとき始めた。
今日、レラとフェリシアの家が完成し、お呼ばれにやってきたのだが、朝から料理の手伝いをさせられている。
他にお客様もみえるらしいが、まさかね、と思いつつ時折手が止まっては先日の夜のことが思い出されては頭をぶんぶんと横に振っていた。
「あら、もうみえたわ」
とフェリシア。レラが手をふきつつ、
「いらっしゃいませ」
と振り返る。
「こんにちは」
「ほら、言われてたワイン、持ってきたぞ」
男性の声がする。ワインをフェリシアに手渡しているのはジュドだ。ふたりがやいやいと言い合う声とともに、
「今日は呼んでくれてありがとう」
一瞬手が止まり、持っていた柄の長いスプーンが手から落ちた。
がらんがらんと激しい音がする。
全員の目がいっせいにこちらに注がれる。
「ミーガンさん?」
レラが驚きつつも大丈夫ですか? とスプーンを拾ってくれた。
「ごめんなさい、手がすべって」
と焦る私のもとに、
「大丈夫か?」
ディーンがいつのまにか側に寄り添ってくれていて、「ひっ」と声にならない声が出てしまう。
目を見開くディーンに、
「あ、ごめんなさい。あの、卵が、スプーンが落ちて、散ったから手が汚れたから洗ってきます」
必死に言い訳だか何だかをわたわたと繰り返すと、水場へと飛んで行った。
後ろでぽかんと私を見ているディーンの視線を感じる。
ディーンの寄っていったジュドが背中をぽんぽんと叩き、フェリシアやレラが何か喋ってる。
井戸がある家の裏手に回った。
こんなにどぎまぎするなんて。
ふうっと息をついていると、
「ミーガンさん」
と声がする。
顔をあげると、見慣れない男性がひとり。
あれ? もしかして。
「デヴィッド、様?」
にこりとしたデヴィッドはぺこりと頭を下げた。
「ありがとう、ミーガンさん」
「え? え? どうしたんです。頭を上げてください」
焦って、近寄ると、頭を上げ、
「猫になってお世話になったし、母のことも刑罰がくだらないように王に言ってくれたと聞きました」
きちんとお礼が言いたいと思っていたんです、と真剣に言ってくれた。
ぎゅっと握っている手が緊張感を伝えている。おとなしいタイプの人って聞いていたし、こんなふうに話しに来るのは勇気がいったに違いない。
だけど、私の中ではあのおとなしいきなことデヴィッドが重なって見える。
「ご無事でよかったです。きなこなんて名前をつけてごめんなさい」
すると、デヴィッドはくすりと笑った。
「かわいい名前だと思います。ただきなこって何ですか?」
「あー、大豆っていうものをつぶして、とにかく美味しいものなんです」
なんて説明にデヴィッドはふんふんと真剣に聞いていた。
真面目な子なんだな。原作ではおとなしい勉強家って感じだったっけ。
「ミーガンさん、ディーンは会いに来ましたか?」
「あ、はい」
思い出すと頬がかっと熱くなる。
焦って両手で頬を抑える私を見ていたデヴィッドは、
「僕はレラ嬢が好きだったんです」
「え?!」
てっきりフェリシアのことが、と思っていたが。
「でも、彼女は僕には合わない。ディーンの相手だと思っていたし。ですが、母やバロワン伯爵夫人の思惑であんなことになって。僕はどうしていいかわからず、レラ様にも冷たい態度をとってしまったんです」
「宝玉がなる枝ですか?」
それを取ってきたらなんて言われたレラは草原に探しに行き、ケガをしてフェリシアに助けられた。
ええ、と眉をさげたデヴィッドは、
「そのことをレラに謝って、そして好きですって告白したんです」
「告白、そうですか、え?!」
淡々としゃべるデヴィッドについ普通に返してしまっていた。
「もちろん、ダメでした。彼女にはもう大事な人がいますからね」
ああ、と息を漏らした私に、
「僕が崖から落ちたとき、みんなが助けてくれて元の姿に戻れましたよね」
「ええ、聞いています。あの時は夫人を止めてくれようとしてありがとうございました。それにジュド様と幽閉されたときも」
いいんです、と手を振ったデヴィッドは、
「猫だった僕が戻れたのは、好きな相手に助けてもらえたから」
「聞いています、そんな魔法がかかっていたって」
デヴィッドはうなづくと、
「猫の姿から元に戻るには、好きな相手が命がけで助けてくれないといけない。だから僕もディーンも戻れたんです。意味わかりますか?」
ん?
「好きな相手、ですよね」
童話なんかで聞くような設定だなあと思っていた。だが、好きな相手? 主語はどうなってる?




